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ダンジョンの国の王様  作者: てるいち
街づくり
26/79

商人、ロイド

 俺の名はロイド。ノースランド王国を主に拠点にしている商人だ。最近ちまたの噂になっているのが、終焉の街周辺に突如として鉱石街が現れたという噂だ。


「鉱石街が、現れたねえ…」

「そんなことあるか?キノコじゃあるまいし街が何もないところに生えるかよ」


 俺もそんな噂話は信じたりはしないが、どうにも終焉の街が鉄を買わなくなったという影響がちらほら耳に入ってくるのは確かだ。あの近辺には鉱山がないため鉄を手に入れる方法はほとんど存在しないはずである。しかし買っていないのは明確であり、その影響は俺たち商人にも現れている。鉱山で有名な境界の街の鉄が売れなくなりつつある。もともと終焉の街に卸す量はそれほど多くはないが、その収入が0になれば大きな経済的な痛手を負う。特に現場作業の人間たちにはすぐにその影響が現れる。


「そういや、もう商売上がったりだって言ってたっけ?」

「ああ、ロイドは問題ないだろうが、俺のような固定ルートでやりくりしていた商人は仕事がねえ」


 災難だな。俺は独自のルートをいくつか持っている。それに野戦もそこそこ戦えるから、護衛を雇う金額も抑えられ出費が軽くて済む。


「フリックだけじゃないだろうな…」

「まあ、俺はあの中じゃマシの方だろ。陸路4日の長距離護衛は冒険者にとっても割のいい職だったしな。問題はこっちの食糧事情だ。終焉の街に鉄を卸せないなら帰りで食料の確保ができねえ。境界の街だけじゃ自給自足はできない」

「そうか…、…バカみたいな噂を信じるほかないか」

「信じるって、そんなバカな」

「2、3日前に終焉の街の周辺から冒険者が金を売りにきたって話題があったよな」

「鉱山街に金を卸す所業か。喧嘩売ってるのか?」

「いや、あれはおそらく宣伝なのだろう」

「宣伝?」

「本当に街が生えているなら交易路の確保をしようと思わないか?俺がその街の市長なら近場には太いルートを確保するぜ、このご時世だ。近所の街が最強の友さ」

「このご時世ね」


 数百年前までは人類が生態系の頂点だった。それが魔王が現れてからモンスターに住処を追いやられ、防壁の中で籠城暮らしが主流になった。最近ではウェストランドで勇者が召喚されたとか、モンスター時代に終焉を打つとか色々な噂が少し前に飛び交っていたが、変わらない現状に噂は次第に消えていった。


「嫌な世の中だねえ」

「エルフじゃあるまいし、俺たち生まれた時からこんな世界だろうさ」

「人類が天下取ってた頃はどうだったんだろうな」

「歴史のお勉強か?」

「貴族じゃあるまいし」


 長いこと商人やっていれば長寿のエルフと話す機会もあるが、昔のことはエルフたちは話したがらない。あまりいい世界じゃなかったのかもしれないな。


「それで、話は戻すが、あの噂信じるのか?」

「火のないところに煙は立たないが、俺は2つ根拠があれば信じるタイプだ」

「不自然に金を売りにきた冒険者と売れない鉄事情か」

「フリックもそうだろ?」

「…まあ、そうだな。だが、俺はお前と違って戦闘は得意じゃないからな。終焉の街に行くだけでも一苦労だよ」

「今暇してる冒険者がたくさんいるだろう」

「赤字じゃねえか」

「暇しているなら割と安く雇えるかもしれないが?」

「あまりふっかけるなよ。奴らプライドだけは人一倍強いからな」

「知ってるよ。俺だって元冒険者だ」

「そうだったな」


 俺は終焉の街に向かう必要はないが、経済が逼迫した状態にありながら、金の匂いがした。直感に頼るのは本来商人がすべきじゃないことだが、どうも冒険者時代の血が騒いでる。


「金のなる木を逃すわけにはいかないだろう」

「枯れていなければいいな」


 単に金を卸したのがアホで、終焉の街が経営破綻した状況ならただの旅行だな。




「驚いたな」

「ああ」


 終焉の街に4日かかる道のりを俺たちは3日でたどり着いた。それは途中から道の整備が行われていたためだ。行っていたのは王国兵であり、話を聞けば第一王女が主導で行っているとのことだ。


「第一王女が絡んでいたとはな」

「だが、あの王女ウェストランドのアレと結婚するんじゃなかったか?」

「アレって、…まあ、アレだわな」

「アレだ」

「まあ、それはいいとして、久しく行っていなかった道の整備の指示なんてな。しかも陸路で4日もかかる距離をか?」

「いや、途中の分岐があっただろう」

「あれか…」


 境界の街から終焉の街まで、最初の2/3はほとんど荒れ果てたいつもの陸路だったが、残りの1/3は石畳になっていた。しかも動員されている王国兵の数がとんでもない人数である。


「しかもこの賑わいか」

「人が溢れてる」


 仕事が多いのか、終焉の街にこんなにも人が道を埋め尽くしている状況を見るのは初めてだ。


「あれはカイト王子じゃないか?」

「次期国王までいるのかよ」


 いよいよただ事じゃないな。これは本当に街でも作っているのだろうか。


「おばちゃん、久しぶり」

「おおー、ロイド久しぶりねえ」


 もうおばあちゃんになりつつある顔なじみの八百屋のおばさんに声をかける。隣では孫が忙しそうに食べ物を並べている。


「なんかあったのか?」

「うん?ああ、そういえばロイドは知らないのかい。最近近場で姫様が街を作ってねえ、それで今は色々なものが飛ぶように売れているのよ。王都からも人が集まってきてるし」

「へえ、飛ぶように?」

「主に食料ね。それで市長が鉄をその街から大量に買っているのよ」

「鉄がこの辺で取れるのか」

「山の方だけどね」

「あの危険地帯に?」

「まあ、ちょっと危険な場所よ」


 確かに危険地帯といっても草原地帯より少しだけ危険というくらいだ。街道も山間部近くを通るところも多いからな。


「鉄が安いせいで色々な職が回り始めてね。その影響で人が増えて、私たちも稼ぎどきってわけ。ロイドも鉄以外を運んできなさいよ」

「鉄はそんなに安いのか?」

「今は半額以下ね」


 なっ!?

 半額以下?それが本当なら境界の街は終わるぞ。


「姫様たちが何をしているかはわからないけれど、最近は家畜とかも買ったりしているわね。それにモンスター素材まで売ってたりするわね」

「まるで高級なダンジョンでも現れたような…、っ!?」

「本当よね」


 まさか…。

 俺はフリックを路地裏に呼び、中央通りを眺めながら口を開く。


「街がダンジョンなら話が通る」

「ダンジョン?まさか…」

「ありえない話じゃない。炭鉱夫がもともといないこの辺りで王国兵を動員して鉄を集めることができる。それを可能にするのはアイアンスライムの群れだ」

「…確かに、その可能性はあるな」

「しかもそのアイアンスライムの群れが大規模であればあるほど鉄の価値は暴落する。奴らは弱いから簡単に狩れる」

「なるほどな」

「だとすればダンジョンの覇権を取ったのは王国ということになるな」

「あー、そういうことか」


 だんだんと辻褄が合ってきた。あの金を卸した冒険者も王国の入れ知恵でもあったのだろう。


「境界の街は捨てられてしまったと判断してもいいかもしれないな」

「国としては正しい判断だ。もし大規模なアイアンスライムの発生するダンジョンがあるなら炭鉱夫に国の人材を使う必要も無くなるからな。効率も圧倒的にいい」

「俺たちは商人だ。国の政策を円滑にする位置にたどり着ければいいということになる」

「外せないポジションにつくと?」

「商人の間では抜け駆けは基本だろ」

「そうだな」


 まずはその新しい街とやらに足を運んでみないとな。

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