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拾った始まり

 初めまして、しおんと申します。ペンネームとしてはありきたりな名前かと思いますが、どうぞお見知りおきを……。

 普段は拙い文章を自己満足で済ましていた人間ですが、これではいけないと思い投稿させていただきました。

 「夢現の彼方まで」というタイトルですが、某バズ・○イトイヤーさん引用ではありません。「夢現」と書いて「ゆめうつつ」と読みます。

 ちなみに「連載」の枠として投稿していますが、一話製作段階の今ではあまり長くするつもりはありません。

 長くなってしまいましたが、お楽しみいただけると幸いです。

 魔女は未来を恐れた。少女は現在を恐れた。老人は過去を恐れた。


 彼らは皆、何かを恐れて生きていた。



 そこはかつて薄暗い木々に囲まれた小さな村だった。

 水で湿った地面を一人の老人が歩く。老人は銀色の鎧を纏い、右手には純白の騎兵槍を持ち、腰には剣を帯刀している。

 白の長髪が風で揺れ、多くの傷跡がついた顔を覗かせる。

 辺りを見回すと、崩れた家々が目に映るばかりだった。それらのいくつかには焼け跡が残っており、つい先ほどまで燃えていたことを物語っている。

 老人の周りにはたくさんの同じ鎧を纏った騎士たちがおり、今も必死の消火と救助活動を続けている。


 老人は思った。これは全て自分のせいなのだと。


 魔女との死闘の末、行き場を失った『魔獣』がここを餌場として選んでしまったのだと。最後の一撃さえ完全に打ち消すことができていれば、こうはならなかったかもしれないと。

 事実、地面には違和感こそあるものの、明らかに人とは違った足跡がいくつも残っていた。家の中から発見できるものが焼死体ばかりなのも頷ける。焼けていない死体のほぼ全ては魔獣どもが持って行ってしまったのだ。

 老人は両手を強く握り、奥歯が砕けそうになるほど食いしばった。

 この村が滅んだ責任は全て自分にある。

 そればかりが頭に浮かび、魔獣への怒りで気が狂いそうになった。


「ダメだ。こっちももう死んでる」


「この家も全滅だ」


「こっちには辛うじて血の跡があったが、森に連れて行かれちまってる」


「気をつけろ! その家、もうすぐ崩れるぞ!」


 そんな声が老人の耳に入り、頭をガンガンと鳴らす。今すぐ走り出して、目に入る全ての魔獣を殺してやりたいとさえ思った。

 その時だった。

 一軒の家が轟音を立てながら完全に崩壊した。地面にその衝撃が走り、騎士たちの視線が一斉に集められる。「怪我人はいないか」と隊長が呼びかけるが、誰も怪我はしていないようだった。


「うぅ……」


 ふと、どこからか呻き声が聞こえた。それはとても小さく、他の騎士たちは気付いていないようだ。

 老人は辺りを必死に見回す。聞き間違いではない。家が崩れた轟音の中でもそう確信できたからだった。

 耳に届いた声の方向から、あるひとつの家に老人は辿り着く。しかしその家はすでに倒壊してしまっていた。倒壊が他の家より早かったのか、魔獣に襲われた跡こそあるが、燃えた様子はあまりなかった。

 老人はこれ以上崩してしまわないように細心の注意を払いながら、崩れた家を様々な角度から覗く。必死に目を凝らしていると、暗い家の奥に泥で汚れた金色が見えた。それは一人の金髪少女が埋もれている姿だとすぐに理解する。少女は意識こそ失っていたが、まだ息はあるようだった。


 老人は純白の槍を支えにして家が崩れないよう固定する。そして全ての鎧を外し、動きやすくしてから身体を家の中へ滑り込ませた。

 少女のところまで辿り着くと、彼女を押し潰している柱の下に両手を滑り込ませ、全身の力を使って持ち上げる。ミシミシと嫌な音を立てながらも柱は持ち上がり、少女との間に隙間を作る。その瞬間に少々荒っぽくはあったが、足を器用に使って少女を踏み潰されない位置へと滑らせる。それから持ち上げていた柱を下し、少女を抱えてその家を出た。


 少女は全身が傷だらけだった。足に至っては折れてしまっているだろうと老人は思った。

 地面に少女を寝かせ、救護班を呼ぼうとする。しかし、そこで老人にはある疑問が浮かんだ。


 ここで助かることは、本当に少女のためになるのだろうか。


 老人の額に汗が浮かぶ。周囲の音と色が消え、まるで時間が止まったかのような感覚に陥った。

 早く治療しないと助かるはずの命も助からない。そんな状況で自分は彼女を救うか否かを悩んでいる。こんな馬鹿げた話はない。しかし、助かったあとの少女のことを思うと考えずにはいられなかった。

 少女は家も、生活も、両親も、友人も、何もかもを失った。その上でこの悲劇の元凶とも言える自分に助けられるのだ。それは本当に幸せだろうか。

 生きていれば良いことがある、と言う人もいるが、果たしてそれはこの少女にも当てはまるのだろうか。

 老人にはわからなかった。いや、わからなくなってしまっていた。

 助けることが何よりも優先で、何よりも少女のためになると知っていても、それが少女の幸せなのか、少女の望んでいることなのかはわからなかったのだ。


 ここで殺してあげた方が少女のためになるのではないだろうか。


 今の老人にはそれが最善手のように思えた。ここで助かっても、少女には誰も残ってはいない。もしかしたら一生孤独で辛い日々を送ることになってしまうかもしれない。ならばいっそのこと、ここで殺してあげるのが少女のためなのではないだろうか。

 老人の右手が剣をゆっくりと引き抜く。逆手に持ち替え、両手で握った。その剣先は少女の喉元に向けられていた。

 老人は一人の騎士だ。騎士とは誰かを守る存在だ。そんな自分が今、何の罪もない少女を手にかけようとしている。

 涙が溢れてくる。これが今の自分にしてやれる最善手だと思い込み、震える手を必死に抑えた。

 自分のせいでこの村は襲われた。そのせいで少女に痛みと孤独を与えた。ならば、少女に安らぎを与えるのは自分の仕事だ。

 苦しそうに眠る少女の顔を睨みつけるように見る。そして、剣を大きく振りかぶった。


 その時だった。


 少女の目が薄く開かれる。睨みつけるように見ていた老人はそれを見逃すことはなかった。

 少女の目は美しい金色をしていた。その瞳には恐怖が浮かんでいる。それが痛みからなのか、自分のこの形相のせいなのかはわからない。

 ただ、老人の動きは止まった。その瞳の根底にある想いを知ってしまったからだ。


 生きたい。


 少女の瞳は確かにそう語っていた。

 老人は力なく腕を下す。そして、絶叫とも安堵とも取れない叫び声を上げた。その声に騎士たちが集まり、少女は救護班の元へと運ばれる。


 老人は、少女を殺せなかった(救えなかった)


 ここまで読んでいただき、本当の本当にありがとうございます。

 できる限りわかりやすいよう心がけたつもりですが、それでもここが想像しにくいなどありましたら、ご報告いただけると嬉しいです。

 良かったところなどもご報告いただけるとモチベーションに繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

 これからはマイペースに投稿することとなりますが、ご容赦いただけると幸いです。

 それでは、また文章でお会いすることがありましたら、どうぞよろしくお願いします。

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