帰路
王妃の言葉で場が静まり返り、次の言葉を待っていたが、王妃はそれだけ言うと着席し、こちらを眺めるだけであった。
俺と王様は冷や汗ダラダラ流しているんですけどね。
そのままお開きとなり、謁見の間での会見を終えたがもう胃が痛い。慣れないことをするもんじゃないな。クレア王女もお怒りのご様子で。
「ハルト様の浮気性がここまで酷いとは思いませんでしたわ」
「浮気性って…、俺は結局のところ元人間であって、ダンジョンマスターに過ぎないのですよ」
それはわかってはいましたが…、と呟いて顔を伏せる。俺は人類側というよりは魔王側だからな。正確なことは何一つわかっていないが、ここはまだ俺を敵視するようなものは少ない。境界の街に不況をもたらした元凶だという認識くらいなものだろう。だが、いずれダンジョンマスターだと認知されれば討伐される可能性もなくはない。
やれることはやっておきたい。
「ハルトが王都に期待といったのは外交ルートを確保するためだったのか?」
「それがメインですが、今すぐに確保できなくてもいいんですよ。前にも言ったように、ラビリンスアースは1国が管理するにはあまりにも広大すぎる」
「いずれ開拓村が発展し、国にもなれば、不満を持つものが違う場所で国を作り始めてしまうと」
「ええ」
「それを避けるためにあえて先立って他の勢力に土地の一部を明け渡す算段だったと」
「そういうことですね」
「ふむ、そうして自分はダンジョンマスターとして一定の地位を確立すると」
それだと生きていくのに楽ができなさそうだから、元いた世界のスイスのような国の王様でもやろうかなと考えてたり、口には出さんがな。
「ですが、お母様にもバレてしまいましたね」
「本当に伝えていないんですよね?っていうかあの人なんなんですか?めちゃくちゃな強さでしたよ」
ただの直感だが、一瞬で死を認識するくらいには化け物だったぞ。
「ダンジョンマスターとしての本能かもしれませんね」
「いや、それならアリアさんに反応していない時点で機能していなくね?」
「なるほど、熟女好きと?」
「なんの話だよ!?」
久しぶりにワイズちゃんのボケを食らってしまった。
「お母様にも浮気ですか?」
「ないです」
「ですよね。でもよくお母様の強さがわかりましたね」
「あ、やっぱり強いんだ」
「ええ、ノースランド最強にして、最難関ダンジョン唯一の踏破者です。確かレベルは700を超えていたかと」
もう王妃が勇者やった方がいいんでね?
やるべきことはやって、王都をとりあえず2、3日観光したのちに帰ることになった。面白いところとかは多少あったが、最初のインパクトが一番強くて、それ以外は王都の街だなという印象。別段変わったところも少なく、ダンジョン作りに参考になりそうなところは少なかった。
「それでは帰りましょうか」
「姫様的にはいってきますでしょうに」
「ラビリンスアースが帰る場所ですわ」
「勝手に住み着かれているし」
「ひどいですわダーリン」
「はいはい」
いつも通りのやり取りを終え、自身のダンジョンへと向かう。道中強い敵にもスタンピードにも遭遇することなく旅路は順調であった。
「ようやくここまで帰ってこれたな」
「まだ着いてないだろ」
「隊長さんが大怪我おった砦ですよ」
「いやな思い出になりつつある」
「普通に格好よかったですよ」
ヒーロー感あったな。戦闘はアリアさんが無双していたし、魔族と初対面の場所だ。ダンジョンにも初めて入ったところでもある。
「あれから変わりはありませんか?」
「さすがに連夜スタンピードみたいなことは起きませんよ。最近までは皆緊張感をもって警備にあたっていましたが、普段通りの落ち着きを取り戻しています」
クレア王女と砦の指揮官さんが会話している。俺は魔族の墓の元へと向かう。敵だろうとこっそり墓を建ててあげたからな。一応参拝しておこう。土葬するとゾンビに、軽い火葬だとスケルトンに化けるというから灰になってしまった魔族に南無阿弥陀仏。仏教効くか知らんけど。
墓参りを終えるとクレア王女の顔が曇っていた。伝書が届いたらしい。
「すみませんハルト。私はここでお別れになります」
勘が働いて、なんのことだかはすぐにわかった。
「勇者ですか?」
「ええ、思った以上に成長が早かったこともあり、一度最難関ダンジョンに挑戦させて欲しいと」
「もう来ているのですか…」
「いえ、まだ国境を超えたとだけしか情報は入っておりませんが、私はこれから終焉の街の方へ向かいます」
「了解です。って隊長さんも護衛いないのか…」
「いえ、部隊がアースラビリンスにいますので隊長はアースラビリンスに向かわせます。でなければ、ここにハルトを残しては飢え死にしてしまいます」
襲われて死ぬんじゃなくて飢え死になのかよ。
国の地図を見せてもらったことがあり、ここら辺はウェストランドに近い地方だということは知っている。伝書の方が早いだろうが、勇者がすぐに終焉の街に到着する可能性もある。国家をまたぐ重要人物ということもあり、前もって出迎える準備をしなければならないらしい。体裁っていうのは面倒なものだな。
ダンジョンと終焉の街は近くにあるとはいえ、移動にかなりの時間を要する。クレア王女たちには寄り道する時間もないのだろう。
「了解しました。すぐにでもラビリンスアースに戻りましょう。隊長さんもその方がいいでしょう」
隊長さんがこくりと頷いて俺たちは姫様たちより一足先に出発し、自身のダンジョンを目指す。
「静かになりましたね」
「だな」
「…さみしいのですか?」
「んなわけあるか」
隊長さんとワイズちゃんでこそこそと話さないでくれませんかね!




