Chapter22 (4)
吐き気を催すような、黒の魔力。
それが闘技場のステージ全体を覆いこんでいる。
ランダインが魔力を放出することで、それはさらに強くなる。
このため私は、常に封魔防壁を強化した状態であることが求められる。
しかし雷帝ガドリアスの加護により、それは容易に実現できた。
ランダインは黒魔力の収束を開始する。
属性は炎。
炎の黒魔術、ハイダークファイアだろう。
その予測は的中する。
しかし。
「数が多すぎるって!」
彼の収束した魔力球は1つではない。
2つ、3つ、4つ・・・。
数えることも難しいほどの魔力球が空間中に出現した。
そして、それらの全てが、同じタイミングで、私に向かって放出された。
やばい。
私はそれら全ての魔力球の動きを見切らんとする。
しかし、それでも完全に避けることはできない。
そもそも逃げる場所なんて存在しなかった、とも言える。
一発の炎弾が私に直撃。
裂傷から血が流れ、鋭い痛みを知覚する。
早く回復を。
「ヒーリング!」
『痛みは残っても、これで敏捷性が損なわれることはないだろう』。
そんなことを考えながら。
被弾後、即実現した、その魔法。
しかし訪れた現実は、私が想像しないものであった。
「すごい!
全ての傷が塞がった!」
つまり、完全回復である。
ガドリアスの加護は、攻撃のみならず、回復力をも格段に引き上げてくれた。
これなら、かなり無茶な戦い方ができる。
私は脳内で展開するストラテジーを再構築していく。
「小賢しい」
私が完全回復したのを見届けたランダインは、次の侵攻を開始する構え。
今度はこっちの番だっての!
私は蒼の剣に雷の魔力を収束していく。
それは、信じられない速度で蓄積される。
相手の攻撃を妨害するため、私は雷槍を繰り出した。
「はっ!」
速度重視で実現したその雷槍は、過去最高のエネルギー量を誇っていた。
これ、本気で魔力を収束したら、どうなるんだよ!
ランダインは即座に収束した黒魔術でこれを相殺してきた。
そして再度、黒魔力の収束を開始。
無数の黒い炎の魔力球を作り上げた。
「全部撃ち落とす」
その時点で、私も雷の魔力球を収束済み。
襲ってくる炎弾を雷の槍で撃ち落としていった。
闘技場内が、凄まじい爆音と震動で溢れる。
ランダインの攻撃は止まらない。
今度は雷術だ!
圧倒的速度と正確性を誇るオーラサーチにて推測を立てる。
『雷術で私に挑もうなんざ、100年早いぜ!』
そんな攻撃的思考で闘争心を高め、再度雷の魔力の収束を始める。
そしてやってくる黒い雷撃、複数発。
私はそれらを、丁寧に回避、そして撃ち落として行った。
その対処動作中で、一瞬の余裕が生まれる。
私は一発の雷槍をランダインに繰り出した。
手応えあり。
雷槍がランダインを貫く。
そして、私の鋭い観察力が全てを見抜いた。
「あえて避けなかったのかよ」
彼は明らかにダメージを受けている。
しかし、全く焦る様子もなく。
即座に治癒術を実現し、ダメージを無に帰した。
「ちょっと削ったぐらいじゃ、倒せないわけね」
私が置かれた状況がよく理解できた。
相手の魔力が尽きるまで、何度も攻撃を与え続ける必要があるようだ。
無限の魔力。
そんなものはありえない。
測定することができなくても、それは有限だ。
ならば、勝機はある。
ランダインはここで、空間中に黒魔力をさらに放出し始めた。
アリウス・ゼスト、リリア・ディアラム。
彼らの扱う『ナイトリキッド』、『ダイアミスト』。
それらに近いものであろう。
彼らの戦いが、今の私の戦いの糧となっているのだ。
相手の放出する魔力。
それは一言で言えば『瘴気』。
ただその場所にいるだけで、体を蝕んでいく。
その考察を持って、私は封魔防壁をさらに強化した。
ステージ上に産み出された黒い液体と霧。
それは私たち2人の視界を急激に悪化させた。
このような状況で大切になってくるもの。
それが『オーラサーチ』。
もはや現時点では、視覚情報よりも役に立つ。
最大限にソイツを研ぎ澄まし、私はランダインの位置を確認した。
そして、収束される黒魔力。
目をつぶっていてもわかる。
属性は魔導。
いつでも来い!
さあ、ここからが本当の戦いだ!
*****
対人戦闘における重要事項は『相手の特性を見抜く』ことである。
それは今回の戦いにおいても例外ではない。
だからこそ、私は思考を全力で回転させた。
考察結果1。
相手はこちらの攻撃を避けるつもりがない。
防壁の堅牢性は非常に高く、またダメージを与えても治癒魔法ですぐに回復できるためだ。
そのため相手の体術的な技能は現時点ではわからない。
あまり、すばしっこいようには見えないが。
考察結果2。
周囲を取り囲む黒い魔力について。
これは魔導のエネルギーを強制従属したものと思われる。
ランダインはこれらの魔力を吸収し続け、無限の魔力を実現している。
これは彼の死霊術のなせる技のようだ。
今は可能な限り相手に攻撃を放たせ、かつこちらからダメージを与えて回復魔法で魔力を消費させるしかないようだ。
考察結果3。
攻撃の属性について。
彼の用いるのは黒く輝く魔力、黒魔力。
ただ、黒魔術というのは厳密には属性ではない。
黒魔力で実現した、つまり強制従属した魔導のエネルギー、炎のエネルギーなのである。
黒魔術であろうと、魔導は魔導、炎は炎。
その意味では普通の術師と変わらない。
彼の放った今までの攻撃は、魔導、炎、風、雷の4種。
光と封魔の攻撃は一度もなかった。
想定するに、黒魔術と光、黒魔術と封魔、その2種は相性が悪いのだと思われる。
そう考えると、2属性を考慮に入れなくてよくなる。
これだけでも相手の戦術を大きく絞り込める。
さらに魔導、炎に比べると、雷、風の魔術の威力は弱い。
単純にランダインの得意・不得意が関係しているのか。
もしくは魔導、炎は、黒魔術と相性が良いのかもしれない。
結論としては魔導、炎を最大級に警戒。
風、雷に関しては多少対処行動が遅れても、なんとかなる。
以上、考察終わり。
私は再びオーラサーチを開始する。
私の考察に沿うように。
彼から溢れる炎と魔導の魔力。
フランだ!
「燃え尽きよ!」
そして彼から放たれる魔炎術。
その魔術は、明らかな既視の感覚を孕んでいた。
「曲がる!」
魔術が放たれた瞬間に判断できる。
私の想定どおりの円弧軌道を描き、私に向け発射される。
ヴァンフリーブ、感謝します。
最高の特訓相手でありました。
一瞬の焦りもなく、右前方にステップして回避した。
これにはさすがのランダインも若干の苦い表情を見せたように思う。
ざまあみろ。
その後、数回のフランによる攻撃が繰り出される。
しかし私は全てこれを回避し、反撃の雷槍をお見舞いした。
「粋がるなよ、小娘!」
その瞬間、空間から伝わる悪寒。
ステージ全体に存在する黒の魔力がざわめいているようだ。
私は、それらの魔力にも気を配る。
そして、ここで。
死霊術の真髄を見せ付けられる。
「悪霊たちよ!
現世に顕現せよ!」
その言葉を引き金に、私の周囲に邪悪な感覚が出現する。
私は視覚情報の取得を急ぐ。
そこに存在するのは、『ガスト』。
ウィスプ系モンスターの亜種。
魔導のエネルギーの結晶体。
その黒魔力バージョンといったところか。
その魔力体は複数確認できる。
1匹、2匹、3匹、4匹・・・。
しかし、そのカウントは、魔力体の侵攻によって妨害される。
<<ヴヴヴヴヴうv>>
エーテルの魔術が放たれる。
それは、私が知っているガストの攻撃力ではない。
生物の身を抉り取る、高い殺傷能力をもった刃だ。
緊急回避した私。
しかし、次撃はすぐにやってくる。
敵が多すぎる!
脳の処理限界を超えた私は、『とにかく1匹づつ消していく』という選択しかとれない。
一体のガストに向けてトライスパークを打ちつける。
魔力と魔力が衝突し、魔力体は消滅。
しかし、あとこれを何回繰り返せばよいのか。
そんな考えが頭をよぎったとき。
私は背後からの魔導刃に体を引き裂かれた。
「がっ!」
緊急で回復魔法を試みる。
しかし最低限、血が止まるまで。
今、回復のみに魔力を使っては、敵の総攻撃に対処できない。
とっさの判断が生命をつなぎとめる。
『視覚情報にとらわれるな!』
誰かがそんなことを言ったような気がした。
私の中に存在する雷帝ガドリアス。
彼が助言をくれたのだ。
おかげで心が落ち着いた。
ありがとうございます。
視覚は捨てる。
私は目を瞑り。
そして、オーラサーチを開始する。
脳内にマップが形成される。
1体。
2体。
3体。
4体。
5体。
6体。
7体。
8体。
9体。
10体。
11体。
12体。
そこでカウントがストップする。
全てのガストの存在を捉えた。
しかし、私は攻撃にはでない。
一体づつ対処するには数が多すぎる。
うざったい。
まとめて消す!
私は脳内で青の魔法陣を描き。
そしてそれを、現実世界に転送した。
魔力収束にかかる時間。
それを敵が見逃してくれるはずはない。
ガストから次々と魔導刃が繰り出される。
しかし、それらの攻撃も、全て脳内のマップに転写されている。
目を瞑ったまま、私は回避を繰り返す。
と同時に、雷の魔力を魔法陣に流していく。
魔術発動までのタイムラグが欠点となる法陣魔術。
そんな法陣魔術が、あっという間に収束完了した。
「アークスパーク!」
魔法陣から溢れる雷の魔力。
それらが私を中心として外側に放射される。
脳内から魔導体の反応が一体、また一体と消えていく。
そして、最後にはランダインただ一人だけの反応が残った。
私は目を開け。
その存在に向けて笑みを向け、煽る。
彼の顔から、苛立ちの感情を引き出した。
効いたみたいね、精神的に。
「これで終わりだと思うな」
今度はなんだよ。
細心の注意を払い、彼を見据える。
そして、私は。
本日一番の衝撃を受ける。
「脱ぎだしたよ」
彼は自分の道着を脱ぎ始めた。
露出狂なの?
変態なの?
陰気露出ロリコンなの?
そして彼は、その道着を空中に放り投げる。
しかし、それは地面には落ちず。
重力に反し、空間中に漂っている。
そして、周囲に展開された黒魔力が、その道着に向けて収束されていく。
「出でよ、死霊の王よ!
うぬが憎悪で、全てを飲み込め!」
呼び起こされる死霊の王。
目覚めと同時に、黒の圧力を解き放ち、私は1歩後退させられる。
「リッチですか!」
図書館で見た、危険な魔物図鑑。
そこに載っていた最強最凶の魔物。
出現頻度極低、危険度極高。
『死をもたらす者』。
その災いが、産み出されてしまった。
・・・
数秒の静寂の後。
リッチは魔力の収束を開始する。
黒魔力による魔導。
属性の判断はできた。
雷の魔力を剣に収束しながら、動向を見守る。
巨大な魔力球。
それが空間中に構築されていくであろう。
そう予測していた。
しかし、相手が実現するは想定外の攻撃手段。
黒の魔力がリッチの『腕』に際限なく集められ、その腕は無限に肥大化を続けていった。
その腕が巨大な翼のように広げられる。
伝説の龍、バハムートの翼を思い起こさせる。
そして肥大した右腕が、水平に振り払われ、私を襲う。
その攻撃に、あえて名前を付けるならば、
「死神の鎌!」
瞬間的な判断で、私は風の魔力を収束開始。
それは相手の一閃が私を掠める寸前に完了する。
エリアルステップ。
風術の力を利用して、大きく宙に舞い上がる。
そして私の真下を、死の一撃が通過した。
危なかった。
その安心感が油断となり、判断を遅らせる。
リッチの左腕には、まだ強大なる魔力が残されている。
それに私が気づいたのは、その攻撃が放たれた後であった。
「今度は縦だ!」
私の反射神経は過去最大級の仕事をしてくれる。
ほぼ無意識的に体が動き、その縦に振られた一閃を、横向きに構えた蒼の剣で防御。
が、その瞬間。
私は後方に吹き飛ばされる。
攻撃の重圧に対し、私の体は軽すぎた。
このまま地面に叩きつけられれば死ぬ。
その思考が風の魔力を選択する。
一気に収束した風の魔力で私の体を包み込み、激突の衝撃を最大限緩和した。
「ぐっ!」
吹き飛ばされた私は、そのまま場外、観客席下の壁まで達していた。
私は自分の生存本能に感謝する。
普通の人間ならば、今の短い時間だけで3回死んでいた。
よし、私強い。
死霊の王を睨みつける。
視線を合わせたくても合わせられない。
相手には『目』がないから。
慈悲の欠片もない殺人兵器。
相手の目的はただひとつ。
死ぬまで殺す。
それだけ。
再びその腕に黒い魔力が集まっていき、デスサイズが放たれる。
しかし、場外まで吹き飛ばされたことが功を奏した形。
相手までの距離が確保され、先ほどよりも回避が楽になった。
私は場外をぐるりと回るように、次々と繰り出されるデスサイズを回避していった。
ステージを半周程度回ったところで、考察のまとめに入る。
相手のデスサイズは、左手、右手の二撃までしか連続で発動できない。
威力は必殺だが、魔力の収束には比較的時間がかかる。
その収束時間、デスサイズの発動タイミングなどを脳内で何度も繰り返しシミュレーションする。
よし。
もう見切ったよ。
どれだけ威力がすごかろうが。
当たらなければ意味はない。
エレナ・レセンティアの敏捷性、なめんじゃないよ!
右腕のデスサイズが襲ってくる。
私は、さらに場外を旋回し回避する。
まだだ。
まだ、次の一撃がある。
そして想定どおり、左腕のデスサイズが、間髪を入れず繰り出された。
ここだ!
私は軽快なステップにて、これを回避。
そして。
リッチに向けて侵攻を開始した。
対するリッチも、次のデスサイズに向け魔力を収束開始。
私が闘技場のステージに飛び乗った時点で。
相手は収束完了。
そして、私に向けられる横向きのデスサイズ。
脳内の想定通りに現実が動く。
私は先ほどと同様、風術の補助を利用して大きく天に踏み出した。
もちろん次撃が襲ってくることはわかっている。
リッチは魔力の収束が完了した右腕を後方に構える。
対称的に私も、蒼の剣を持った右手を後方に構える。
力と力で、勝負しましょう。
ニヤリと笑い。
その瞬間。
私の剣から溢れ出す、無際限の雷の魔力。
それは。
この戦いが始まってから地道に蓄積してきた。
長期的魔力収束が可能にする超高威力攻撃。
そう、これが!
武具収束奥義だ!
「オーバー・ヴォルト・ランス!!」
私がそう叫んだのと同じタイミングで、相手から放たれるデスサイズ。
その2つの魔力は衝突し。
そして。
雷が死を超越した。
その身を貫通、破壊し、消滅させる雷。
死霊を浄化する、神撃。
「バカな!!!」
ついに勝ち取った驚嘆。
驚いているところ悪いけど、次あんたの番だからね。
そんな攻撃的思考を孕んだ微笑で、ランダインを真っ直ぐに見つめ。
そして。
エレナのターン。
まずはステップ1。
私は魔力を収束する。
雷、ではない。
魔導のエネルギー。
それを空間中に拡散放出した。
「なんだ」
黒の霧がさらに濃くなっていく。
私とランダインの視界が奪われる。
しかし、私は確信している。
今の私に、視覚情報は不要だ。
研ぎ澄まされたオーラサーチの能力が実現する『心眼』。
それは、先ほど実験済みである。
そして、続いてステップ2。
私は空間中に雷の魔力を収束していく。
遠隔放出。
空間中に12個の雷の魔力球が作成された。
「なんのつもりだ」
そして、最後にステップ3。
私はノム直伝のオーラセーブの技能を最大限に発揮した。
「消えた!?」
視覚情報を封じられたランダイン。
そこから私は、『第六感』も奪う。
今の彼が感じているのは12個の雷の魔力のみ。
そう、これは『案山子』だ。
よく見えていますよ。
圧倒的な魔力を放つランダイン。
だからこそ、彼の居場所は目を瞑っていてもよくわかる。
アサシンステップで彼の背後に回りこむ。
ランダインは私が空間中に生成した雷の魔力に向けて黒魔術を放出していく。
その様子は、私の脳内マップに描かれる。
そこじゃないぜ!
私は背後から雷槍をお見舞いする。
手ごたえあり。
低い悲鳴が響く。
すぐに私が攻撃した方向に黒魔術が飛んでくる。
そんなことは既に先読みしている。
次は左から!
続けざまの雷槍。
それがランダインを貫く。
「なめるな!」
その瞬間感じ取る、黒魔術による炎と風の魔力。
バーストストーム。
広範囲攻撃で吹き飛ばす、そんな彼の思考が簡単に読み取れる。
だから私は、退避せず。
ランダインに向けて踏み出した。
そして私を掠める炎風合成の魔力球。
それは私を通過した先で爆風を起こす。
その爆風を加速に利用し。
私は一気にランダインに飛び掛った。
一撃。
雷の魔力をこれでもかと込めた剣撃が、ランダインの体を切り裂く。
視覚情報が遮断されているが、返り血が私を染めていることを、その血の温かさで知る。
「うぁがぁぁxっぁぁぁx!!!」
その瞬間、ランダインから放たれる黒魔力。
その衝撃で、私は後方に吹き飛ばされる。
そして、感じる邪悪な気配。
空間中の魔力がさんざめき、上昇気流を発生させる。
この場を支配していた黒の霧が、天空に吸い込まれていく。
最悪だった視界が晴れ、状況を把握できるようになる。
その黒の魔力を目で追い、点を見上げると。
魔法陣。
強大な赤の魔法陣が、曇天の空を覆っている。
天空法陣。
忘れ去られた古代の秘奥。
それが、今蘇ろうとしている。
先、衝撃で後退させられたこともあるが、何より、魔力収束が速すぎて、対処が遅れる。
そして。
黒の霧を構築していた魔力が、全て天に昇ったとき。
その魔法陣は、慈悲なく起動される。
「メテオ・スォーム!!」
沸点を越えた憤怒の感情が込められた言葉。
それは無数の炎の隕石を召喚する引き金となる。
それは人の成せる業ではない。
それを成せるものは。
神か、悪魔か。
そして隕石群が闘技場に降り注ぎ、全てを破壊、蹂躙していった。
灼熱。
それが一切の余白なく空間を埋め尽くす。
避けるという言葉に意味はなく。
その天災は、『受け入れる』という選択肢しか許さない。
「何故だ・・・。
何故、生きている!!」
隕石の豪雨を防ぐため、私は封魔の魔力による魔導防壁を何重にも張った。
持てる全ての魔力を防衛魔術に注ぎ込む。
多層防御。
そう呼ばれる高位の防衛術。
その決死の選択が、かろうじて命をつなぎとめた。
消え失せそうな意識に向けて、『まだ行くな』と激励を送る。
ズタボロになった体。
しかし、今はさほど焦燥感はない。
私にできることは、よく理解できているから。
「ヒーリング・サークル」
以前、ノムに使ってもらった、小さな法陣を用いた回復魔法。
雷帝の恩恵を受けたその魔術は、瀕死状態の私を完全に復活させた!
・・・
傷も癒え。
ここで訪れた。
まるで時間が止まってしまったかのような感覚。
ゆっくりと、誰かが。
私の脳内に語りかける。
誰?
私は私に問いかける。
その答えは言葉ではなく、感覚として伝達された。
あなたは、『闘技場、そのもの』なのですね。
私に話しかけてきたのは『闘技場』。
そこに宿る無数の魔力たち。
どうやら彼らはランダインに、この神聖なる場所を荒らされ、ご立腹のようだ。
だから、彼らは。
私に、知られざる魔術の秘奥を教えてくれた。
・・・
そして、時が動き出す。
私はすぐに魔力の収束を開始した。
剣に、ではない。
この闘技場という『場所』に向けて。
地精召喚魔術。
この地に存在する魔力たち。
それを、この闘技場のステージに集める。
この一年間過ごしてきた愛着。
それを、この場所も返してくれる。
今、この場所全てが私の味方だ!
圧倒的。
常軌を逸した熱量の魔力が、この場所に集められる。
さあ、終わりにしよう。
あとは、その名前を叫ぶだけだ!
「アーク・スパーク!!」
その言葉をトリガとし、闘技場に収束した魔力が動き出す。
天から降り注いだ隕石群をも越える。
これが、本物の。
神の雷だ!
「ばっ!馬鹿なぁ!!」
神雷は、轟音と共に全てを飲み込み。
静寂のみを残して消え去ったのだ。
*****




