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ランスロット・ゲート  作者: 机上イリン
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パーシヴァル・テリトリー(下)

前回、パーシヴァルを殺して騒ぎを起こそうとしたガルビア。


単発銃を持ってパーシヴァルを殺そうとするガルビア。途中トラブルに巻き込まれつつも怪我の功名で変装をゲット、パーシヴァルをすぐそこまで追い詰める。


テリトリーの主パーシヴァルはそれに臆することもなく、予定していた娘のローエングリンとの食事にガルビアを誘うのだった。


 中華料理店の個室。統治騎士の母娘とレーサーの男が座っている。異様な光景な事この上ないが、空気自体は和やかだ。レーサー以外は。

 ガルビアは今の状況に困っていた。両親のふりをしろなんて統治騎士に言われればそうする以外ないのだが、なんたって自分を殺そうとしたやつにそんな事を頼むのか。そして計画が大きくとち狂っているからどうしようかと思っていた。

「あなた、何頼む?」

 しかし、腹が減った。性悪説でいくならそろそろ毒殺されちゃう頃だろうが、出て行ったら余計怪しまれる。例え逃げたとしても統治騎士ともあろう者が見逃してくれるとも限らず(ローエングリンという真面目娘も居るものだから余計に逃げたらタチが悪くなる可能性が大きくなるのも否定できない)、とにかく怪しくないよう動くしかない。

「…坦々麺とペキンダック、あるか?」

「辛い物が好きなのね、なかなか趣あるじゃない」

「…まぁな」

 心の中ではムシャクシャしててなんでやってしまったんだろうと後悔しつつも、できれば香辛料が多いものを頼むガルビア。辛い物は食欲を促進させるのだから、食べれるようになれば多少はマシになるだろう。

 部屋の手前側に座ってる分、ガルビアは気が楽である。部屋の奥、上座にはパーシヴァルが居て、中間にローエングリンが居る。

「お母さん!これも食べたい!」

「これは貴方には向いてないわよ、やめときなさい」

「お父さんが食べるんだよ!?大丈夫だって!」

 母娘の会話を、浮かない目で見てるガルビア。目の前の親子とこちらでは置かれてる状況も何もかもが違い過ぎる。

 こんな事を言うのもアレだが、個室だ。気にせず言おう。

「パーシヴァル、なんでお前は…」


 その時後ろから勢い良く扉が開いた。店員の娘がどうやら両手持ちで、足で開けるしかなかった為かそうなったのだろう。

「お待たせ、これご注文のやつ」

「謝謝、この坦々麺は…あなたのよ。はい、どうぞ?」

 器としてそこまで大きく無いが、匂いを嗅ぐだけで刺激がある坦々麺が出てきた。

「お父さん、大丈夫?」

「…あ、ああ。大丈夫…だと思う」

 沈んだ気持ちになってて、そんな状態で坦々麺を頼んだ自分がバカだったと今更になって思うガルビア。しかし頼んだのは自分であり、そうなった以上は自分で食べなければならない。八宝菜にしとけばよかったと後悔しつつ、口をつけることにした。

 …辛いし普通なら食べれたものじゃ無いが、気持ちが沈みすぎてまともに舌の感覚が働かないのかよく食べれる。鈍い刺激が少しだけ来る程度で、普通に啜って食べている。

 ふと前の親娘を見やると、焼売(シューマイ)や饅頭や八宝菜、エビチリを食べている。

「お母さん、お母さん…ふわぁ」

「あらあら、眠くなったの…?しょうがないわね、ここを出るまで寝てても良いわよ。こっちへおいで」

「はい…」

 ローエングリンはパーシヴァルに寄り添って寝ている。可愛いものだ。

 さて、さっきは店員に邪魔されて聞けなかったが…改めて聞いて見ることにした。

「パーシヴァル、お前…さっき俺を殺さなかったのはなんでだ?」

「何のことかしら?」

 パーシヴァルは涼しい顔で何事も無かったかのように振る舞っている。

「惚けるな、俺はお前を殺そうとしたんだ。統治騎士を殺す、しかも喉仏まで近づいておいて、おまけに店で何かを食っている。娘と三人でな。それはどうしてだ」

「それは…」

 だんだん困った顔をし始める。なんなら、少し泣き目になっている。

「俺はお前の親子ごっこに付き合うつもりは毛頭無いんだ。おまけに統治騎士が聞いてこのザマだ、なんだお前は?反逆罪にも掛けないような奴がなんで統治騎士なんてやっているんだ…」

「…」

 目の前の騎士は黙ったまま悲しみに溢れて啜り泣いているだけ。ガルビアはそろそろ痺れを切らして叫ぶ。

「答えろッ!」

 

「…座りなさい」

 パーシヴァルは凄みのある声、低い声でガルビアに言った。

 ガルビアはこのとき思った、彼女のこの怒りは統治騎士だからでは無いことに。

 すくんで言い返すこともできずに、ガルビアは座った。

「私はあなたをどうとも思っていないわ。だけどね…ローエングリンを傷付けるのなら容赦なく殺す。娘は守り抜く。例えアーサーであろうとも」

「…随分と大きく出たな」

 2度目なら慣れたものだ、怯む事なく言い返す。

「私はローエングリンがあってこその私だ。統治騎士など仕事の一つでしか無い。それが私が生きる意味でもない。貴方みたいな統治騎士だから殺すなんて奴には、正面から迎え撃つ。娘を守るために」

 パーシヴァルはゆっくり睨みつける。ガルビアはそれを睨み返すわけでもなく、目をゆっくり開けたまま見つめてる。

「それが、パーシヴァルの意思か…だよな。じゃなきゃ今その娘があんたに身体を預けて寝るわけ無い」

 両肘をついて両手を重ねて、そこに額を乗せて何かを考えている。やがて、その何かを言うために顔を上げる。

「身の上話だ、聞いてくれ」


 ガルビアはパーシヴァルに向かって身の上話をする。

 アーサーがビフォー車廃止に伴い全てのガソリン、ハイブリッド車の廃棄を決定した事。それによりレースが廃止の危機に陥って、おまけに自身の使用していたGT-Rが廃棄の危機を迎えていること。そのGT-Rが今は裏口の近くにあること。アーサーを始末して、自身のやりたかったレースを続けたい事を伝えた。

 ちゃんとした反抗声明、及び同志を湧かせる為にアーサー直属の統治騎士を殺して、その首で仲間を集めアーサーを殺せる率を高めたかった事。全部を話した。

「俺はやめるつもりはない。あの時は場を落ち着かせる為にお前の案に乗ったが、立ち塞がるならお前を殺し、親娘共々凌辱していくつもりだ」

 自分の意思を言って締め括った。

「さて、これからはどうするつもりだ。事を起こすのは正直嫌なのだが、実際の手柄が無ければ仲間なんて集まらないのだからな」

 パーシヴァルとガルビアでしっかり互いに目を見ている。しばらく見た後に、パーシヴァルが口を開く。さっきとは違って穏やかな口調だ。

「私とローエングリンに危害を加えないのであれば、手伝ってあげるわ。何処へ行くかによるけど、もしかしたらあの近道が使えるかも」

「近道…近道?そんなのがあるのか…?」

「ええ。それを走り抜けれるかはともかく…あるにはあるわ。地図を取りに行きたいけど…よし…」

 ローエングリンを揺すって起こすパーシヴァル。起こされたローエングリンは眠そうにパーシヴァルにくっつきながら一緒にお店を出る。


 パーシヴァルの部屋に戻ってきた三人。ガルビアとパーシヴァルの二人がかりでローエングリンを寝かせた後は、机の上に置かれた比較的古いデータメモリを貰って、データを自身のデバイスに入れていた。データを確認しつつ、パーシヴァルは渡る際の指示を出していた。

「ここはあまり警備されてない山道で、夜の11時から朝7時までの8時間だけなら誰もいない道だから走れるわよ。検問もここは無いし」

「それだけ見れば簡単だ。24時間レースより簡単なら全部楽だ」

 壁に寄りかかりながら確認するガルビア。いくらか進行ルートは分かれているので、情報が比較的はっきりしてるパーシヴァル・テリトリーの中だけでも安全で早いルートを探している。

「よし、付け終わった。パーシヴァル・テリトリーだけなら1時間で行ける」

「ガラハッド・テリトリーはこことあまり変わらないけど…割と北の方で寒いわ。大丈夫?」

「旅する為の道具は持ってるさ。大丈夫」

 パーシヴァルの部屋から出て、裏口近くまで行ってそこから出てGT-Rに乗り込む。

「世話になった、達者で」

 見送ってくれるらしいパーシヴァルに手を振って、エンジンをかける。ビフォー車、それもガソリン車なら音が出る。

「元気に帰ってくるのよ」

「ああ」

 走り始めて、バックミラーからも徐々にパーシヴァルは消えていった。



 ◇



 パーシヴァル・テリトリー外れ、山道の入り口。近くのコンビニで、食料と水を買ってから車に詰め込む。ついでに手持ちで車も整えられるだけ整えて、また走り始める。

 急な予定とは言え、衝撃吸収クッションを変えないのは不味いので取り替えてきてある。そのおかげか、かなり安定して走れている。

 今回行く道は【妖怪の帰り道】と呼ばれる道だ。人の手が入っていない数少ない場所で、自然がそのまま生きてるから、妖怪が人の手を逃れて帰れる場所と言われているのである。第3地区のパーシヴァル・テリトリー内の道であればまだ電気が生きてはいるが、第4地区のガラハッド・テリトリーはどうか不明である。

 まだ第3地区はライトがあるので、バレないように車のライトを消す。聞いた通りに道は補強されてないにしろ整っており、レースのコースほどでは比較的走りやすい。

 あまりに大きな音を出してバレないようにしているが、ヘアピンカーブは流石にブレーキを踏んでドリフトをかける。

「…」

 レーサーというより走り屋に近いその走り方に、未だ慣れが来ないのだった。


「…綺麗な、湖だ」

 電気が消えて、ハイビームで走り続けた。街灯が無くなったあたりで第3区を抜けた事は確信していた。しばらく走り続けていたら、紫と青が混ざったような湖に出た。

 道で止まって、湖の辺りに立って眺めている。古ぼけた看板には『聖杯の湖』と書かれてあった。

 山の中の湖。その向こうには殆ど無い灯火、そしてその灯火のもっと先には明るい光。午前3:00、ガルビアは未知なる場所に到着した。



 第4区、ガラハッド・テリトリーである。




 パーシヴァル・テリトリー(第3区)→ガラハッド・テリトリー(第4区)

__第2話用語解説__


・妖怪の帰り道

 第3区と第4区を繋いでいる道。アーサーによる統一後は決められた道でテリトリーを行き来するのがルールであり、このような獣道に近い道は検問の立てにくさ、主に立地関係で難があるので使われない。


・聖杯の湖

 ガラハッドは主に聖杯伝説の騎士で、その功績もあって円卓に入ったのが史実での扱い。ガラハッド・テリトリー、つまりガラハッドの領地ではそれに因んだ場所が聖地とされる事がある。この物語ではどうやら聖杯は山中にあるという説を採用している(他の説ではヘラクレスの柱の近く等色々言われている)ようで、山中の一番綺麗な場所、つまり物語最後でガルビアがいる場所が聖杯があるべき場所にふさわしいとされている。

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