Chapter22 (3)
【** エレナ視点 **】
私はセリスの後を追いかけた。
途中で見失いそうになったが、そのときは彼女から溢れる漏出魔力を手掛かりにした。
やっと彼女に追いついたとき、私たちは闘技場の前まで到達していた。
なぜ墓地ではなく、闘技場のほうに向かっているのか?
しかし、その疑問の答えもすぐに見つかる。
闘技場の中から、強大な魔力を感じる。
まさか、闘技場の中にランダインが!?
みんなは、まだ墓地のほうにいる感じがするのに。
詳細な理由は不明だが、セリスはランダインの魔力、その発生源を感知できるのであろう。
だからこそ、この場所にたどり着くことができた。
そう。
決着をつけるつもりだ。
「セリス!」
「こないで!」
「今のセリスが行っても・・・。
どれだけ魔力を引き出せても、それを正常に制御できなければ。
相手には、届かない」
今の彼女はもう、魔力に精神を飲まれ、理性が消えかけている。
既に、勝負の結末は見えている。
「なら・・・。
やってみる?
エレナのこと、嫌いじゃないけど。
私は、ここで立ち止まるわけにはいかないから。
ごめん。
消えて」
感情が死滅したと思われていた彼女は、涙を流した。
悲痛な、哀愁を帯びた、消え失せそうな声で。
私に語りかける。
だから私は思ったのだ。
絶対に。
絶対に、運命を変えてやる!
*****
セリスとの決着は、もう一瞬でついた。
私の雷槍で複数回貫かれた彼女は、力なくうなだれる。
武器の電気鋸が地面に落ち、金属音を響かせる。
もう彼女の中には何も残っていない。
戦意も、希望も。
「セリス」
「私だって・・・わかってる。
ランダインには敵わない、ってこと」
彼女が心を見せてくれる。
私はそれを優しく見守った。
「以前私は、ランダインと戦った。
なぜ、彼はあのとき、私を殺さなかったのか。
・・・。
可能性。
私が、魔力に飲み込まれるのを待ち、道具として利用するため。
そんな可能性も、考えなかった、わけじゃなかった」
彼女がランダインを憎悪する理由。
それは大事な人を殺された復讐なのかもしれない。
危険人物を野放しにできないという正義感なのかも知れない。
しかし、そんなものは今は関係ない。
「エレナ。
お願いがある」
彼女の中にいる雷の魔力。
それが胎動を始める。
「私は、もう。
駄目だから」
その魔力は、ゆっくりと、私に近寄り。
そして、包み込む。
「だから」
そして、静かに。
静かに、語りかけるのだ。
「私を」
「聞こえる」
「エレナ?」
「私は、聞こえるから!」
「聞こえてる、だから」
「セリスは黙ってて!」
心を込めたセリスの言葉たち。
私はそれを。
完全に無視した。
「聞こえる!
あなたの声が!
彼女の中にいる、あなたの声が!」
「聞こえるか、私の意思が」
そして今、確信に変わる。
「あなたは?」
「私は。
雷帝。
雷帝、ガドリアス」
*****
私は闘技場のステージに登壇する。
そこには、黒の魔力に覆われた死霊術師が待っていた。
「セリスは役に立たなかったか。
魔力を奪われおって。
我が傀儡となる名誉を与えてやろうと思っていたのだが」
ランダインがベラベラと喋り出した。
やはりセリスを支配して操る計画があったようだ。
こいつ、マジで殺す。
「女、選らばせてやろう。
我が傀儡となるか。
身を焼き滅ぼされるかを。
これだけの魔力を、その身一つに定着させることができる者は、そうはいない。
我が、主の力を最大限・・・」
<<ババババッババババババ!!>>
その瞬間、ノーモーションの私から、極太の雷槍が放たれる。
「くっ。
馬鹿め、自ら死を選らぶとは」
「いや、ごめんなさい。
私も話は最後まで聞きたかったんすけど。
でも。
なんか、私の中の『雷帝さん』が暴れたいって言って聞かなくって。
そして私は、先ほどの出来事を思い返した。
*****
「セリスから、出て行ってくれません?」
私は、セリスの中に存在している魔力に対して話しかける。
セリスは何が起こっているかわからない様子で、口を開けて私を見つめていた。
私の提案に対し、彼女の中の魔力は無言という回答を選ぶ。
「嫌、だと」
「私の力は、この女では完全には発揮できない。
もっと、もっとだ!
もっと力を解放させろ!」
駄々をこねる魔力。
「うーん。
つまり、『暴れたい』、ってことっすか」
「その通りだ」
「でも、セリスの体は限界が近いし。
・・・。
・・・。
じゃあ・・・。
私の体、来ます?」
*****
そんな成り行きで、私は雷帝と契約を結んだ。
学術的に言えば、『幻魔降臨』という状態だ。
「ふっ。
魔力と会話したとでも言うのか。
おもしろい。
力ずくで、我が力としてやる。
光栄に思うがいい」
ランダインが魔力の収束を開始する。
ガドさん、もうちょっと待って。
私は心の中で雷帝にブレーキをかける。
「死霊術というのは死体が多ければ多いほど力を発揮する。
墓地というのは、非常に良い環境だ。
だが、さらに優れた環境がある」
死霊術師が語り始める。
「多くの者が殺し合い、多くの怨念が集まる場所。
つまり。
闘技場、まさにこの場所だ。
・・・。
見せてやろう。
我が、最高の死霊術!
無限の魔力にひれ伏すがいい!!」
<<ゴゴゴgフヴヴヴヴヴヴウヴv!!ガッガガガg!ビッブイブイb!>>
始まった。
ガドさん。
力を貸してくださいね。
思いっきり暴れていいんで。
枷を外し、私は雷の魔力の収束を開始する。
まるで体が浮き上がるような感覚。
体験したことのない、際限なく溢れ出す魔力。
まるで、雷の魔力が無限に存在するみたいだ。
もう、笑いが止まらない。
これなら。
いける!
<<バババババババッバババババ!>>
私は雷の魔力を解放させる。
それを受け、ランダインの顔色が変わる。
「セリス以上に魔力を引き出せている。
おもしろい!
ますます、欲しくなったぞ!!」
ロリコンクソ野郎が。
ぶっとばしてやる!
・・・
荒ぶった感情を、ここで一旦クールダウンする。
すると、自然と過去の出来事が思い起こされた。
私、ここで長い時間を過ごしたんだよね。
ノム、エルモアの思い。
セリスの思い。
闘技場を守りたいという、みんなの思い。
そして、私の思い。
「この場所は、絶対あなたに渡さない!
あなたを、倒します!!」
*****




