無敵の存在
俺はどうも運が平均化される宿命なのだろうか。
「貴様っ!姉さんをどうやって誑かした!」
シスコンの王子に襲われる羽目になりました。
「落ち着いてください!俺と姫様はただの利害関係にすぎません!」
「婚約者ですわ」
「火に油を注がないでくれますぅ!?」
俺の真剣白刃取りのスキルレベルとかあったらカンストしてるだろ。死ぬ一歩手前だぞ。
「王子、それ以上はやめておいた方が良いですよ」
「アリア、お前までこいつの口車に乗るのか!?」
「いえ、単にその者を本気で害するなら黙っていない者がいるというだけです」
「姉さんはこいつに騙されているんだ!」
「姫様が黙っていない、というわけではないのだがな…」
アリアさんの説得虚しく、王子は本気でことを荒げたいみたいだ。頼むからアリアさん守ってくれませんかね?
「こっちをみるな…。まったく…、言いたいことはわかるが、私にはお前を守る必要性を感じない。どちらかといえば———」
王子が攻撃を仕掛けてくるタイミングでアリアさんは間に割り込んだ。
「私は王子を助ける役目に当たる」
「もう一歩踏み込めば切り捨てました」
「ワイズ、お前、本当に何者だ?」
どういうこと?
腰抜けちゃったんだけど。
というか相変わらずチェーンソーどっから出してきたのさ。
「私のことも秘匿事項ですよ?」
「そうだったな。野暮だった…。王子、もういいでしょうか?、………懲りたようですね」
王子も俺と同じように腰が抜けていた。
「ワイズの殺気に充てられたか…。しばらく休むといいでしょう」
腰を抜かした王子に手を差し伸べるが、王子は立ち上がれずアリアさんの厄介になっていた。それよりクレア王女がこちらを睨みつけているのが怖い。
『ハルト様、とりあえず話を進めておきましょう』
「お、そうだな」
『テレパシー使ってくれませんか?』
忘れてたわ。
それより王女から睨まれているんだけど?
『ハルト様ではなく私を睨んでいるのでしょう』
なる。
あー、なるほどなあ。アリアさんが警戒していたことから、ワイズが相当強いってこと気づいてたのか。
『クレアとアリアは気づいていましたよ』
さいですか。
なんとなくだけど、チュートリアルキャラだからとかそういう理由?
『そうです。チュートリアルは無敵イベントみたいなものですよ』
それって、チュートリアル終わったらワイズちゃんはどうなるの?
『………どうなると思いますか?』
………。
そっか…。
俺多分未熟だから、一生チュートリアル状態だったりしないかな?
『なりませんね。レベル10を超えたら私は退場の運びです』
………。
ワイズちゃんいつか結婚しような。
『…アホですか』
手出しができない状態だったなら、それがなくなればどうなるか。王女も本性を現し、というか既に本性だろうけど、ダンジョンマスターの利権を欲しがるに違いない。ワイズちゃんがいるいないの問題は相当大きそうだ。
「意外ですね」
「何が?」
「私を本拠地まで案内するとは思いませんでした」
「王女を案内したのは取引がメインですよ」
「取引ですか?」
「ええ…、情報という目に見えないものの取引です。といっても一方的な情報を与え、こちらに有利な状態へ運ぶためですが」
「ダーリン、あまり切羽詰まってはダメよ」
「ダーリンじゃないです」
クレア王女を見ていて、この王女の行動力を早さと信念の強さから、政略結婚で嫁ぐだけの花のある姫とは到底思えない。精力的に自国の強化に率先しているあたり本当に嫁ぎ先が嫌なのかもしれないが、おそらくは大それた野望の持ち主という可能性もある。
ならばそれを利用させてもらうことにする。
「これがこのダンジョンですよ」
「ここが入り口で先に見せた鉄鉱石を取れるダンジョンを作る場所はここですね」
「同じ場所ですね」
「拡大しましょうか」
星全体を見舞わせる立体地図をアップにしていけば、入り口と鉄鉱石用のダンジョンの場所は明確に判別できる。
「広いですね」
「ええ、これが見せたかったものです」
「…ですが、これくらいの規模ということは既にある程度わかっていました。わざわざ伝えるほどでもないかと?」
「いえ、王女は理解できていませんよ」
この広さは国という単位では収まらない広さである。
「これだけ広いと統治は大変そうですね」
それには限界がある。
「大きさの問題ですよ。これだけ広いダンジョン、いや、世界を我が物にしようとも人の行動には限界がある。これだけ広ければこの世界を一国で収め、一枚岩に統一することは不可能でしょう。ダンジョンマスターなら話は別だと思いますが」
「…ダーリン、いえ、ダンジョンマスターのハルト様、あなたは異世界では学生だった。そうおっしゃいましたね」
「ええ」
「その異世界はこれだけの土地に何ヶ国あったのでしょうか?」
「大小含めて200近く」
「そうですか…、確かにハルト様をもってすれば………」
クレア王女は黙り込んでしまう。
「わかりましたか?私はこの世界の楔になり、不可侵領域の存在になろうかと考えています」
「それはなぜ?この広い世界すべてを使わずに、私の夫でも何も問題はないはず」
「どうしても根っこのところで人を信頼できないんですよ。それは王女のあなたも含めて、人の欲望は尽きない。行動を制限してもいずれは限界がきてこの世界を開拓する者も現れるでしょう。それに対抗するために強力な魔物を徘徊させれば開拓は進みませんが、外の世界となんら変わらない世界の出来上がりです。それは俺としても避けたいので、ならばできることなら国という枠から逸脱した存在になり、裏から統治でもしようかと」
「神様にでもなるおつもりですか?」
「ここに国々ができれば、俺の命はもっとも重要なものとなるでしょう。それはある意味で人の領域にはないものですね」
「………ダメです」
「はっ?」
「ダメです。やはり私の夫でなければなりません」
「俺は———」
「なら、私は国を築きません」
「へっ?」
「私はそんなに魅力がありませんか?」
「美人です」
「なら、私と結婚しましょう」
「いや、俺はワイズちゃんと———」
「いつまで前の女に囚われているのですか!?———いたっ!?」
ワイズちゃんにフライパンで殴られとる。
「別に前の女ではありません」
「ちぇっ」
「もう一発行きますよ」
「王女なの!少しは労って!」
それ俺の足踏み抜いた時、俺言ったよね。
あ、また殴られた。




