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推しからはじまる恋愛争議

 

 綾塚くんに告白されて1ヶ月、そろそろ答を出さなければ。

好意はある……好きだ。確実に。自分の心に正直になろう。


「再来週にある外部監査が終わったら、私から告白しよう!!」


勇気を出して決意する。


 綾塚君にメッセージをして外部監査が終わったらサックスを

演奏しているBARに2人で行くことになった。


「よし! 明日から頑張ろう」


外部監査の資料作り月曜日、火曜日は22時まで残業した。


「はー。まだ水曜日か。あと2日頑張るぞ」


自動販売機でスタミナドリンクを買うためにお金を入れようとすると


「俺がおごるよ」


「中野君」


中野君が素早く自販機にお金を入れた。


「ありがとう」


 お言葉に甘えてスタミナドリンクを買ってもらった。


 あ、デートどうなったんだろう?

私は中野君を見た。


「ん、どうした?」


「いや、デートどうなったのかなぁって」


 若干、恐る恐るたずねる。

すると中野君の顔がふにゃっと笑った。


「おかげさまで、正式にお付き合いすることになった」


「よかった。成功したんだね」


「ありがとう。清水は俺の救世主だ」


「大げさだよ。別に私がいなくても成功してたよ」


「まだ、仕事の残ってるんだろ。できることあれば手伝うが」


「ありがとう。お言葉に甘えて」


 その後、中野君に仕事を手伝ってもらって、少し早く帰ることが出来た。



 気がつけば金曜日。そして今日も残業中。


「やっと完成したー!!」

 これで月曜日に課長に提出すれば、とりあえずはひと段落。


「終わったんですかぁ?」


「うん。ごめんね。朝長さんや、飯塚さんにも負担かけちゃって」


「いいですよ。いつも清水さんにはお世話になってますから!」


「ありがとう」


「ちょっと、夜遅いですけど3人で女子会しませんかぁ?」


「いいね。金曜日だし! 清水さん行きましょう」


「え……」


 22時からスターチャームのゲーム内イベントがあるんだけど……

けど、彼女たちも私のためにこんな遅くまで残ってくれたんだから、行かないと先輩と言わない。


「うん。行こう!」


「この前、会社の近くでオシャレな個室居酒屋見つけたんですよぉ」

 

 朝長さんがはしゃぎながら言う。


「ほんと、楽しみ」


「ここです」


「へー。すごくオシャレ。こんなお店あったんだ」


「あ、ここは」

 

 綾塚君と行ったところだ。


「清水さん行ったことあるんですかぁ」


「あ、うん」


「さぁ、早く入りましょうよー」


 お店に入り私たちは乾杯し、仕事のことや私生活のことを話して楽しんだ。


「飯塚さん、来年の夏に結婚するんだ! おめでとう!」


「年明けに会社に言おうと思ってるんですど、いい機会だしフライングで。

あ、結婚しても仕事はやめないのでよろしくお願いしまーす」


「羨ましいなぁー私も結婚したいよー」


「よし! このお店の一番いいお酒開けちゃおう! そのお酒代は私が払う」

 

 いい具合に酔いが回って大きいことを言う。


「えーいいんですか」


「わーい。たくさん飲もう」


 宴会も終盤に差しかかってきたとき携帯の着信音が流れる。

 

「すみません。ちょっと出てきます」

 

 そう言って飯塚さんが席を外す。


「彼氏さんかなぁ。いいなぁ。私も彼氏欲しいー」


「でぇ、清水さんに頼みたいことがあるんですけどぉ」


「え、なにかな?」

 唐突だな。


「私、好きな人がいるんですよぉ。社内に」

 

 突然の告白に少し驚く。


「え、そうなの?全然知らなかったよ」


「清水さんに是非取り持ってもらいたいな~て」


「私になのかなそんなこと……」


「綾塚さんです」


「え……」


「この前告白したんですけど好きな人がいるって断られたんです。でも諦めきれないんです。

お願いできますかぁ」


 そういえば綾塚君とここに来たとき、社内の人に告白された。

て言ってたけど朝長さんだったんだ。


「どうしたんですか。黙ちゃって。私と綾塚さんの仲取り持ってくれない理由があるんですか」


 いつもと違う棘のある物言いでビクリとする。 


 協力するなんて言えるわけない。

いっそ朝長さんに綾塚君とのこと言った方がいいのでは……

摩擦は避けられない、でも……!!


「朝長さん、私……綾塚君と付き合ってるの。だから協力はできない」


 重い沈黙が流れる。

私たちは不動のまま目を合わせている。


 こんなこと言って、よかったのかわからない。傷つけてしまうかもしれない。

でも、あいまいに避けたほうが、綾塚君にも朝長さんにも悪いし、こじれると思う。

なにより、自分の気持ちから逃げたくない


「すみません! 突然、出ちゃってー」


ガラッと引き戸が開き、飯塚さんが戻ってきた。


「どうしたんですか? 2人とも真剣な顔して」


「なにもないよ。飯塚さん早く飲もう」


 私は精一杯平静を装った。

その後、何事もなかったように飲み会が再開され朝長さんもいつもの雰囲気に戻っていた。


「はー今日は楽しかったですね!!清水さんありがとうございます。多めに払ってもらちゃって」


「いいよ。いいよ。楽しかったし」


 宴会もお開きになり2人はタクシーで帰り、私は方向が違うしもったいないので電車で帰ることにした。

タクシーが到着して飯塚さんが先に乗りこみ 

「綾塚さんのこと諦めませんから」

と言い残して朝長さんも乗りこんだ。


2人の乗るタクシー見送る。


ごめん。絶対に綾塚君は譲れないよ。


 昨日の朝長さんとのやり取りが頭の中でぐるぐる回る。

あーー!! いろいろ考えていても仕方ない。

言ってしまったことは取り消せないし。


 ここ数週間ずっとバタバタしてて家でゆっくりなんてなかったから

たまにはダラダラと休日をすごそうと寝そべってゲームをしていたら

電話が鳴った。


「綺華からだ。もしもし」


 久しぶりの綺華からの電話で嬉しくなり、あったことをたくさん話した。

金曜日にあったことも。


「ほう、宣戦布告されたってわけか」


「もー、笑い事じゃないよ。これからどうすれば、社内のいざこざは嫌だよ」


「相手も社会人として常識ある子なら大丈夫でしょ」


「うーん。そうだよね」


「でも、変わったわね。夏海が摩擦を恐れずに自分の気持ち言えるようになるなんて。

彼氏は相当上物とも見た。私も早く会ってみたーい」


「もー」


「まぁ、彼と上手くいってるようでよかった。じゃ、優太起きちゃったみたいだから、またね」


「うん。近いうちに綺華とも会いたいよ。じゃあね」


 柚宮君に出会って変わったように綾塚君と付き合って私は変わったんだ。




 今週の木曜日の外部監査まで会議や細かな資料の修正で先週ほどでではながバタバタした日々が続く。


 水曜日のお昼休み。


「清水さん。中野さんと付き合ってるんですか?」


「え?なにそれ」


 飯塚さんの突然すぎる質問に頭の中がはてなでいっぱいになる。


「ショッピングモールに2人でいるのを見たって。社内でうわさになってますよー」


「誤解だよ。中野君は良い人だけど、付き合うとか全然ないよ。全然」


「そうなんですか。結構、清水さんと中野さんお似合いだと思ったんですけど違ったんですねー」


 そんなうわさが流れているとは……誰かに聞かれたらちゃんと訂正しないと。

午後からの仕事はあまり集中できなかったが、なんとか今日のノルマを仕上げた。


 外部監査の準備でたくさんの人が来たから、たまっている湯飲みを洗うため給湯室に行った。

早く帰るためテキパキと洗い3分ほどで終了した。


「さぁ、帰ろ」

給湯室を出ようとしたそのとき、黒い影が給湯室に入ってきて鉢合わせになった。


「綾塚くん!?」


「清水さん、今日一緒に帰れますか」


「うん。帰れるよ」



 会社を一緒に出てスタスタと無言で歩く綾塚君についていく。

次第に大通りから外れた人気のないところに入って行く。


「綾塚君どうしたの!? こんな人気のない場所にきて」


 少し不安になって話しかける。

すると突然両肩に衝撃が走る。

驚きで見上げると険しい顔をした綾塚君。


「この前俺の誘いを断った日に、清水さんと中野さんが2人でいるのを見たという話を聞きました。本当なんですか」

 

 勢いよく詰められて困惑する。

やや早口でまくし立てるように言う。いつも冷静な綾塚君がめずらしい。


「それはね、中野君が婚活パーティで出会った人との初デートに行くための服を一緒に選んでたの」

ごめん、中野君。婚活のこと言ってよかったのかわからないけど非常事態なんだ。


「そうなんですか」


綾塚君は少しいぶかし気な表情を浮かべた。


「好きだから! 綾塚君のこと。信じて」


 綾塚君は目を見開く。


 言ってしまった。

社内で。ムードもなにもないよ。

せっかくの告白計画が……


「疑ってすみません。でも嬉しいです」


 見上げるといつもの柔和な笑顔を浮かべた綾塚君がいた。


「いいよ。そのかわり日曜日、おごってね」


「はい」


と、さし出される手に私は自分の手をのせた。




 外部監査も無事終わり。

中野君とのうわさは中野君が完全否定して沈下させた。


 そして約束の日曜日。

サックスを演奏している姿に思わず見惚れてしまう。

綾塚君が主人公の映画のワンシーンみたいだ。


 演奏が終わり、私が座るテーブルに向かってくる。

綾塚君が向かい側に座り、私の目をじっと見て


「改めて言います。好きです。清水さん俺とずっと結婚を前提にお付き合いしてください」


「結婚!?。少し気が早いような」


「そんなことありませんよ。結婚適齢期ですよ。俺たち」

と笑う綾塚君に私は……


「はい。喜んで!! でも……結婚しても柚宮君のことは好きでいていい?」


「そんなところも大好きです」


「ありがとう」


これからも一筋縄ではいかない日々が待っているだろうけど2人で歩んでいけたらいいな。


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