魔法使い見習い3
フィリムが紹介した行商人と一緒に、カレンゾはブラーニス伯爵領に向かっていた。
行商人の名はジシャパパといい、父モールディよりも年上の男だった。体格の良い兵士のようにガッシリした身体つきで、大きな目をした豊かな髭の男だった。
「カレンゾ様、お疲れでしょうが明日には東都に着きますので、頑張って下さい」
乗り慣れない馬車はガタガタと大きく揺れ、カレンゾはひどく体調を崩していた。
「……ああ。それにしても自分がこれほど乗り物に弱いとは知らなかったよ」
目にかかる前髪をかき上げて、カレンゾはため息を吐いた。
「カレンゾ様も跡継ぎですから王都に行かねばなりますまい。今まで行く時はどうなさっていたんですか?」
ジシャパパは水の入った皮袋をカレンゾに手渡すと不思議そうに尋ねた。
「いつもは馬で行くんだ。馬車は父と母だけだな。護衛の兵士も少ないから、私とクリッシュも護衛がわりに馬に乗るようにと言われてね」
少なくとも年に一度、冬が始まる前に父と母は王都へ向かわなければならない。金銭的な負担が大きいものだが、社交界に参加しないというのは、この国では貴族として欠かす訳にはいかない。
特に近年はカレンゾの結婚相手も探している為なおさらである。
少なくない金銭を使い、僅かなツテを使って同じ程度の領地を持つ貴族の娘を探しているのだが、どこからも色よい返事が貰えてはいなかった。
「ではそろそろカレンゾ様も馬車に慣れた方がいいですな。ご結婚なさったら流石に馬では行けますまい」
「……そんな相手が見つかるといいよ。辺境の貧乏騎士領に嫁いで来てくれる物好きな女性がいればだけど」
そう言いながらカレンゾは皮袋をぐっとあおった。
水に香りづけのワインが入ったもので、温くなっていたが口の中がさっぱりして気分が少しましになる。
景色を見ながらカレンゾはふと気になったことを聞くことにした。
「ジシャパパ殿はウチの弟と随分親しげでしたが、どこでそんなに仲良くなったんですか?」
「弟君とですか? あぁあの子は凄い子供ですな」
そう言いながら、ジシャパパは面白げに髭を触った。