魔法使い見習い
フィリム・ベトナーは魔法使いに憧れる少年である。
腕力に自信がある者が騎士を目指すように、貴族の淑女が王族へと嫁ぐ夢を見るように、フィリムは魔法使いになることを望んだ。
三男ではあったものの、地方貴族の子供として生まれた彼にはそれなりの教育が施された。もちろん魔法使いについても彼は学んだ。
つまるところ、魔法使いには生まれながらの資質があるということを彼はその時初めて知ったのだ。
そして父に頼み屋敷に招いた高名な魔法使いに自分を見てもらった結果、彼にはその資質がないだろうという残酷な宣告をされたのだった。
しかしフィリムは諦めなかった。諦めきれなかったと言ってもいい。
フィリムは屋敷にある全ての魔法についての書物を古びた羊皮紙がぼろぼろになるほど読み返し、行商人が持ち込む玉石混交の魔法についての書物をありとあらゆる方法で手に入れてきた。
領地を訪れる魔法使いがいると聞くと、何としても会いたいと望み、僅かな時間でも魔法使いとの会話を望んだ。
魔法使いの修業になると聞けば、冬の湖の中に潜ったこともある。
魔石を持つという魔獣を探しに森に入り、角熊と呼ばれる大型の獣に襲われ半死半生で逃げ帰ったこともあった。
魔法を使えるようになるという秘薬を飲んだ時は、十日間ほどベットから起き上がれないほどの高熱が出た。
それでもフィリムには魔法を使うことは出来なかった。
いつしか彼のいる町では、変わり者の領主の息子のことを誰もがこう呼んだ。
「魔法使い見習いのフィリム」