忘れたくない記憶を胸に
だーいぶ長すぎます。
気をつけて!
改)サブタイトルを言葉から記憶に変更しました。
後、後半の性別云々のあたりをいじりました。
「はっはっは〜!
と言うことでお前は死んだ!」
目の前にいる黒瞳黒髪のアジア系、って言うかまんま日本人っぽい女の人がほざいた。
黒い着流しに長い黒髪、黒だらけの中で映える雪のような白肌
口を閉じていれば超絶キレイ系美少女に見えるのに話す言葉が剛毅すぎて残念に見えるその女は、
「まぁ強盗やっつけたのに行き掛けの駄賃で魂持ってかれるのには同情するわ。」
美しい顔を可哀想な物を見るように歪める
「うっさい、神様うっさい!
残念な神様に言われたくないっ!」
こちらも美少女顔を赤くして叫ぶ
「ざ、残念じゃねぇし、あれはただ噛んだだけだろ!?
ほとんど人こねぇんだぞっ!ヒキニートなんだぞっ!!」
自ら地雷を踏むチグハグな容姿と言動の女神
「やっぱ噛んだんだぁ〜、へぇ〜。
ヒキニートなんだぁ〜、へぇ〜。」
したり顔でニヤニヤ笑うチグハグな容姿と性別の学生
「テメェ神様ナメすぎだボケがっ、いっぺん死んでみろっ!
あと神様は自分の神域から出れねぇんだよっ!!」
懐から取り出したのは扇子
そして、その夜空が描かれた扇子を一閃
ぽんっ
破裂音を響かせて優は、
“破裂した”
「はっ!
……もしかして死にました?」
扇子を振られてからの記憶が欠如していた
しかし、感覚は残っていた
全身が解けて粒子になり、拡散していくような感覚
思い出すだけで悪寒がする。
「死んだってのは正しくないな。
正しくは“吹き飛ばされて再度凝固した”だ。」
「なにがって言うのはダメですか?
まぁ聞きたくないんですけど。」
とても、とってぇ〜も嫌そうな顔をして尋ねる
「お前の魂だけど?」
当たり前だろ?死んでんだから、そう言い放たれる現実
第三者に言われて、初めて飲み込める現実
そして、思い出す感覚
一回目、大量に血がなくなって、寒くなってきて、頭がクラクラして、指先すら動かなくて、刻々と近づいて来る“死”の足音
二回目、全身が弾けて消えていく
およそ生きていく中で味わうことのないだろう死に方への恐怖
“死”への恐怖
ペチッ
「痛いです。」
「当然だ、なんせ紙防御の魂を叩いてんだからな。」
優を見る表情は何処か強張っている
先ほど優が飲み込まれそうになった時の、扇子の叩きも何処か優しげであった
「さっきみたいなことはもう考えんな。
お前は魂ってるから、そう言うことを考えたら消滅えちまう。
いいな?」
ばつが悪そうに、そして柔らかに問いかける
「はい、
そして、
ありがとう。」
薄く微笑んだ
「ッ!?
……うっせ。
礼を言われることなんざしてねぇよ。」
「ここは謝罪ではなく、感謝するべきだと思っただけです。」
「うるせぇって言ってんだろ。」
なんども言わせんな、そう言いたげにこちらを見る艶やかな黒髪美女
「そろそろ茶番は終わりにして話してくれませんか?本当の内容。
まさか僕にいじられに来た訳ではないでしょう?」
茶化している風だが、その表情は真面目だ
「はぁ、……なんでこう一言余計なんだか。
まぁいいか。
で、なんでアタシ様が人の子風情のオモチャになってあげたかと言うとだな、
こちらの不手際で死ぬ筈のない人の子、つまりお前が死んじまったからだ。」
呆れた表情から一転、神様らしい神神しさを兼ね備えた女神がそこにいた
「いや神神うっせぇよ!」
突如発狂する神
「あ、聞こえてるんですか?
僕の心の声が。」
原因はこいつだった
「お前ただの魂だろうがっ!
心も体もクソもあるかっ!」
「クソもないんですね。」
「……。
うちの神様連中は色々いてな、
その中でも堕ちた神、邪神っつー奴がお前が死んだ原因なんだわ。」
「説明するんですね。」
至極真面目に突っ込む
優はツッコミもボケもこなす、オールラウンダーなのだっ!
「本来死ぬ確率が、9が無限に続くほどなかった筈なのに、
邪神の干渉のせいで死んじまった。
そのお詫びを今からやろうってのが今回の話だ。」
無表情を貫く女神
真顔でボケる青年
「邪神なんていました?」
心当たりないなぁ〜、そうのほほんと呟く
「死ぬ前に変な電話あっただろ?
あれでお前の居場所が割れちまったんだよ。」
「あ〜ありました、ありました〜。
非通知ですぐ切れたから変だとは思っていましたけど……。
ってあれ?神様って基本不干渉とかじゃないんですか?」
今時のネット小説とかならそうだった気が〜、う〜む。
まぁ基本人間が考えているだけで神話とかだったら結構干渉してるしなぁ。
なるほどわからん。
「今回の邪神が特別なんだよ。
神格つって神専用の特別な力があってな。
今回の邪神の神格は、【夢見る三千の我】って言う名前でめんどくさい能力なんだよ。
厳密に言うと違うんだが簡単に言うと、自分の分身を世界に割り込ませる力だ。
本来干渉出来ない筈の神が分身とはいえ割り込んで来るんだ。
リソースをガバガバ持ってかれるわ処理重いわなんか面倒なこと起こすわでホント死ねって感じマジで死ね【キー】のクソ野郎がっ!」
真面目に話していたのに何故か愚痴になっている
それほど面倒な相手だったのかな?
それよりも“キー”って何?と言うか誰?
「あぁ?
【キー】って言うのはさっきの邪神だよ。」
「そういや心読めるんでしたね。
それより“キー”って鍵ですか?」
英語で鍵という意味の“キー”
そう聞こえたのだが、どうにも発音が違うように見えたのだ
「いや、神様の言葉ってやつで人の子には理解できない言語だ。
私の名前なんかだと【アルギリガルザ】って名前だ。」
「神様にも名前ってあるんですね。」
なんか固有名詞がないのかとばかり思いましたけど、
あったんですね。
「おう、名前ねぇと誰が誰だかわからんだろ。
ってまた脱線してるじゃねぇか!!」
神妙な顔でうんうん頷いていたのに、
いきなりクワッって目を見開いたのにはびっくりします。
「はいはい話しを続けるぞ。
邪神とは堕ちた神、自身の管理していた世界をどうであれ壊してしまった神のことだ。
世界とはいわば、神の力、
でもまぁ減ったり増えたりするから不安定で脆く、だが神の力足り得るもの。
けど、【キー】のクソは自身の世界を喰った。
自身の世界を喰って神格が上がったせいで、本来は自分の世界だけにしか作用しない神格が、
他の神の世界まで干渉できるようになったって訳なんだが。
それで今回の話、随分遠回りした気がするが、
邪神【キー】がいる世界に行ってもらうのが今回のお詫びの一つ。
する気があるんだったら復讐でもしたら?っていうこと。
そしてもう一つ、そこは俗にいう剣と魔法の世界ってやつだ。
そんなとこで人の子の学生風情が生きられる筈もないからなんでも能力を授けようってのが二つ。」
真面目ぇ〜に、さっきまでの茶番が嘘みたいに話す女神様
「なんでもですか?」
「なんでもだ。
ただし、あんまり強すぎると制限がかかるがな。
例えばなんでも殺せるようになるとかだったりすると、
神の警告を無視すると死ぬとか。
実際それをして死んだ奴もいるから人の子の業は深けぇよな。」
ケラケラと笑う女神
しかし、その目は笑っていない
しかと此方を見据えている
「あ、言い忘れてたけどな。
お前が“あっち”に行ったら最低限の記憶以外は消されるから。
最近多いんだよ、転生者とか転移者とかが産業革命起こしまくんの。
だからお前の記憶はそうだな、名前・勇者・転移者・日本・地球・邪神、
これだけだ。」
唐突に言われる自身の人生、その記憶がなくなる
さっき言った項目以外消え去るならば、母さんも詩織も、
父さんの言葉も。
全部全部、消えてしまう。
秀とバカみたいに騒いだり、詩織と遊んだり、母さんと恋話したり、
大して重要でもない、とりとめのない内容だけども、
心を満たしてくれる、自分を形作ってくれる、黒崎優としての全てを、
消される?
嫌なんだ、絶対に。
僕は、自分でなくてはならない。
そう思う。
父さんは言った。
前を向きなさい、と。
でも、その記憶がなくなったら?
僕はきっと前を向けない。
だって、僕はどうしようもないくらいに弱いから。
父さんの言葉が弱い僕を支えてくれたのに、それを忘れてしまったら前には行けない。
僕は“あの頃の僕”ではないけれど、忘れてしまったら元に戻ってしまうだろう。
父さんの言葉は僕の勇気、その灯は何があろうとも守ろうと、
そう誓ったのに、目の前で消える?
それはダメだ。
絶対に。
この女神は、【アルギリガルザ】はなんて言った?
異世界に行ってもらう?
いいや違う。
なんでもと言ったのだ。
どんな能力でも与えてやろうと。
正解は?
もう出てる。
答え合わせは?
そんなものいらない。
いつ言うの?
今しかないだろっ!!!
「神様、いや、女神【アルギリガルザ】。
僕に、全てを忘れない力を。
この頭に、心に、魂に、全ての記憶を焼き付ける力をください。」
キョトンとした顔で此方を見る神は、
「お前が言ってることをわかってんのか?
神であるアタシが、今、さっき、全てを忘れて生きろと言ったんだぞ?」
即座に、僕の言った言葉の意味を理解し、神に相応しい圧倒的な理不尽を叩きつける
「僕は忘れたくない、忘れられない言葉があるんです。
それを忘れる訳にはいかない。」
理不尽を受けて、後ずさりしそうで、言い換えそうになるのをこらえて、僕は言う。
「言葉か。
そうか言葉か。
じゃあ聞こう、そこまでして忘れたくないその言葉を。」
口を開く
「前を向いて、目を開いて、手を握って、
ぶん殴れ。」
「そっちかい!!!」
「え?
そっちって、え?
どっちなんですか?」
「“後悔する、弱音も吐く、だけどかならず、前を向く”だろっ!?」
「え?そんなこと言ってましたっけ?父さん。」
「うぉい!!
最後の言葉くらい全部覚えとけやっ!!」
「これから忘れるんですけど?
って言うかなんで知ってるんですか?」
「かーみーだーかーらー!!
あのなぁ、今生の別れだろ、死に際の一言だろ、漢のアツイ言葉を忘れんなよ。」
血も涙も浪漫もない、お前本当にアニメ大国日本人か?、と熱く語ってくる女神。
かなりと言うか大分と言うか、ウザい。
「つっても女のお前にゃ言う意味ねぇか。」
ったく最近の若ぇ奴らは……、そう言って肩をすくめる神の言葉に疑問を抱く
「僕男なんですけど。」
「へ?」
フリーズする女神
「お、男?
そのツラで?
っ!?マジだこいつ、完っ全に男のアレが付いてやがる!!」
「どこ見てるんですかっ!!
って言うか何を見たの!?いやナニを見たの!?
それよりなんで見えるの!?」
「いや神様だし、何でも出来るし、とっても偉いんだし。
と言うかそれよりさぁ、生まれる性別間違えたんじゃねぇの?」
前半しょげて、後半真面目に、しみじみと言う
「だまらっしゃい。」
「……。
まぁいいや。
勇者としてあっちに転移する訳だが、そこらへんはお前の頭に詰め込んでやんよ。」
「そうしてくれると助かります。」
ぺこりとお辞儀して、
「諸説明終わったっぽいですしこれでお別れですか?」
「あぁそうなる。」
「最後に二つほど聞いても?」
心残りというか〜まぁそういうのがあって、と言った優は、
「まず一つ、なんで日本人なんですか?」
神のはずなのに、容姿が日本人顔でさらに着流しまで着ている
とっても気になっていた部分である
「お前が日本人だから。
同じ外見だったら親しみやすいだろ?」
片目を瞑ってウインクをかましやがる女神
「二つ目、なんで勇者?」
「チーレム無双でお幸せに。」
最後の最後で神っぽい仕草を返した女神の姿が、消えた。