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デートの誘いは突然に

「そうですか。じゃあ今日の夜どうですか」


 綾塚君の突然すぎる誘いに驚く。

まさか代替え案が今日。しかも夜。

どうしよう、でも、ここで断ったら自分のことしか考えてないよね。

勇気を出そう!


「わかった。でも、えらく急だね」


「折角。恋人同士になれたのだから、今日にでもすぐ会いたいと思いました」


天然なのか計算なのかわからない。


「少し夜遅いですが21時に清水さん宅に行きますので家を教えてくれませんか」


「いいよ。最寄りの駅までで。じゃあ21時に水無月駅なんだけど場所わかる?」


「わかります。では水無月駅で。あと、すみませんが夕食は取らずにいてくれませんか」


「うん。わかったよ。じゃあ、よろしくね」


 電話を終え、頭の中で初デート対策本部が立ち上がった。

仕事用なの服や化粧がいいか、それともイベント用の方がいいのか。

綾塚君にイベント用の姿を見られるのはとても恥ずかしい。

でも、デートだし仕事用の服装ではあんまりだ。


 いろいろと思案した結果

大人しめのロングワンピースとボレロカーディガンにした。

化粧はイベントに行くときと同じようにバッチリと

と言っても普段から綺麗にしている人から見れば地味だろう。


落ちつきなく過ごしていたら、あっという間に約束の時間40分前になっていた。


「もう、こんな時間だ。行こう」


 家から水無月駅は徒歩10分ほどだが、早めの行動は失敗が少ないだろう。

水無月駅に到着。現在20時35分。

50分近くになったら連絡しよう。

とりあえず本屋で暇をつぶそうとしたとき


「清水さん」

と声が聞こえてあたりを見回すと車の窓から顔を出す綾塚君がいた。


「綾塚君。早いね」



「待ちきれなかったんです。どうぞ乗ってください。今日は一段と素敵でかわいいですね」

そう言われると照れてしまう。


「そうかな」


「ええ、とても。あの清水さんなぜ後部座席になんですか」


「いつも実家では後部座席に乗るから。つい。こういう場合って助手席……だよね。ははっ」


「そうですね。」


 一旦車から降りて助手席に乗りこみ、車が走り出す。

異性の車に乗ることなんてないからドキドキする。



「どこに行くの?」


「着いてからのお楽しみです」

と綾塚君が微笑む。


「じゃあ、楽しみにしておくね」


 


 どうしよう。かれこれ10分近くお互い無言でBGMの心地いいジャズだけが流れている。

家族や綺華となら沈黙が気にならないが綾塚君がとは少し気まずい。


「えっと、ジャズ好きなの。いい曲だね」

沈黙に耐えかね話しかける。


「祖父がジャズサックス奏者で、子どものころからジャズはよく聴いています。俺自身も趣味でたまに、ジャズバーでサックス演奏してるんですよ。」



「そうなんだ!!すごいね。知らなかったよ」


「会社の人には誰にも言ってませんから」


「いいの。私の教えちゃって」


「いいに決まってます。清水さんは俺の“彼女”なんですから」


 彼女を強調されると恥ずかしい。

でも、私を信じて話してくれたのかな。


「今度、綾塚君のサックス演奏聴きたいな」


「そう言ってもらえて嬉しいです。近いうちにお誘いします」


「楽しみにしてるね。え!? 高速に乗るの?」

高速道路にのるとは思わなかった。


「大丈夫です。攫ったりしませんから。あと30分ほどで着きます」


 その後もいろんな話をした。

私が中学、高校時代、柔道部だったことを言ったらとても驚いていた。

職場や先輩後輩の関係だけでは決して知ることのできないいろんな一面が見れて

とても楽しい。


「着きました。ここです」


「ここって、サービスエリアだよね」


「はい。このサービスエリアにあるそば屋美味いんですよ。清水さん

この前の忘年会でそばが好きと言っていたので」


「ありがとう。そういえば、最近のサービスエリアは美味しいお店が多いらしいね」


 子どものころ、祖父母宅に帰省するときに止まっていたけどトイレが汚い印象しかなかったが

今は綺麗でおしゃれだとテレビでやっていた。


車を降りてサービスエリアの中にあるそば屋さんに入る。


もう22時前だというのに結構人がいて少し驚く。


「このそば屋は18時開店、24時閉店の珍しい店なんです。」


「へぇ、だからこの時間でも人が多いんだね」


「それもありますね。なに頼みますか」


「えーと、じゃあ十割もりそばを頼もうかな」


「わかりました。すみません。十割もりそば2つ、お願いします」


 7、8分待ってもりそば2人分が運ばれてきた。

そういえば今日はなにも食べていなかった。

突然のデートで慌てふためいて食欲を忘れていたが思い出した今、急激にお腹が空いた。

ああ、大盛りたのべばよかったな。


「どうしたんですか?」


「な、なんでもないよ。いただきます」


 すするとそばの芳醇な香りが鼻からぬけて、麺はしっかりコシがあって喉ごし最高。

水を飲むようにそばをすすりあっという間にたいらげた。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ。もう、一杯食べたいぐらいでよ」


「喜んでもらえて嬉しいです。おかわりしますか?」


「うーん。じゃあもう一杯頼もうかな」


 おかわりをしてお腹が満たされて幸福感でいっぱいだ

そしてお会計の時間。

払う払わないの押し問答は苦手だな。


「俺が誘ったんで奢ります。でも、清水さんはお代わりをした分はいただきます」


 言いたいことはお見通しと言わんばかりに、にっこりと笑う。

天然じゃない。

絶対に恋愛経験豊富だ。

駆け引きで勝てる気がしない。

私は盛りそば一杯分の金額を綾塚君に渡した。


「今日はありがとう」

気恥ずかしいが正直な感想だ。


「今日のメインはこれからですよ。」


 突然、手をつかんで歩き出す。

あっけにとれている私をよそに綾塚君はずんずんと歩いていく。

いつの間にか外に出て駐車場のから見て裏側の広場へ来た。


 するとそこには光り輝くイルミネーションが眼前に広がっていた。

まるで満面の星空を地上に映したみたい。


「わぁ、綺麗だな」


「このイルミネーション有名らしくて清水さんと行ってみたかったんです」


「ありがとう」


 ありがとうとしか言ってない。綾塚にしてもらってばっかりだ。

私に返せることってなんだろう。


 広場をまわりながらイルミネーションを見終え、サービスエリアを後にしてただいま車の中。


 車に乗っている間ずっと私はなにをしてあげられるのだろと考えている。

口下手で話題に乏しいし流行に疎いし……

マイナス思考になっていてもしょうがない。

今度は私から誘ってみよう!!


「また、遊びに行こうよ。その時は私がおもてなしするよ」


「はは。楽しみにしています」

帰りは家の前まで送ってくれた。


「今日は楽しかったよ」


「楽しかった……だけですか?」


「……ドキドキしたよ。こんなの初めてだから」


「ならよかったです。では月曜日に」


「うん、さよなら」


 車を出て、綾塚君を見送った。

たった3時間ぐらいのできごとなのに濃密だったなぁ


 時計を見ると23時47分。

もう日曜日か……あ!!! 24時からスターチャームのラジオはじまる!!

早く家に入らなきゃ。



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