魔法使い見習い5
それからカレンゾはジシャパパの話を聞く内に、いくつか疑問に思っていたことがわかった。
フィリムが時折手に入れる書物だが、あれは子供が買えるような値のものではなかった。それにモールディも驚くほどの各地の情報はこのジシャパパから得ていたのだと。
しかめ面のカレンゾを見てジシャパパは笑った。
「弟君のことに驚かれておりますが、あの方は一つの目標に向けて一生懸命なだけですよ。そして案外家族思いでもある」
「家族思い…か。そうだといいんだけどね」
カレンゾは苦笑しつつ、明後日の方を向いた。
翌日、二人を乗せた馬車がブラーニス領に入ると、遠くから二頭の馬に乗った兵士が近づいてきた。
ジシャパパは馬車を止めると、自分だけ馬車を降り、片膝をついて兵士を待った。
「おぅジシャパパ殿、久しぶりだな」
近づいてきた兵士の一人が馬を降りると、手綱を持ちながら片手を上げた。
「ご無沙汰しております、コードア様」
「さあさあ膝を上げてくれ。先触れがきて驚いたぞ。まさか其方がベトナー家の使者とはな」
コードアが笑いながらジシャパパの肩を叩いた。ジシャパパはそれに応じて笑うとようやく立ち上がった。カレンゾも馬車を降りて兵士をみる。
「私は使者のお供ですよ。コードア様、こちらが使者であるベトナー家の後嗣、カレンゾ・ベトナー氏です」
ジシャパパはコードアともう一人の兵士にカレンゾを紹介する。カレンゾはにこりと笑って二人を見た。貴族位にあるものはやたらと頭を下げるわけにはいかない。
「これはご挨拶が後になりましたな。大変申し訳ございません。私はブラーニス家騎士団のコードアと申します。こちらはニベルツァです」
「ニベルツァと申します。主より使者の方の護衛として参りました。よろしくお願いします」
カレンゾは思わず目を見開いた。銀色に輝く兜から溢れた声は紛れもなく女性のものだったからだ。
ジシャパパも驚いたようで、ニベルツァを見やった。
「これは驚きました。ブラーニス騎士団にこのような女性がいらっしゃったとは」
「昨年から入団を許されたから、知らないのも無理はないな。腕は立つがまだまだだ」
コードアがニベルツァをちらりと見た。
「まあ街道沿いは獣が出ることもある。露払いにはちょうど良かろう」
コードアは軽く頭を下げると、再び馬に乗った。