好意の行方
「するとなんだ?チュートリアルモードって状態からは外れハルトを守れない状態だってことか?」
「はい。なのでアリアにハルト様を守っていただきたい」
「仕方ない。ワイズの頼みなら断れんな」
ちょっと?どういうこと?
俺自身が頼み込んでも無駄なのか?
同時期に知り合った身としては、ワイズちゃんだけ特別待遇なのは許せんのですよ。
「ダーリン、誰が足を崩していいと言いましたか?」
「もう勘弁してちょ」
「ダーリン?」
「はい、ダーリンでいいです」
「よろしい」
主旨変わってんじゃねえか。ワイズちゃんがあっさり買い戻せたのを怒っているんじゃなかったのか?
俺がレベル10に到達した時にチュートリアルが終了ということで、ワイズちゃんが消えてしまう。そういう流れだったし、そのまま進行してワイズちゃんは消えてしまった。当然チュートリアル妖精という破格のパワーを持ったチート級のワイズちゃんを、カタログで買い戻すには相応のMPを持ってかれると考えた。
それはもう無量大数くらいはかかるんじゃないかと、だからこそ俺はこのラビリンスアース全体を使ってこれでもかと人を呼び込んで、何十年何百年かかってもワイズちゃんを取り戻す決意をしていた。
ところで、このダンジョンはマナが飽和するほど多く、ダンジョンマスターの意思によってそのマナの方向性、役割が形作られていくわけだが、俺は前世でダンジョンといえばRPGとかのイメージがあるわけで、敵だとわかりやすいので例えるなら、敵を仲間になると弱体化するっていうイメージを持っている。もちろんワイズちゃんは敵ではないが、仲間になると弱体化するイメージというのがこのダンジョンに反映されたらしい。つまりワイズちゃんも俺と同様にクソ雑魚ナメクジと化したことで晴れて1MPで購入できるに至ったというわけだな。
「なるほど納得だ」
「誰がクソ雑魚ナメクジでしょうか?」
「テレパシー通じてた!?」
「ダダ漏れですよ、ふん!」
「へぶっ!?」
ダーリン足崩さないでください、と姫様がいうが、きりもみ回転しながら土に衝突して、顔が土の中に埋まっているので聞こえないふりをしておこうと思います。というか普通に強くね?俺殴り飛ばされているんですが。
「どうやら私はマスターと同じレベルになるそうですよ。今レベル10ですので」
マスター呼びってことはまだ怒ってるなあ。
同じレベルなのにこれほど身体能力の差が出るとはいかに?
「私チュートリアル妖精なので、同じレベル10でも強いのでしょう」
「カタログの価値設定がつじつま合わねえな」
「アリア、マスターが顔出しましたよ」
「おいこら!」
なんか怒れる姫様がクラウチングスタート構えているんですが…。
「怖っ!ちょっと待って、無言で、全速力で、迫ってこないでくれー!」
「逃がしません!」
「なんで、息一つ、切らしていないんだよ!?」
「レベル200を舐めないでいただきたい」
王子より強かったんかい!?
ぐへっ…。
蹴つまずいた。
「ちょうどいいですわ」
「いてて…、なんだ内緒話か?」
「そんなところです」
姫様が俺の横に座り込む。相変わらす綺麗な髪だな。日光に反射してキラキラ光っているみたいだ。黙っていれば美人だな。
「何か?」
「いえ、なんでも」
「不問にしてあげましょう」
「何も言っていないんですけど…」
「あなたが考えたことについてです。それはさておき、もう大丈夫ですよね?」
「大丈夫って?」
「最近思いつめていましたよ?私の婚姻を蹴るくらいには」
「いや、ずっと蹴っていたと思いますが?」
「なるほど、言質は取りました。私の婚姻を蹴っていたのですね?」
「ちょっと待って!?さも俺の発言のようなこと言わないでくれます?最初に蹴るって言ったの王女ですからね!?」
「あら私にそのような記憶はございませんわ」
「加齢が原因ですね。記憶力アップの運動を———」
「何か?」
さっきまで寄りかかっていた岩が真っ二つになっているんですけど…。
「あなたはおっしゃいました。私に人間には限界がある。このラビリンスアース全体を統一できる大きさではないと」
「そういえば言ったな」
「あなたはこの世界の楔になると、…あなたは人間ですか?」
「………ダンジョンマスターだよ」
「いいえ、人間ですよ。私がそう判断したのですから」
「…そっか」
姫様がちょっと高い岩の上に座り、俺に手を差し伸べる。俺はその手をとって姫様の横に座る。
「ふふっ」
「なんですか?」
「なんでもないですよ」
姫様の頭が肩に乗っかった。




