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ランスロット・ゲート  作者: 机上イリン
3/3

ガラハッド・テリトリー(上)

 パーシヴァルの会食後に、地図を貰って妖怪の帰り道を走ったガルビア。


 午後3:00にはガラハッド・テリトリーに到着。途中聖杯の湖で休憩を入れ、明け方には集落の外れで仮眠を取っていた。


 そして起きた彼に降りかかる災難。知る事になる真実への接近…


 ガルビアは車を走らせた。

 湖には黒洞々たる中に光る星を映してる。湖の周辺から出れば、川は灯火に降りていく。それに沿った道を走っていくのだ。

 川のおかげである程度光が取れてて、それに集落と思わしき所に近づくにつれて街灯も不規則ながらポツポツ出てくるようになった。

「第4区の集落、どんな感じになってるか…」


 彼には色々な懸念があった。基本…ガルビアが知ってる範囲では人々はテリトリーを行き来せず生涯を終える。誰も知らない未知の世界に来てるようなもので、分からない事だらけでガルビアは少し震え上がる。

 長居するつもりは毛頭無いが、それでも異世界に来たみたいで怖いのだ。

 さて、第4区の集落の外れに来た。ガルビアは車を道の端に寄せて、仮眠を取ることにした。



 ◇



 起きた。

 しかしガルビアには良い目覚めは無かった。シート自体は寝心地は悪くは無いが、集落の住人に囲まれている。

「あんさんどこから来たの」

 赤い髪の少年が声をかける。状況がわからずうろたえてはいるが、受けごたえはしっかりしたいとガルビアは口を開く。

「私はパーシヴァル・テリトリーから来たものだ。訳あってケイ・テリトリーに行きたい」

「第3区かあ、それはまたお隣から来たんだね。とりあえず…」

 少年は手招きで合図する。

「おいでよ、そこで世間話は辛いだろ?ご飯も作ってやるからさ」

「…お言葉に甘えて」


 少年の家のガレージに入る。二台も入るだなんて素敵なガレージだろう。

 そういえば車があったが…細長くて側面に二つ扉があって、全体的にスポーツカー…ランエボだろう。

「ご飯できたぞー!」

「早いものだ。早速頂くとしよう」

 家に入ってから階段を上がってリビングに行けば、暖かそうな鍋がある。少し小さめだが、多分二人で食べるんだろう。

 頂きますと箸と取り皿を取って具材を取る。

「蟹にホタテが入ってて、白菜に人参に椎茸か。全部お前が取ってきたのか?」

「へへっ、全部今朝の採れたてなんだぜ」

「凄いものだな」

「そうだろう、そうだろう。もっと食べてけ〜!」

「ありがたく頂こう」


 ご飯が食べ終わった後。ガルビアは少年に聞く。

「そういえばお前の名前を聞いてなかったな。恩人の名前を覚えず去るのも居心地悪いから、良かったら教えてくれないか。

 俺はガルビア、フォルレオン・ガルビア・ゲート」

 意外と律儀だな__と口にする少年。どうやら感心したご様子で、自身の名前を名乗る事にした。

「俺はスティック。スティック・ノーチス。宜しく」

 スティックが手を差し出したのでしっかり握り返す。さて、としばらくしてから手を離してスティックを見てから「本題に入ろう」とガルビアは切り出した。

「俺は今は訳あって旅をしてるんだ。正規の道が時間帯が時間帯故に使えなくてな、妖怪の帰り道を利用してここに来た。

 で、行き先は取り敢えずケイ・テリトリー…つまり第5区だ。それで申し訳ないのだが、ガラハッド・テリトリーの地図を貰えないか?出来れば古いの、紙でもいいから」

 スティックは不思議そうな顔をする。

「…?何言ってるんだ。地図は紙だろ?全部が全部機械だなんて、パーシヴァル・テリトリーってどうなってるんだ」

「え…」

「ともかく地図だろ?はい、これ」

 地図を投げ渡す。開いて見てみると割と広い。

「パーシヴァル・テリトリーと隣接しているのがケイ・テリトリーとパラメデス・テリトリー…」

「俺ね、パラメデス・テリトリーに行きたいんだけど、愛車が壊れちゃって…」

 愛車…多分下にあったあの車のことだろう。

「ランエボを直せと。なんだ、簡単な話だ」

「簡単…え、簡単?」

「勿論。工具はあるし、なんなら使えそうなエンジンとかはあそこに置いてあった。もし良ければご馳走してくれた礼だ、直すぞ」

 スティックの目がキラキラ輝いて、部屋の中をスキップして回る。

「ほんと!?やったぁー!俺もこれで旅ができる!」

「さて、じゃあしばらく下に居るからな。何かあったら声をかけてくれ」

「おう!」


 修理に取り掛かる。

 エンジン以外は大丈夫。肝心のエンジンの予備は状態が良いのもあるが一般家庭なのにも関わらず強いもの。

 ハンマーで叩こうが割れないのは頑丈だが、何よりガルビアはこれに見覚えがあった。

 というのもこの金色のエンジン。アーサーが出てから50年後…今より10年前だ。『数年経っても元のまま』をコンセプトに作られたエンジンが、抽選で当たるというものだ。その時に発表されたものが、目の前のものに近かった…もしかして?エンジンの前方に書かれた文字を見る。

「……はぁあああああ!?」

 アーサーが統治を始めて、車両統治メーカーの『ヴロウギン』が出したアーサーラック…未使用ながら新品同様のものを見る事が出来たのである。

 本業がラリーレーサーのガルビアだって見たことない。正直偽物の可能性が高いと疑った。しかし、アーサーが自身の名を冠した製品の偽物を放っておく訳もあるまい。名前も『Arthur Luck No.4000』と書いてある。4000個しかないのがアーサーラックだから、ラスト一つをノーチス一家は手に入れたのだろう。

「頑張らなければ…」

 唾を飲んで取り掛かる。作業自体は以下の手順でつける。

 1、作業に邪魔なのを外す

 2、メンバーを外す

 3、ミッションを外す

 4、エンジンを外す

 5、取り付けは4→1の順番で外したものをつける。

 以上だ。しかし、エンジンを取り付ける時には正直傷でも付くのではと思うと気が気でない。

 

 緊張はしてはいるが、慣れてる作業だ。ランエボにアーサーラックを取り付けた。

 ボンネットを閉めて、一息ついて汗を拭う。ふと、奥の写真を見る。

 …色あせた写真と布だ。穴が空いてる旗にはレイラ・ジェバーソンと書いてある。

 写真に写るランエボと、目の前にあるランエボを見る。目の前にあるのは、写真と同じ形をしている。しかしボロボロで、ボンネットのシンメトリーの鳥のマークは片方欠けてる。劣化してるのせいで余計考えたくなる。まさか…

「よっ、終わった?ねえ、聞いてるかい?」

 スティックがガレージに戻ってきた。

「スティック!なんで、なんで持ってるんだ…レイラ・ジェバーソンのランエボを!」

「おいおいどうしたんだよガルビア!?それは確かにレイラ・ジェバーソンのランエボだがどうした!?」

 スティック本人も慌てている。しかし、それでもガルビアは聞きたかった。

 レイラ・ジェバーソンは西暦末期のラリーレーサーだ。電気自動車でもスポーツカーが出たというのもあったとしてもどこ吹く風、旧車のランエボで走りきった。

 そして、統治時代の始まりの前日に行方不明になったが、アーサーの君臨以降音沙汰が無くなった。騒ぎが強制的に沈下されたと言われてはいるが…レースには数日前から参加せず、式典前日に行方不明になったレイラ・ジェバーソンのものが何故ここにあるのか。

「教えて欲しい!知ってるだろう、アーサーが王になる前日に行方不明になったのは!」

「待て待て!分かった、分かったから。とりあえずもう一回リビングに来てくれよ、話はゆっくりしよう!」

 無理矢理腕を離されてからやっと正気に戻るガルビア。

「す、すまなかった…」

「いいって事さ。修理できるってことは本業はレーサーか整備士かもしれないからもしや気付くのではないかと思ってたところ。自由に旅に出れるようになるから、そのお礼も兼ねて話をするよ。紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

「コーヒーで頼む」


 テーブルには紅茶とコーヒー。

「で、あれの話だろ?あれはな、聖杯の湖に置いてあったものさ」

「妖怪の帰り道の道中にあった所か?」

「妖怪の帰り道?」

 なんだそれ…と首を傾げるスティック。

「ああ、あの道の事か。あれ、こっちじゃ『ガラハッドの凱旋道』って言うんだ。聖杯の湖の向こう側は禁忌か何かで踏み入れちゃいけないって言うんだけど、その向こう側から来たんだもんな、ガルビアは」

 紅茶を一口啜って、また話す。

 「で、話を戻すけど。俺はあそこを昔から遊び場にしてたのさ。ある日行ったら、割と新品なそれが置いてあってさ。動いたもんだからそのままお家まで持って帰ったわけ。今ガレージに飾っているいろいろも車内に置いてあったものだぞ。

 でもなんでだろうな、お家に着いた途端動かなくなっちゃって。直し方分からないし、エンジンがイカれた事はわかったけどその他は分からないし。エンジンは当たったから手に入ったけど直せない…で今に至るわけ」

「そう言うことか…なんでだろうな、あそこにあったのは」

 コーヒーを飲んでゆっくり…とはいかなかった。


 いきなり足音が連続で鳴り、リビングの入り口が乱暴に開けられる。

 騎士達だ。一人が銃をスティックとガルビアに押し付けて、別の騎士が二人の腕を後ろに組ませて縛る。

「所属不明者とスティック・ノーチスをそれぞれ『不法侵入』と『不法侵入者の隠匿』で確保する!」

 もちろん暴れる二人。しかし、騎士の方が力が強く、男女の差が無い。

「クソッ、離せよ!なんで俺が捕まるんだよ!」

「中々馬鹿力だなこいつら…!」

 外に引き摺り出されてから、黒いトラックに入れられる。

「大人しくしろ!」

「やめろ、離せ、このっ!」

 スティックが騎士を蹴る。それでも騎士は動じない。

「ダメだ、このままじゃ…!」

 それでも暴れる二人。それに痺れを切らしたのか、騎士は二人の首元にスタンガンを当てる。

 …二人は気絶した。そして静かに、収容所に運ばれるのだった。


 監獄に入った二人は、脱出を試みる。そして、後に知る事になる。統治騎士の真実を。



 そして、その苦しみを。

__第三話用語解説__


・ ガラハッドの凱旋道

 妖怪の帰り道の別呼称。ガラハッド・テリトリーではこう言う。


・ ヴロウギン

 アーサー君臨後に出来た車を作る唯一のメーカー。後述のアーサーラックを作った企業。


・ アーサーラック

 アーサーがまだガソリン車を許してた時代に抽選形式で当たった人に贈った4000個限定製造のエンジン。


・ レイラ・ジェバーソン

 西暦末期のラリーレーサー。数日前から不穏な状態だったという。


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