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神様の騎士  作者: ジウ
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第一章第一話

まだ頭がぼんやりとしている。

眠い。寝たい。

それしか考えることが出来ないが、今日は2日ぶりに執務に復帰する日だ。早めに起きなくてはいけない。


「姫殿下、おはようございます。」


気づくと、ドアを開けて侍女のディアナが入ってきていた。


「おはようディアナ…まだ眠いわ」


「存じておりますよ、でも今日からは執務がございますでしょう、お起きにならなくては」


「はぁい」


ベッドから身を起こして、ディアナに手伝ってもらって身支度を整える。


「今日も本当に綺麗な黒髪ですわね…羨ましいですわ」


「ほんとう?ありがとうディアナ」


私の髪は黒い。

これはこの国では普通のことだが、私は王族ということもあるのか特に黒々とした髪を持っていた。


この国には大きくわけて二種類の人がいる。

ひとつは金髪の人。

もうひとつは黒髪の人。

これは、初代国王が金髪で、王妃が黒髪だったためと言われている。

その中でも王族、準王族は、国の中でも唯一紫の瞳を持つ。

たとえどんなに王族に近い血筋でも、紫の瞳を持たなければ準王族ではない。

私は例に漏れず、紫の瞳を持った正当なる王女だった。

私はこの容姿が好きだ。

大好きな母に似た顔立ちに、愛する父と同じ黒髪。

着替えと化粧が終わった姿で鏡に向かってニコリと笑うと、私はこう声に出して言った。


「さて、今日もがんばるぞ!!」



部屋を出ると金髪に紫の瞳の男性が待っていた。

兄のマクシミリアンだ。


「おはようフィーネ、体の調子はどう?」


「おはようございますお兄様。大丈夫、もうすっかり元気。」


兄はこの国の皇太子だ。

母に似て日に透かすと桃色に光る金髪がとても綺麗で、国民やご令嬢からの人気は絶えることがない。

私も大好きな最高に完璧な兄だった。


「フィーネ、父上がね、3日執務を休んでいて大変だろうから、朝食の前に円卓会議をやろうと仰っていたよ。」


「そうなの?私、資料も何も持っていないけれど…」


「大丈夫だよ、この3日で変わったことや引き継ぎ案件を教えるだけだから」


「わかった、ありがとうお兄様」


そのまま二人でおしゃべりしながら、円卓会議室へと向かった。


円卓会議は、毎朝開かれる王族のみの会議だ。

私も兄も見習いとはいえしっかりと執政に関わっているので、不平等にならないよう会議は円卓で行っている。

この円卓会議で家族間の情報伝達や意見交換をした後、お父様ならば大臣や官僚の参加する大会議で、私ならば道化騎士団の会議で細かいことを決めていく。


円卓会議室に入ると、既に母が待っていた。

桃色と紫が美しく混ざり合うドレスを着た母は、今朝も神々しいほどに美しい。


「おはようございます母上」


「おはようございます、お母様」


「おはよう、マクシミリアンにフィーネ。フィーネは怪我はもう平気なのね?」


「はい、看護師長と医頭のお墨付きも貰いました」


「それはよかったわ、これからも傷をつけないように気をつけるのよ?」


「はい、お母様」


母はニッコリと笑ってうなづいた。

その仕草だけでも、とろけるように美しい。

そして、溢れんばかりの気品があった。

彼女こそ、この国の王妃である。


「おはよう、みんな」


ちょうどその時、ドアが開いて父が入ってきた。

後ろで一つに束ねた黒髪は夜の闇より深く、その瞳は私や兄と同じくアメジストの輝きを放っていた。


「おはようございます、陛下」


「おはようアンリエッタ。今日も美しいな」


「あら、嬉しいですわ」


父と母が当たり前のようにキスをする。

会議の前にいちゃつかないでくれ…


「お、おはようございます父上」


「ああ、おはようマクシミリアン。昨日はよく眠れたか?」


「はい、やっと例の草案がまとまったので…」


「そうか、まとまったか!後で見せてくれ」


「承知いたしました」


父が兄の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

犬みたいだ。


そして、父の目が私を捉えた。


「フィーネ…大丈夫そうだな、今回も酷い怪我だったそうじゃないか。見舞いに行けなくてすまなんだ」


「大丈夫よお父様、慣れてますもの。何年この仕事をやっていると思っているんです?」


「はは、そうだったな。では今日も会議を始めるとするか」


「「「はい」」」


―――そして、会議は滞りなく進んでいった。

兄が四苦八苦してまとめた新しい事業の草案、数日中に決まった事柄を確認し、私が休んでいた間に肩代わりしてもらった仕事や肩代わりできなかった仕事に目を通していく。

もう会議も終わろうかという時、ドアを叩くものがあった。


「会議中に失礼致します!姫殿下は居られますでしょうか!」


「いるわ、どうしたの?」


「北区にオプシディアが現れました。現在出動可能な者では歯が立ちそうにありません!」


「了解、5分以内に出動します。お父様、お母様、お兄様、そういうことですので失礼ながらここで」


「わかった、行ってこい。あとで資料は届けておこう。怪我をするなよ」


「はい、お父様」


走り出すと、うしろから気をつけてね!という母と兄の声が聞こえた。

片手をあげて答え、そのまま廊下からバルコニーへ走り出て、欄干を飛び越えた。


―――普通ならば、このまま墜落して大怪我をするのだろう。

だが、私は違った。

鳥のようにふわっと空に浮かび、勢いを殺さず飛び続けた。

体にぐっと力を入れると光の粒子が私を包み、ドレスは道化騎士団の隊服へと変わった。

見回りの騎士の敬礼に答え、そのまま城壁を通り過ぎる。

すると、背後から声をかけられた。


「姫殿下、病み上がりなのにいきなり出陣なんて、大丈夫なんですか」


「あれ、フレデリク。あなたもいたの」


「ええ、ちょうど城についたところあなたが飛び出していくのを見かけたので、馬車から飛び降りてきました」


フレデリクは第二道化騎士ジェスターで、副団長だ。

どうやら、怪我をしたばかりの私を案じて付いてきてくれたらしい。


「苦労をかけるね。―――大丈夫、もとより大した怪我ではなかったし。骨が折れただけだもの」


「普通はそれを大した怪我と言うんですよ。……目標は北区ですか?」


「そう。現在出動可能な者で歯が立ちそうな奴がいないとか。……そんなに強いやつの侵入をどうして許すのよ」


「何かありますね、たとえば協力者とか、たとえば裏切り者とか」


「ええ。でもまずはオプシディア討伐が最優先よ。行きましょう」


「はい」


二人でそのまま飛び続け、北側の山肌が見えてきた。

ここまで来れば、どこに敵がいるかなんて丸わかりだ。


「―――いた、あそこ」


私が指さした方向には、黒い煙と炎が見えた。


「火事が起きている?!姫殿下、どうします?」


「私が討伐。あなたは鎮火と周辺住民の避難を」


「承知」


私は手に力を込め、私の―――アルルカンの武器、“レゾンデートル”を出して敵に切りかかった。


「そぉら!アルルカン様のお出ましだよ!オプシディアならオプシディアらしくかかってきなよ!」


私は哄笑しながらバッサバサ敵を切っていく。

奴は一体だったが、かなり体長が大きかった。

大きめの家1件くらいの体から腕を何本も生やして、長く伸びた首には醜悪な見た目の頭がついている。

トカゲのような頭は目がギョロギョロと動いて、実に気持ちが悪かった。


『ギャアォォォォオオォオォオォォォオオオォゥウゥゥウ!!!』


口を大きく開いて私に向かって雄叫びをあげる。


「うっわ、気持ち悪い顔。でもね……」


ちっとも、怖くなんかない。


「だって私はアルルカンだし?」


レゾンデートルは大きな剣だ。

私の身長ほどある片側は持ち手で、反対側は刃になっている。

黒と赤の模様が恐ろしいほど美しく、私はこの大剣が気に入っている。

迫ってきた奴の腕の1本をバックステップで避けて切り落とすと、奴は痛そうに顔を歪めた。


「すまないね、でもお前のせいで仲間が傷ついてるんでね……」


私は手を口に当てて、フッと軽く吹いた。

すると、猛烈な紫の炎の竜巻が現れる。


「………貴様の罪の、報いだ」


竜巻は敵を包み込み、苦しげな声を上げながら奴は動きを鈍くしていった。

その死を確認することもなく私はくるりと振り返り、フレデリクの様子を見に行った。


「フレデリク!そっちはどう?」


「大丈夫です、もう少しで鎮火します」


フレデリクは両手を胸の位置まであげ、燃える家に向かって氷を出していた。

巨大な氷の塊は炎を包み、どんどん鎮火していく。


「住民はどこへ?」


「あちらの広場へ逃げるよう指示しました。軽傷の者が数名いましたが、命に別状はありません。」


「この家の中にも人は……うん、いないね。そろそろ王立騎士が来そうだし、引き上げるか」


「そうですね、行きましょう」


私たちは到着した王立騎士に引き継ぎを頼み、城へと向かった。




建国神話において道化騎士団は、“わるい神様から竜の神様と人間を守るために”生まれたと書いてある。

初代竜の神様は建国神話の中で『わるい神様はかんぜんにたおされたわけではありません』と仰っているが、それは本当だった。

ルフテルナード建国から数年後、私たちが“オプシディア”と呼ぶ化物がこの国を襲ったのだ。

奴らは多岐にわたる異能力を持ち、道化騎士を凌駕した。

けれどもただで道化騎士が敗れるはずもなく、過去の道化騎士達は新しい能力に開花していった。


道化騎士団は、10人からなる少数精鋭である。

その下に王立騎士団という騎士団があり、その中でも優れた者が10人ずつ、道化騎士1人の部下となる。


第一道化騎士アルルカンは、現在私が務めている。

武器の名は“大剣”レゾンデートル。

時空を司る、炎の道化騎士アルルカンは、初代をアル·レスティンと言った。

彼の子孫はアルルカンの血筋を持つ家系“レスティン公爵家”となり、先代アルルカンはレスティン家出身だった。

ちなみに、初代王妃はアル·レスティンの妹であった。

そのため、アルルカンはレスティン家と王家の者が務めることが多い。


第二道化騎士ジェスターはフレデリクだ。

武器の名は“双剣”ティレアリア。

攻撃を司る、氷の道化騎士ジェスターは、初代をジェイン·ボルジアと言った。

ボルジア侯爵家は現在も続き、アルルカン担当文官長のルイはボルジア家の次男である。

フレデリクはボルジア家の者ではないが、母君がボルジア侯爵の妹で、その関係でジェスターの力に目覚めた。


先日私と出動したソールは、第三道化騎士コメディアだ。

武器の名は“大剣”シュレディンガー。

破壊を司る、雷の道化騎士コメディアは初代がコーネリウス·アーデルラルテという人で、アーデルラルテ家は二つに分かれてアーデルベルト大公家とアーデルハイト大公家となっている。

アルルカンとコメディアは対となる。

私のレゾンデートルとソールのシュレディンガーは模様が少し違うだけで同じ形だ。


あと7人の、第四道化騎士クラウン、第五道化騎士ジョーカー、第六道化騎士ピエロ、第七道化騎士キッド、第八道化騎士フール、第九道化騎士バフーン、第十道化騎士ハーレクイーンが、それぞれ役目を持って戦っている。

私たちは一人欠けても成り立たず、全員が全力で仲間をフォローしている。

建国以来1200年続いてきた道化騎士団は、今もこうして、神に仇なす敵を討っている。

医頭…くすしがしら

お医者さんです


他の7人の道化騎士さんたちはあとで出てきます。

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