こんな私でいいのならよろしくお願いします。
「え?」
一瞬なにを言ってるのかわからなかった。
「1年ぐらい前から好きでした。
今日、清水さんが婚活していると聞いて居ても立っても居られなくなりました」
いや、あれは言葉のあやで……
「清水さんが俺のこと、どうとも思っていないことは知っています。今はとりあえずでもいいです
付き合ってください」
自分の言ったことで墓穴ばかり掘っている気がする。
綾塚君は嫌いではないし好青年だと思うが異性として意識したことはなかった。
好意を持たれることは素直に嬉しい
だけどこんな気持ちじゃ付き合うなんて失礼だ。
お断りしよう。
でも……心の底で迷う気持ちもあって頭の中がまとまらない。
「少しでも迷っているなら、待ちたいです。清水さん答え」
暫しの沈黙を破ったのは綾塚君だった。
「うん……考えとくよ。明日も早いし出ようか」
出てしまった私の問題を先伸ばす悪い癖が。
「いや、俺はもう少し飲みます。」
「じゃあ、これ私の飲んだ分」
正確な代金がわからないので5000円を綾塚君にさし出す。
「いいですよ。無理に誘ったんですから」
「いや、飲み自体は楽しかったし、先輩だから」
半ば無理やり押し付ける。
「ふふっ。そんなところも好きです」
もう止めて私のライフはゼロだ。
ただ私は物事の貸し借りが苦手なだけだ。
「じゃあ、また明日」
「はい。気を付けて帰ってきてくださいね」
家に帰ってベットに倒れこむ。
お風呂に入る気も起きない。
好き、付き合ってほしいの言葉が延々とリピート再生される。
「ああ!ダメだ」
こんな調子じゃ明日に影響が出る。
心を落ち着かせるためスターチャームのアニメDVDを見よう。
明日行けば週末だ。休み中にゆっくり考えよう。
次の日、会社で綾塚君とは接触なく終わった。
一人でいろいろと考えていたが結局、答えを出せそうにない。
ここは有識者に相談しよう。
私は高校時代からの親友、斎藤綺華に聞いてみる。
「もしもし。綺華、元気?」
「まぁ、変わりなくやってる。で、悩みでもあんの」
す、するどい。
「な、なんでわかるの!?」
「声のトーン。でも長くなりそうなら少し待って。子ども寝かせるから」
そうだった。つい独身のときと同じテンションで電話してしまった。
「やっぱりいいよ。忙しいとこ、ごめんね」
「キャンセル禁止。後でこっちから電話する」
約1時間後に綺華から折り返しの電話がきて、私は綾塚君に告白されたことを話した。
「ふーん。好意を持たれて嬉しいと思ったんなら、とりあえず付き合う」
「で、でも、誠意がないような」
「付き合ってみることが誠意。一番不誠実なのはだらだら引き延ばすこと。次に断ること。夏海がその人のこと好きじゃないこと知ってるんでしょ。そこまで言ってるのに断るなんて男のプライド丸つぶれよ。
」
「社内だし……」
「断ったほうが気まずい。そりゃあ、別れたらもっと気まずくなるけど、付き合う前から別れること考えてどうすんの。」
「……」
「あ、じゃあ、夏海が好きな推しの子のこと話して引いたら断る。引かなければ付き合う。でどう?」
「え、そんなことに柚宮君を使うのは……」
「なんで? 引く男なら願い下げだし、受け入れてくれるなら最高じゃん。
そんでね夏海、告白は勇気がいる行為なの。だから夏海も勇気を出すのが誠意じゃないの」
勇気を出すが誠意。
その言葉にハッとする。
そうだよね。私、自分のことばっかりだ。
綾塚君のこと全然考えなかった。
彼は引いてしまっても、馬鹿にしたりする人じゃない
「わかった。それでいくよ。綺華、ありがとう」
「健闘を祈る」
電話を切り、時計を見ると深夜1時をまわっていた。
こんな堂々巡りのどうしようもない私に付き合ってくれる友達がいるなんて幸せ者だ。
今日にも綾塚君に電話すると決心して眠りについた。
目を覚まして、朝ご飯を食べて、snsであるさんと盛り上がっていたら
お昼の2時を過ぎていた。
「よし、電話しよう」
電話を持つ手が震える。
落ち着け、落ち着け
ここは柚宮君に力を分けてもらおう。
深呼吸して柚宮君のポスターを見つめる。
すると「頑張れよ」と応援してくれている気がして勇気が湧いてきた。
綾塚君の電話番号に発信ボタンを押す。
「出るかな」
緊張で胸が張り裂けそうだ。
「はい」
数回保留音がした後、声が聞こえた。
「あのね、綾塚君。この前の話なんだけど。
もし、付き合うなら一つ知っていてほしいことがあるんだ。」
「なんですか」
「私、柚宮玲弥君。ていうゲームキャラクターが大好きなの。その子のおかげで明るくなれた。
希望が持てたの。付き合ってもゲームのイベントやライブには行きたいし、優先するときもあると思う。
そんな私でもいいなら、よろしくお願いします」
この間ほぼノンブレス。
電話の向こうからクスクス笑いが聞こえる。
「はは、清水さんのそんなところ大好きです。よろしくお願いします」
スマートに大好きと言える綾塚君。
結構、経験豊富なのか?
「そんなところってどんなところなの?」
疑問に思ったので聞いてみる。
「俺の勝手な告白にも真剣に答えてくれるところです」
綾塚君、私のこと過大評価しすぎだ。
綺華に活入れられただけなのに。
「私を過大評価しすぎだよ。友達に言われたんだ。誠意をもって答えないとって」
「いいんです。清水さんが誠実なのは知ってるんで。早速ですけど来週の日曜日デートしませんか」
来週の日曜日は……
「ごめん。来週の日曜日はライブがあるんだ」