過酷な世界
ざっと20人ほどの人間がダンジョンの入り口で倒れていた。
「これは…」
「おい、大丈夫か!?」
アリアさんが率先して近づいていって声をかけるが反応はない。
「これだけの兵がやられたのですか?」
王子だって決して弱くはないはずだ。そして王国兵なら練度もそこそこにかなりの実力を持っているに違いない。この人数を倒す化け物が外にいるのか!?
「寝ている」
「寝てるんかい!」
「ただ寝ているわけでもないな」
「どゆこと?」
「モンスターの攻撃だ。睡眠状態ではなく、むしろ昏睡状態まで陥れる神経系の毒を持った魔物にやられたのだろう」
「え?それって結構危険なんじゃ?」
「結構どころではなく、かなり危険だ。レベル100を超える王子パーティすら壊滅させている」
王子そんなに強かったのか。モブ顔のくせに。むしろどんな魔物に出くわしたんだよ。
「相手はどうやら広域に毒を蒔くタイプのようだ。外傷がない」
そんな強力な魔物もいるのか。買ってみようかな?
「制御できないと思いますよ?」
「それもそうか」
無駄口叩いている間にアリアさんが調査を終える。
「どうやら魔物は通っただけみたいだな」
「通っただけ?」
「ああ、毒は鱗粉だ。ビッグブルーバタフライという魔物がいてな。その鱗粉には睡眠性の高い毒が含まれている。大きい割には大して強くはない魔物だが、敵から逃げるのに鱗粉を撒き散らしながら逃走する特徴がある。運悪く出くわしたのだろう」
「なんだそりゃ」
「そういう魔物もいるから我々はなかなか生存域を広げられないでいる」
「大して強くもない魔物にも手こずると」
「そういうことだ」
思った以上に魔物の生態系はやばいものらしい。
「ダンジョンはもっと強い魔物がうじゃうじゃいるがな」
「強い魔物どころかスライムが多少いるくらいですみません」
「いや、あれはあれで可愛げあると思うぞ」
そのレベルかよ。確かにカッパースライム抱いて可愛い連呼していたしな。
「それで、アリア。この状況はどうすればいいのでしょう?」
「このままではしばらくは起きませんね。一応解毒薬は4人分ありますが、私とクレア王女の分を1つずつ残して2つを使いましょう。彼らを放置して魔物にやられては大変な損失になります。それに王子もいますし」
「では、カイトと隊長を起こしましょうか」
「いえ、王子はまだ眠っていてもらいましょう」
「ああ、そういえば今見つかると面倒ね。カイトは放置で」
「それがいいでしょう。隊長と副隊長を起こしましょう」
モブ顔王子不憫すぎるだろ。
「昏睡状態って起きるのか?」
「早ければ24時間で起きる」
「全然起きないやんけ」
「ただの毒ではないからな。治療薬を買って戻らねばならんからな。使いは副隊長でいいだろう」
「使いって…、パシリにでもするのかよ」
「端的にいえばそうなるな。護衛は隊長一人いれば十分だろう。もう油断したりはしないはずだ」
「ならいいけどさ」
なんか手伝えって言われて、何人もの王国兵を運ぶことになった。装備込みだから重いんだけど。
解毒剤を投与して王国兵の隊長と副隊長を起こし、事情を説明している。
「それでこの方が婚約者ですか」
「ちょっと待って、また要らぬ外堀が埋まっていっているんだが?」
ではどう伝えろと?、と言いたげな勝ち誇った顔をする王女に腹がたつ。確かに俺の素性を完全に話しては、王女と行動を共にするのは危険として排除されるかもしれない。ダンジョンマスターなんて人類の敵もいいところだ。だが、王女にもそれは当てはまる。俺のダンジョンを有効活用したい王女にとっても俺の素性が今バレるのはまずいはず。
「いや、俺ダンジョ———」
剣が通り過ぎた。
「ってあぶね!?あぶねえだろ。何すんだ!」
「いや、蚊が飛んでいただけだ。問題はない。耳を削ぎ落とさざるを得ない場合もある。蚊は伝染病の温床だからな」
王女の指示なしで脅してきやがった。なんて野蛮人。訴えるぞこら。
「クレア王女の何が不満なんだ?私にはわからんな」
「まあ、王女自身に不満なんてねえよ。すげえ美人だしな。ただ話が早すぎるから」
「うむ、確かにな。だが、クレア王女にもあまり時間がないのだ。その辺はわかってくれないだろうか?」
いきなり真剣モードはなしだろ。
「それに、本気でやってもお前の命は取れんよ。口に出すほどでもないだろうがな」
どゆこと?
「なに、そのうちわかるさ」
ワイズちゃん通訳プリーズ。
「将来の主君を殺したりはしないでしょう」
「文脈とらえてました?絶対違う意味があるって言ってたぞ。さすがに俺もそこまで鈍感じゃないから。やーい、ワイズちゃんの鈍感ー」
「あら、ハルト様、蚊ですよ」
「あぶねえ!?チェーンソーどっから出てくんの!?あと気が短すぎるから!?」
で、結局、副隊長を連れて街まで来たが、魔物と交戦は2回だけで、しかも片方はスライム。雑魚中の雑魚だったので経験値がてら倒させてもらったが、俺はダンジョンマスターなので普通に魔物倒しても経験値が入らないことの確認に終わった。
「ここが終焉の街です」
「絶対改名した方がいいだろ。めっちゃ雰囲気のいい街じゃねえか」
山を降り、林道を歩いて、草原地帯の中に終焉の街があった。
「土地広げられそうな気もするのだけどなあ」
「拡張計画はありますが、人員の配備が大変ですのでなかなか進みません。東側の城壁を工事しているのは拡張しようとしているためですね」
「結構大きいんだな」
「これでも小さい方の街ですよ」
思っていた以上にノースランドという国は大きいらしい。狭い街に大量の人口が押し込まれていると思いきや、普通に畑とかあるし道も広い。城壁も10mほどの高さだ。50m級とかはないんだな。
「食糧事情か」
「すぐわかるものなのですね」
「住むところの拡張以上に畑の守護が大事になってくると」
「そういうことです。食糧を守るために街を広げれば、それだけ守る範囲も必然と広くなります。この街の護衛兵は1000人を超えますが、逆に言えば1000人が守れる範囲でしか街を拡張できたりはしません」
「なるほどなあ」
家も3階建てだったり集合住宅だったり、住宅に当てられた面積は非常に狭く、田畑に与えられる面積は非常に大きい。通り道が広いのも荷車を運んだりするせいか。
「そりゃ、俺のダンジョンが魅力的に見えるわけだ」
「ええ、群生する作物なんてこの世界では非常に稀ですから」
むしろこの過酷な環境の中で人間が生き延びていること自体が謎だな。とっくに滅んでいても不思議じゃないだろう。
「人類が生きながらえたのは勇者や英雄によるものが多いです」
「そうなの?」
「特に昔はそういった強者が人類を生きながらせた神話も多く、事実に今もまた強い人類が現存します。逆に言えば、強い人類が存在しなかった地域は滅んだりもしました。食物連鎖の頂点ではありませんから」
「ああ、納得。そういうことね」
人類が最強じゃないから区画が狭いのか。わかりやすい。
「でもアリアさんってめちゃくちゃ強いよな?」
「私は一対一なら負けないだろうが、生態系とは自然そのもの、いくら単体が強くても人間1人の手に負える代物じゃない」
「…」
「だから、な」
「人間1人の手に負える存在がいたらそれは革命的なことが起きると」
「そういうことだ」
俺にのしかかる重圧がとんでもないんですけど。




