デートが上手くいきますように
あと4回寝るとスターチャームのライブ。
それを思うと一番しんどい平日の真ん中でも元気よく仕事ができるというものだ。
おっと
もうお昼だ。
今日はお弁当持ってきてないから、なに食べようかな?
「清水。弁当持ってきてないのか」
同期の中野君に声を掛けられる。
数少ない社内で気兼ねなく話せる存在だ。
「うん。ちょっと寝坊しちゃって」
だが、柚宮君のヴォイスつきアバターをgetするためにミッションを必死にこなしていたら
午前2時を回ってしまっていた。
とは言えない。
「丁度よかった。昼、一緒にどうだ」
「うん。いいよ。行こう」
中野君とお昼ごはん一緒に行くなんていつぐらいぶりだろう。
なんだか楽しみだな。
会社から歩いて7、8分ほどにある定食屋さん、早い安い美味いで評判のお店。
生姜焼き定食が絶品。
久々に入った定食屋は綺麗になっていて、店主も奥さんも変わりなさそうで嬉しくなる。
生姜焼き定食を頼み、8分ほどで出てきた。
大盛りのごはんに味噌汁、お新香にサラダそして生姜焼きで750円。
久々に食べた感想は変わらず美味しい。
「清水に聞きたいことがあるだが、今いいか」
中野君が箸をおく。
いつになく神妙な面持ちで私も箸を止める。
「なに?」
「実は俺、婚活してるんだ。アドバイスが欲しい」
「え!? なんで、私にアドバイスを?」
「清水が婚活してるっていう話を聞いて。頼む」
いや、あれは言葉のあやで!!
ああもう、また安易なその場しのぎの発言で墓穴を掘ってしまった。
「えっと、婚活っていうのは正確には違うんでけど、アドバイスにはのるよ」
なにが正確には違うのか、言っている自分でもわからない。
「ありがとう、助かる」
私の話はどうでもいいみたいでほっとする。
「で、なにをアドバイスすればいいの?」
素早く本題に持っていく。
「先々週、パーティーに行って、5回目にしてはじめてカップルになれたんだ。
で、今週の日曜日デートなんだが、どんな服装がいいのかわからないんだ。異性でこんな話できるの清水しかいないんだ。力を貸してくれ」
中野君が頭を下げる。
真剣に婚活してたなんて全然知らなかった。
私たち、もう29だもんな。
「頭下げなくていいよ。よし。じゃあ金曜の夜、ショッピングモールで服を一緒に選ぼう」
「すまん。よろしく頼む。さぁ食べよう!! 今日は俺のおごりだ」
「ありがとう。もし、よかったら相手がどんな人か教えてほしいな」
私の質問に中野君は顔を赤らめて
「……俺と同い年で幼稚園の先生をしていてしっかり者だけど可憐な人だ。結婚したい」
と言った。
「週末残業地獄にはまってしまった……」
約束の金曜日。 ただいま、19時30分。
まさか終業時間直前に報告書があがるとは……
中野君はもう、仕事は終わってショッピングモールに先に行ってもらっている。
どうにか、月曜日の報告書は処理して急いで帰り支度をする。
「清水さん。お疲れさまです」
「綾塚君。お疲れ様。こんな時間まで外回りだったんだ」
「月末の金曜日は注文が多いですからね。あの、これから食事でも行きませんか?」
「これから約束があって急いでいかなきゃいけないの」
「そうなんですか。では、また今度」
「ごめんね。よかったら来週、遊ぼう!」
「はい。楽しみにしています」
綾塚君と別れ、タイムカードを押して走って駅に向かう。
ショッピングモールまでは電車で15分ほど駅直結で便利なところ。
電車に乗りもうすぐ着くと連絡する。
中野君はショッピングモールの正面入り口にいるとのこと。
「ごめん。待たせて」
「仕事忙しいのに付き合ってくれてありがとな。本当」
「困ったときはお互いさまだよ」
フードコートで夜ごはんを食べたあと
中野くんに連れられて入ったショップはとてもオシャレでカッコいいレザーがたくさん売っていた。
が、なんというか合っていない。
中野君は恰幅がいいからぴっちりした服は似合わないと思う。
「一度は着てみたかったんだよな~」
喜んでいる中野君には非常に言いづらい。
しかしここは心を鬼にしてはっきりと自分の感想を言う。
初デートが成功してほしいから。
「中野君にはその服は合わないと思うよ」
「そうか!?」
どこか残念そうな中野君。
「うん」
「清水はどんな服が俺に似合ってると思うんだ?」
「んー。爽やか系の清潔がある服の方がいいと思うよ」
「そ、そうか……」
その後、2人で意見を出し合ってアーガイル柄の一体型シャツとカーキ色のチノパンを買った。
買い物を終え駅へ向かう。
「全然、気の利いたこと言えなくてごめんね」
「そんなことない。清水に相談してよかった」
「日曜日、デートの成功を祈ってるね」
「ありがとな。また月曜日」
私とは逆方向の電車に乗り込む。
「うん。じゃあね」
中野君と別れたあと、帰る方向の電車が来た。
幸い座れたので一休み。
そうだ。来週のデート、綾塚君に都合のいい日程聞かないと。