魔物の群れ
王都と終焉の街をつなぐ道中の途中にある1つの砦で緊急事態が発生した。部隊1つが消息を絶っている状況に、砦の守備隊の指揮官がクレア王女とアリアに相談。最終的にはクレア王女の部隊の隊長さんが調査へ赴いたわけだが、長距離を歩いた疲れを一睡して癒し、8時間経った今でも隊長は帰ってこない。片道2時間の道のりらしい。俺と違って鍛えているが眠らずに動き続けている隊長はさすがに心配なのだが、クレア王女もアリアもまったく心配していないような、貸切の広間で本を読んでくつろいでいる。むしろ横にいる砦の指揮官の貧乏ゆすりがめちゃくちゃに気になる。
「むぅ…」
あと、声にも出さなくていいから、いい歳したおっさんがそわそわしていてもうざったいだけだぞ。
「うつっていますよ」
はっ!?
まさか俺も貧乏ゆすりしていたとは…。
「大丈夫でしょう」
「大丈夫って、いや、だがなあ…。いくら隊長さんが強いとはいえ、不眠不休で活動するにも限界があるんじゃないか?」
「いえ、あのレベル帯の人間ならば無理をすれば3日くらいは動き続けられるでしょう」
「レベル概念がいまだに受け入れられねえわ」
そんなたわいもない話をし始めたとき、砦の外が少し騒がしくなった。
「一佐はおられますか!?」
「何事だ」
砦の指揮官さんが、慌てて入室してきた部下に対応する。
「スタンピードです!」
「スタンピードだと!?」
スタンピードとは?
「魔物が群れをなしている状況ですね」
「それってここに来る途中にもあっただろ?」
「規模が違います。同種の群れではなく、魔物の群れ。つまり、多種多様な魔物が群れをなしている状況をスタンピードと言います。それは数にすれば1000体を超える量になります」
「1000体!?」
ワイズちゃんの説明を聞いていたらクレア王女やアリアさんもせわしなく動き始めた。
「部隊消滅はスタンピードが原因であり、そのことで隊長が帰還しているが、傷を負っているとのことです」
「治療は俺があたりますよ」
簡単な治療くらいならここに来る道中で教えてもらったしな。クレア王女もいつも以上に鋭い目つきをしている。
「お願いしますね」
そういってクレア王女は指揮官とともに砦の駐屯兵の招集を開始した。俺は医務室に移動し、運ばれている隊長を見つける。全身血だらけだ。そばには他にも血まみれの兵隊さんが何人もいた。
「隊長は俺が見ます」
「ああ、姫様のお付きの方か。頼みます」
俺は回復薬を用意し、治療に当たる。痛みに暴れる隊長さんをワイズちゃんと押さえ込みながら治療に当たる。鎮静作用が聞いてきたおかげで隊長の動きも収まってきた。そしてしっかりとした意識をもって俺を見る。
「大丈夫ですか?」
「ああ…、一応な。…少しヘマした」
「ヘマですか」
「いくら一個体が弱いからといって多勢に無勢。調査だけでよかった任務を部隊の救出までやることはなかったな…」
「それヘマですか?」
「ださいだろ?」
「かっこいいっすよ」
ハルトが俺ならどうしたかな?と最後に呟いて隊長さんは鎮静作用で眠りについた。俺ならどうしただろうな。力があれば守っただろうか?
答えの出ない思考を放棄して隊長以外の傷ついた兵たちの治療を手伝う。
そうして10分もしないうちに治療は終えたが、外を眺めると黒い霧が遠くに沸いている。平原を遥か遠くに存在する黒い霧は少しずつ大きくなってきていた。俺は医務室から出て、クレア王女とアリアさんのところに駆けつける。
「治療はひとまず終えました。あれがスタンピードですか?」
「ああ、ハルトは下がっていろ」
「わかっていますが…」
黒い霧はだんだんと魔物の各個体を認識できるようになってきた。空中を浮く個体で相当な量がいるが、地面はまさしく黒一色だった。
「ゴブリンたちも黒くなってる?」
「スタンピードの特徴ですよ。集まった魔物たちは魔力で黒いオーラを纏うためですね。理由は話せば長くなりますが、魔物の生態のうちの1つですね。野生動物との違いの1つでもあります」
「へー、ってそんなことより、とりあえずやばいんだな?」
「やばいですね」
ワイズちゃん講座の受講が今日は多くなっているな。
「まずいな」
「やっぱりやばいのか…」
「いや、一体一体は私たちからすれば大したことはないし、この砦に駐屯している兵でも容易に勝てる相手だろう」
「数が多くてもアリアさんなら無双できるのでは?」
「私ならな、だがハルトは装備がなければ一撃で倒されてしまう。装備があってもそんなには耐えられないからな。ゆえに私はここに残ることになる」
「やばい原因俺かよ!?」
「もちろん姫様の護衛としての立場もあるから動くことはできん。そうなると数を減らすのにも時間がかかり、長期戦を見据えれば、駐屯している兵が戦死する可能性も出てくる」
参った。ここまで俺の成長しない体質が足を引っ張ることになるとはな。
「アリア、片付けてきなさい」
「ですが…、私とワイズちゃんでハルト様をお守りします」
「…大丈夫でしょうか?」
「長期的な戦いでもし押し込まれれば万が一にもハルト様に危険が及ぶかもしれません」
「了解しました」
クレア王女の言葉にアリアは戦闘態勢に入った。眼光鋭く、剣を鞘から抜いて、腰を低くし、そして前に跳んだ。
「うおっ!?」
反動で地面がちょっと揺れたぞ!?
「って、文字通り風穴開けてるし…」
「アリアの無双が見れそうね」
「…姫様もできるのでは?」
「おほほ、か弱い乙女があのような芸当などできませんこと」
あんたもレベル3桁でしょうが。それにしてもアリアさんは強い魔物だろうが、大勢の魔物だろうが結局無双するんだな。
「アリアさんが前線にいた方が俺たちは安全かもな」
「ええ、アリアの力量であれば問題はないで———」
え?
後ろで剣と剣がぶつかる音がして、振り返るとクレア王女と誰かが鍔迫り合いになっていた。
「な、なんだ!?」
やべえ、腰が抜けた。くそっ、この場にいたらまずい、まずいんだ!?
咄嗟に危険を感知するが動けない。
「よく受け止めたな」
「魔族っ!?くっ、せいっ!」
「おっと、…大した力だ。か弱い王女ではないと聞いていたが、どうやら骨が折れそうだな」
翼の生えたクレア王女が魔族と称した男は空中を漂っている。見るからにやばいやつだ。
「ワイズちゃん…?」
懐からチェーンソーを取り出したワイズちゃんが一歩前に出る。
「ハルト様、下がっていてくださいね」
「いや、腰抜けちゃって下がれない」
「はあ…」
いや、この緊迫した状況でため息つかないでよ。仕方ないじゃん。




