魔法使い見習い4
「失礼ながら、カレンゾ様の弟君は異常ですな」
ジシャパパの言葉に思わず、外を眺めていたカレンゾは思わず、ジシャパパを見やった。
「……異常だと?」
「お気に障ったならお詫び申し上げます。ですが私はそう感じましたな」
ジシャパパは目線を上にあげ、目を細めた。
「私が最初に弟君と会ったのはもう四年近く昔でしたな。ベトナーの街の市に出店した時です」
「市も日が傾いてくる頃には忙しさも落ち着いてきますが、弟君が来たのはそのくらいの時間でした。何故時間まで覚えているって? 本人の口から聞いたんですよ。このくらいの時間なら少し話しをする暇があるだろうと」
「私は最初、その生意気なガキの相手などするものかと睨みつけたのですが、弟君は全然気にしないで話し始めました」
「欲しい物があるが、自分には自由に出来る金が無いと弟君は言いました。私は金がないなら諦めればいいと言って、他の客の相手をしようとしましたが、他に客は一人もいませんでした」
相手をするのも癪なので、フィリムに背を向けていたという。
「私は相手するものかと思っていたのに、弟君の話すことに興味を持ってしまい、思わず振り返ってしまいました」
振り返った時、フィリムはまるで大きな魚がかかったときのような笑みを浮かべていたという。
「こりゃ参ったと思いましたよ。それでよくよく話を聞いてみると、私には何の損もなく、手間賃が稼げそうだと話に乗ることにしたのです」
「待ってくれ、四年前といえばフィリムはまだ八才だ。そんな子供の言うことを聞いたのか?」
カレンゾが疑わしげに聞いても、ジシャパパはむしろ嬉しそうに頷いた。
「弟君は今回の市でどうしても欲しい物があったそうです。それは去年もあって今年もあったからそう簡単には売れなそうな物みたいでした。弟君は今は手持ちが無いが、来年は購入出来るから、値引きをしないでおいて欲しいと約束したそうです。その商人も売りたい値で売れるなら、よっぽどのことがない限り待つでしょう」
「そして私に屋敷から持ってきた剣や燭台を査定して欲しいと頼みました。私が値を付けると、その品を私に預けるので、その金額を貸して欲しいといいました。来年までにその金額が目減りしていたら、それを売って補填して欲しいと」
「私がその金額で物を買うのかと聞いたら違うと言われました。その金額分出来るだけ沢山の麦をこの東部で買い集め、秋に西部に行って売って欲しいと」
「責任は取らないが、自分でも同じように東部で沢山の麦を買った方がいいと言われました。理由を聞くと、西部の国境で争いがあり、戦争の可能性があること、西部では今年雨が少なく、農作物が不作になるとのことでした」
ジシャパパはそこでパンと手を叩いた。
「正直弟君の言うことは半ば疑っておりましたが、
約束した通りに麦を買いました。私の分も同じだけ。日が過ぎて秋になって私が西部に行くと、高く値をつけた麦が飛ぶように売れたのです」
「戦争は起こりませんでしたが、麦はかなりの不作だったようで、市場には混ぜ物が入った粗悪品の麦ばかりでした。私は弟君に教えられた通り、貴族様や教会に随分と儲けさせてもらいました」
「私は弟君に手紙を書きました。すぐに返事が来ました。東部では鉄や油が不足しているので、沢山買って持ってきて欲しいと」
「手紙の通り鉄と油を仕入れて東部に来ると、それもまた飛ぶように売れました。おそらく弟君の仕業でしょうが、私が良質の鉄と油を売りに来るという情報が近隣に流れていたそうです」
「そんな関係がもう四年も経とうとしています」
ジシャパパは両手を広げると、にっこり笑った。
「これが私と弟君との出会いてす」