ロイドとハルト
なんだここは!?
「ダンジョンの中に街がある」
「いや、そうだよな?」
終焉の街から噂のダンジョンのある街までは街路が整備されて比較的安全に移動ができた。街で聞いていたように、護衛を雇う必要がないほどに安全な道のりだった。道中に王国兵が4カ所も駐屯所があるおかげだろう。
山の中腹にあるダンジョンまで足を運べば入り口に最後の駐屯地があり、中へは身分証明があれば通された。特に説明もされずに商人というだけで警戒の一つでもされておかしくないというのにだ。
そして通されたのちに立て札のあるダンジョンを抜ければ青空が広がる広大な大地に到着した。
「どういうことだ?」
「これは…、ダンジョンなのか?いや、異世界か?」
「異世界?…確かに異世界についたような感覚だ…」
俺ことロイドとフリックは足を棒立ちにした状態で世界を眺めていた。
「荒廃した自然じゃない…、モンスターが影一つないぞ」
「すげえ…、昔のエルフたちがいっていた魔王登場以前の世界の風景ってこの景色なのかもしれないな…」
「ああ…」
感傷に浸っていると、前から荷馬車を引いた王国兵の一団がやってくる。
「おい、邪魔だぞ」
「すみません」
「あ?お前ら商人か?」
40代くらいのおっさんの王国兵がこっちを眺めて口を開いた。
「え、ええ…」
「おおー、ようやく運び屋がやってきぜ。最近戦闘してないから腕が鈍って仕方ねえ」
「えっと…?」
「うん?ああーまだ来たばっかりか。じゃあここがどこだかわからねえのか?」
「あ、はい…」
「ここはアースラビリンス。ダンジョンだ」
「ダンジョン………ですか…」
「ま、そうなるわな。まるで新しい世界に来た感覚だろうな」
ダンジョン。俺たちが考えるダンジョンは暗い洞窟のようなもの。特別なダンジョンは確かに世界に点在している。まるで古代遺跡のようなダンジョンから天界と称される神秘的なダンジョン。だが、太陽が浮かんでいるダンジョンは初めて聞いたし、実際にも初めてみた。
「特別具合でいえば、うちのノースランドにある最難関と言われるコスモ・エクステリアをはるかに凌ぐだろうな」
「あのダンジョンよりもですか…」
「難易度はクソ簡単だろうけど」
「え?」
特別なだけで難易度は低い?
「師団長、怒られますよ」
「大丈夫だ。ハルトの耳に入っても姫様の耳に入らなきゃセーフだ」
「なんでハルトさんはセーフなのか」
「セーフだろう?」
「あの人ならセーフでしょうけど…」
姫様に伝わったら打ち首もいいところだぜ、という小言が聞こえる。やはり第一王女が絡んでいるのだろうな。だが、ハルトとは誰だろうか。そしてなぜダンジョンの攻略が簡易だと第一王女に伝わってはまずいのだろうか。
「とりあえず、あの駐屯地のハルトって人を訪ねてみな。仕事くれるぜ」
「ありがとうございます」
そういって重そうな荷馬車を4人がかりで運んでいく。
「すごい量の鉄鉱石だったな」
「ああ、それに純度も高そうだな」
フリックも俺と同じように注視していたみたいだ。だが、あれだけの鉄鉱石をどこで調達するのだろうか。人影は見えるが、モンスターはまったく影が見えない。
「あれじゃねえか?」
「あれ?」
「あの遠く見える塔のような建物があるだろ」
「ああ、人も集まっているな」
「しかも何か作業をしている。もしかしたらあれがアイアンスライムが出てくるダンジョンなのだろうか?」
「ダンジョンの中にダンジョンがあるのか?」
「さあ?特別なダンジョンというから俺たちの理解の外かもしれないな」
駐屯所もようやく大所帯な感じで村を脱却して街になりつつある。
「ハルト、いるか?」
「なんですか?」
隊長さんが顔を出す。俺の駐屯所の場所も木造建築となり、ギルドマスターのエリス主導の元、ギルドらしさ満載の場所となっている。いわゆる大広間には人が溢れ、役所の面もあるここで色々な申請を行っている。奥の部屋が俺専用の部屋であり訪ねてくる人物は限られてくる。そこに隊長さんが顔を出すのは非常に珍しい。
「商人がお前を訪ねに来たぞ」
「商人?」
「境界の街出身の商人だとさ」
「境界?ああ、鉱山街か…、案外早かったな」
となりで紅茶を嗜みながら読書していたワイズちゃんを連れて面談室に移る。終焉の街の市長のときに使って以来だ。
「商人ねえ」
護衛で隊長さんがそのままついて来てくれていた。
「待たせましたね。いらっしゃい」
「お邪魔しております」
商人ねえ。三十路を超えた年齢の貫禄のある男性がいた。体つきも屈強と言える。
本当に商人か?
「私はロイド、こちらはフリックです」
「私はハルトと言います。おふた方とも商いを?」
「ええ、本来は別々に仕事をしております」
「境界の街からわざわざ来られたということで」
「苦労はしませんでした。街路も整備されていましたので」
「そうですか」
どうやら、俺の意図を理解しているようだ。最初に来る商人なら俺の狙いとその影響に気づいていると踏んだが、どうやら当たりみたいだ。
「最近、ここ一月ほどでしょうか。境界の街が少しずつ不況でして」
「鉄が売れないようですね」
「…ええ、境界の街と終焉の街の距離も遠いので高値になっていましたからね。近くで鉄が取れればそちらに切り替えるでしょう」
「ここなら4時間ほどですからね」
俺の直球に少しの間だけ目を丸くしていたが、ロイドはすぐに表情を戻していた。
「この町、いえ、駐屯地はいずれ街に発展させるおつもりでしょうか?」
「いえ、違いますよ」
「ご冗談を、誰の目にも街にするようにしか見えませんよ?」
「…違いますよ」
「…では?」
「国です」
「く、…に?」
「ええ、ここはノースランドではありませんので」
ノースランドの王国兵使って開拓しているがな。
「………ノースランドにあるダンジョンならば、その所有権はノースランドにあるはずですが…」
「所有権を主張するなら、やってみろとしか思いませんね」
「…どういうことでしょうか?」
「1人という単位には限界があるように1国という単位にも限界がある。ましてや数百万人ごときでこのダンジョンを支配しようなど生ぬるい」
「っ!?」
「そういった事情であくまでもノースランドはこの地の所有権の一端を手に入れている状態です」
「所有権の一端…」
「ええ、あなたがたもノースランドの商人なら、ノースランドの範囲の活動であればご自由にどうぞ」
「そうですか…」
「端から端まで歩いて約半年程の距離ですけどね」
「え?」
「この地はあくまでノースランドの所有権のある駐屯地です。第一王女に交渉をすればいくつか物資を売ってくれるでしょう。私の許可とかそういったものは不要ですので」
俺はその言葉を残して面談室を後にした。頭の回転が早いならこれだけ言えば通じるだろう。
「どうやら、思ってたのと違ったな、色々と想像以上だ」
「文句の一つも言ってやろうと思っていたんだがな。先制されて文句ひとつ残せなかった」
「若いのにこちらの意図を理解した上で言葉を遮っていたな」
境界の街は絶対に衰退するだろう。そこに住む人々はもちろん、仕事柄移動する俺たちも拠点としている場所が衰退するのは悲しい。その原因になるこの地の、おそらくはお偉いさんだろうハルトに一言文句を言おうと思っていた。
「ハルトだったか、彼がいうにはこの地はノースランドじゃないと…」
「それがもし本当なら利権争いと化す。もし他の諸外国がこの地に乱入してくれば戦争すら起きる」
新世界と称すればいいのだろう。ノースランドのある意味で発展させる大事な土地になるだろうが、それは目の前にぶら下がっている果実、それを他の者に取られないように急いで収穫しなければならない。
「境界の街一つにこだわっている場合じゃないな」
「急速な発展が1箇所なら多少特別に商いをするだろうが、もしこの地に4つも5つも急速に発展する街ができてみろ。初動に遅れた者はまぬけに他ならない。商人として大成するならこのチャンスを逃したら負けだ」
「もし勝ったら、今いる大商人たちを顎で使えるかもな」
もちろん、それが本当なら。だが、根拠はある。第一王女が主導でこの地の発展に貢献している。それ一つだけで理由は十二分だが、俺たちはこの地を一度眺めている。圧巻の一言。この地に身を移すことも簡単に考えさせられるほどだ。
「最初に何が起きる?」
「終焉の街に多くの人が集まっていた…」
「人の流入か」
「ああ、世界はモンスターで溢れている。そのせいで日銭しか稼げないような連中が、モンスターの1匹も見えないこの地に大量に入り込んで来るはずだ」
「本人は煙たがっていたが、やはり鍵はハルトになりそうだな。そして次に起きるのは…」
「そこはハルトの力量だろうよ」
「若いのになかなかやばい道を渡るものだ」
「若気の至りに巻き込まれたくはないがな。ところで、最初にやることができたな」
気乗りはしないが、第一王女を尋ねないといけないだろうな。最初に会った王国兵の師団長の言葉を思い出してしまう。




