王都へ
「右よし左よし」
「ダンジョン出て早々何しているのですか?」
「いやー、最近強いモンスター溢れてるらしいからね。俺は即座に逃げなきゃいかんのですよ」
「クソ雑魚ナメクジマスターのままですからね」
「一応装備は作ったんだけどなあ…」
これから王都に向かう。色々と王様に説明しなきゃならないし、俺のやりたいこともあるし。一部気乗りはしないが。
ダンジョンカタログから2日分のMPを投与して防具を新調した。もっちもダンジョンマスターの特性上、本体が全くと言っていいほど強くないので一撃耐えられれば儲け物みたいなものだ。
「ダンジョンマスターでもおそらくですが強くなる方法はありますよ」
「マジでか?」
「うちが保有する最難関ダンジョンのコスモ・エクステリアには能力上昇の実をドロップする敵がいますからね」
「最難関?」
「ええ、これから勇者がそのダンジョンに挑むことにはなっていますが」
「ふーん」
「私は下見がてら終焉の街を訪れていたのですよ」
要約するに、姫様はコスモ・エクステリアというダンジョンの下見ならびに、周辺の異変の調査を行いながら、勇者がレベルアップをスムーズにできるような環境づくりをするために終焉の街に訪れており、コスモ・エクステリアには、まだ挑むことさえできないカイト王子が終焉の街の周辺調査を行っていたという。その際に俺のダンジョンに踏み入ったそうだ。
「へー、でもここが見つかってからずっとここに居なかった?」
「問題がなかったので市長に丸投げしておきました」
「そういえば、終焉の街に行った際にそんなこと話していたな」
食事会のときは飯が美味くて会話は半分以上スルーしてた。
「まあでも最難関ダンジョンなんだろう?」
「ですよ、アリアでさえ最深部に到達することができないほどですから」
「どんな鬼畜よ」
「基本的に浮いた状態で息苦しいらしいです」
名前の通り、宇宙やん。
空気なし重力なしとか、やばすぎるダンジョンだな。そんなダンジョンに最深部とかあるんかい。
「え…、アリアさん多少は攻略できるの?」
「5時間くらいしか潜れないらしいです」
「人外やんけ」
首筋に剣が突きつけられるが褒め言葉ですよと呟けば、剣は鞘に収まった。
「それにしても勇者ねえ」
「どんな人なんでしょうね」
「同じ地球出身らしいけど、日本人かな?」
「どうでしょうね」
「ははは…、あんまり会いたくないなあ」
「人見知り発動ですか?」
「いや、なんか複雑じゃね?あっちは勇者で俺はダンマス、あっちは強くて俺はクソ雑魚、あっちはウェストランドで、俺はノースランド。なんだか仲良くできる気がしねえ」
「クレアを取り合った仲ですからね」
「それはウェストランドの王様だろ、なんの捏造だよ」
ダーリンって振り返らなくていいから、はいはい。冗談ですよー。
「いい加減認めたらどうですか?」
「まだ早いだろ。それに姫様もまだ何か企んでるし」
「気づいていましたか」
声のトーンを抑え目に前を進む2人には聞こえないように話す。すぐ近くを歩く隊長さんには後で口止めしておかないとな。目逸らしてるけど。
「クレアも姫という立場に収まらない野望をお持ちのようで」
「シンプルに国の発展とかならわかるんだが、なんかそれ以上のことをしたいようだからな」
「4カ国を牛耳るとか?」
「…ありえそうで嫌だな」
「なるほど、だからアリアの誘いを受けないのですね」
「それだけじゃないけどな。俺はワイズちゃんがナンバー1だぞ」
「迷惑です」
即答の悲しみ。
道中で危険なモンスターは現れなかったが、俺1人なら確実にやられているくらいのモンスターが群れで攻撃してきたりと、後方からただ眺めているだけのお荷物をやっていながら、王都と終焉の街の中間にある砦の1つにたどり着いた。
「冒険者とかも多いんだなあ…」
「こういう中継地点がないと夜もまともに眠れないからなあ」
俺の独り言に隊長さんが反応した。
「隊長もこういう砦勤務とかしたんですか?」
「したよ。10年くらい前だけど、給料は良いが娯楽が一切なく、ずっと警戒だからな。すぐに参った」
「それで姫様直属の部隊とか?」
「別に直属ではないぞ」
違ったんか。もうかれこれひと月以上一緒にいるから直属だと思っとった。姫様があたる調査の付き添い部隊として動いたため、姫様の指示のもと1ヶ月も開拓暮らしになったという。
「なんだかんだ、街づくりは楽しかったぞ」
「それは良かった」
「もう水まで引いたからな。ある程度やることは終えただろ」
「もう人も入ってくる頃合いですからね。次はどんな分割ダンジョンを作ろうかと思案中です」
「なるほど、現実逃避か」
「なんでみんなナチュラルに人の心を読んでくるんかなー」
「王様に会うのは憂鬱だろう。まあまあ堅物だしな」
「いや、そこは嘘でも優しい人ですよとか言って欲しかったです」
「ちゃんと現実見ようぜ」
凹むぜ。
「隊長、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか?」
アリアさんが隊長さんに声をかける。初めてきたばかりではあるが、なんだか砦の中も喧騒が絶えない。
「行方不明になっている部隊が近くであったらしい」
「部隊がですか?」
「ああ、丸々1つだ」
「そんなことが?」
「部隊の消息を絶った話は久しく聞かないが、この砦を守る大佐が狼狽していてな」
ここまで旅は順調だったが、初日の最後に何やら不穏なことが起きているらしい。
「最近モンスターの行動が激化しているからな、私も調査に出向きたいが、私はクレア様とハルトを守らなければならない」
「そこで私ですか?」
「ああ、頼めるか?」
「…わかりました。調査でいいのですね」
「危険と判断したらすぐに帰還してくれ」
「了解」
隊長さんは休むことなく、すぐに調査へ向かう準備をする。日が暮れるまであと2時間ほどだが、大丈夫なのだろうか。俺は何も言えずに、準備を整えた隊長さんを見送る。
「本当に大丈夫ですか?」
「…私以外に一番生還率が高い人が隊長だっただけだ」
「…そんなにやばいことなんですか?」
「わかるか」
「隠し事下手ですよ」
「はあ…、ハルトに言われるとは落ち込むな」
「どういうことだし!?」
「まあ、落ち着け。ことがことなら私が出ればいい」
最強の戦力は動かせないらしい。クレア王女を見れば首を横に一回振って無理だと合図される。
何事もないといいが…。




