Chapter22 (2)
【** エレナ視点 **】
「ノム、大丈夫かな」
『おとなしく宿で待機している』という選択肢を選んだ私。
北の方角から感じる不穏な魔力の感覚を受信し続け。
ノムのことが心配で仕方ない。
「逃げたほうがいい」
「セリス?」
「彼女達2人では、ランダインには敵わない。
命と魔力を奪われるだけだ」
「それは、セリスも同じっすよね」
セリスの宿す雷神の力を持ってしても、ノムには敵わないだろう。
そのノムですらランダインに劣る。
その2つの論理は、セリスを殺す。
「私は、いい」
俯き、悲哀の表情を見せ。
絶望の淵を彷徨い。
焦点、定まらず。
憂い。
「どうせ、もうすぐ魔力に全てを飲まれてしまうから、っすか?」
私の推測に対し、彼女は正誤を返さず。
静かに。
内に秘めた信念を口にする。
「私は、あいつを倒さなければならない。
これは、絶対。
死んでも、絶対。
その瞬間まで・・・」
彼女の心の内が、少しづつ伝わってくる。
少しばかりの心の欠片を共有する。
「私は一度、ランダインに敗北している。
だから、奴の強さは知っている。
倒せなくてもいい。
最後まで戦いたい!
だから!!」
決意を秘めた言葉を吐き捨て、彼女は雷の魔力の収束を開始する。
「エレナ、私は・・・。
あなたを殺したくない!
だから、行かせて」
悲痛、悲哀、焦燥感。
そして、わずかな優しさを含んだ声色で、私に伝える。
「嫌です。
精神を魔力に奪われた術師が、他の術師に意思を操られることもある。
魔石戦争時代、多くの闇魔術師が精神を奪われたように。
セリスがランダインに支配されるかもしれない。
行かせるわけにはいかない!」
「それでも!
私には!
これしか!
これしか、ないの!」
彼女から、悲痛な嘆きと涙、そして雷が放出される。
激しい炸裂音が宿の部屋に響く。
それは、私に向けられたものではなく。
何もない空間中で炸裂した。
しかし、不意をついたその雷撃は、私の注意を妨害するには十分であり。
セリスは私を振り払い、宿の外へと駆け出した。
「しまった!
追わないと!」
*****
【** エルノア視点 **】
「こいつ、まるで、魔力を無限に持っているかのようだ。
死体が存在する限り、無敵ってことか」
ランダインの攻撃を掠めたアリウスが、その患部に触れながら呟く。
「厳しいわね」
あれから複数の人間が、代わる代わるランダインに相対していた。
アリウス、クレスト、リリア。
そして今は、一番の実力を持つヴァンフリーブが相手をしている。
しかし、それでも彼は止まらない。
「贄は・・・。
贄らしくしていろ!!」
<<ダダダダダッダダダダダアダアダダダダダッ!!>>
炎の黒魔術、ハイダークフラン。
地獄の業火が、ヴァンフリーブに襲いかかった。
絶対的な潜在魔力の差。
それがそのまま、勝負の結果として現れている。
このままでは、間違いなく全滅する。
「ちぃっ!」
「ヴァン、大丈夫か」
クレストがヴァンを庇う形で割り込む。
「次は消す」
その2人、同時にあしらうように。
ランダインが次の魔術の収束に入る。
固唾を呑んだのは、俺だけではなく、きっと、ここにいる全員。
瞬間。
感じた『封魔』の魔力。
そして、天使が舞い降りる。
「来たわね」
「むっ」
「法陣!?」
「グレイシャル!」
ランダインを囲み生成された水色の魔法陣。
そこに大量の封魔の魔力が高速収束され。
『氷河』を生み出し、ランダインを飲み込んだ。
「次は、私が相手」
「青髪!」
「ノム!」
「遅れてごめんなさい。
後は、私がやる」
傷を負ったヴァンフリーブを庇うように、彼の前に立つ。
そして、白銀の聖杖をランダインに突きつけた。
ノムの法陣魔術を直撃したはずのランダインは、顔色一つ変えず。
ダメージが通っているのか、いないか。
判断はつかない。
そして彼は、一瞬でノムの実力を理解する。
「ふっ。
良い贄が来た。
その魔力、我がモノとなることを、光栄に思うがいい」
「こいつ、気持ち悪いの」
「ダーク・シザーズ!」
「セイント・クロス!」
互いに向けられた強大な魔術攻撃。
それは完璧な調和を持って相殺された。
「相殺したか」
これはアリウスの言葉。
「実力は五分か。
だが相手は」
ヴァンが述べ。
「死霊が存在する限り、無敵。
ならば、俺たちにできることは」
クレストが続く。
「よぉし!お前ら!
死霊達を土に返すぞ!!
俺達は俺達で戦って、彼女の援護をするんだ!」
冒険者たちが、打倒ランダインに向けて結束を固める。
これは、とても頼もしいですね。
*****
【** アリウス視点 **】
「小賢しい!!」
ランダインの強烈なハイダークスパークが彼女の体を掠める。
しかし、それでも彼女は怯まず、ランダインに向かって侵攻を開始した。
完全な魔術師タイプ。
そんな彼女としてはありえないはずの、『近距離戦』という選択肢。
しかし、彼女はこれを選択する。
「くっ!
これくらい、なんともない!
収束完了!
十字法陣!」
彼女を中心として十字型に溢れ出す白の魔力。
地面に描かれた巨大な十字型の魔法陣。
これが、これこそが。
プリーストの最終奥義。
「グランド・クロス!!!!」
<<ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!!!!!!!>>
相手を消滅させんが如き神々しいい光のエネルギー。
それは見るもの全てに信仰心を植え付けた。
ノムという信仰対象に対して。
近距離から放たれたその攻撃は、明らかに相手にダメージを与えている。
誰もが、俺たちの勝利を確信した。
「やったか」
明らかに戦闘不能状態と思われる。
体中に傷を負った死霊術師。
しかし。
「なっ!!」
「傷が癒えてゆく!」
ランダインの体を光が包み、そして。
みるみるうちに傷が姿を消していく。
急速回復。
死体から吸収した魔力を用いた治癒術。
つまり、彼が死体から魔力を吸収する以上、彼は不死身ということだ。
「今度は、こちらの番だ」
彼に集まる、炎と魔導のエネルギー。
赤黒く光る魔法陣が、先のグランドクロスで魔力を消費しきったノムを包み込んだ。
「ノム!」
「カオス・フレア!!」
<<ダダダダグァダダダッダアッダグァダダダグァダダグァ!!>>
「うぁッ!!」
残る魔力を全て注いだ彼女の封魔防壁も、彼の闇の炎の前には無力。
悲痛な悲鳴をあげ、悪魔の炎でその身を蹂躙され。
地面に倒れこんだ。
「ノムでも駄目か」
「本当に、無敵とでもいうのか?」
ここにいる全員が彼女の力を認めている。
だからこそ訪れた絶望。
指定闇魔術師。
それは、この世で最も畏怖すべき存在なのだと。
「そんなことないですよ」
そんな戦況の中、たった一人だけ、笑みを絶やさなかった人間がいた。
「ノムがここまで頑張ってくれたのだから。
少し休ませてあげないとね」
「エルノア」
「彼は死霊から魔力を吸収しています。
しかし、みんなさんでたくさん死体を崩しましたので、操作可能な数は減少しています。
だから、もう私の死霊操作は必要ない」
展開されていた白の魔法陣が消滅する。
「次は、私が相手をします」
エルノアが、ノムを介抱する俺の前に出る。
「可愛いお友達を痛めつけてくれたお礼は、存分にさせていただきます」
杖を突き付け、宣戦布告。
不謹慎ながら、エルノアの本気の戦闘を見れることに、幾ばくかの興奮を覚える自分がいる。
「ふっ、お前は我の力を見誤っているぞ」
悪寒。
その発生源はランダインからのみならず、この墓地空間上全て。
「死霊達よ!
怒りを解放せよ!
自身に死を与えたものへ、報復せよ!」
地響き。
そして再び地底から湧き出す不死の者たち。
さらに、崩れたはずのグールやスケルトンの一部が復活した。
「また増えやがった」
同時に、辺りがより暗くなる。
黒の霧、瘴気が、空間中に満ちていき、視界が悪化する。
「あまり良い状況ではないですね」
エルノアの表情が陰る。
と同時に、白色の魔方陣が再度展開される。
死体操作術の再会。
死体と死体の同士討ち。
しかし、支配率は先程より低く。
エルノアが手を抜いている訳ではなく。
ランダインの支配力が向上していると判断。
襲いくるグール、スケルトン。
ここにいる生存者全員が、その対処に負われる。
苦しい状況だ。
「倒しても、倒しても、きりがない」
瘴気がさらに濃くなり、戦況が確認できない。
ここでヴァンフリーブが気づく。
「おいっ!
ランダインがいないぞ!」
何故!?
死者復活の混乱に乗じて、敵死霊術師は姿をくらました。
闇討ちの可能性を考慮し、その魔力を捜索する。
しかし、周辺に対象となる魔力は存在しない。
得体の知れない不安感が噴出し、結論のでない考察を繰り返した。
「あまりいい予感はしないな」
「追わなければ、しかし」
「死霊達の数が、はんぱじゃない」
「私が、追う!」
そう叫んだのは、ノムだった。
先ほどの攻撃を受け、まだ体を起こせるはずのない彼女が、エルノアに向けて訴える。
常に冷静な彼女にはありえない必死さ。
それは絶対に守りたい何かの存在を暗示していた。
「だめよ、ノム!
あなた、さっきの攻撃の傷が癒えてない」
「行かせて!
ランダインがセリスのところに行った可能性も捨てられない!
エレナが危ないかもしれない!」
彼女の悲痛な叫びが心に突き刺さる。
それでも彼女を今、ここで行かせるわけにはいかない。
今の彼女では何もできはしない。
それが、みな、わかっているから。
「ノム様!」
後方から声。
それはマリーベル教の修道女たちだった。
「教会の」
「少しだけ、少しだけ時間をください。
可能な限り、治癒術をかけます。
私達にできることは、それくらいしかありませんので。
やらせてください」
それが今取りうる最良の選択肢。
冷静な思考ができない状態のノムも、なんとかそれを理解した。
「わかりました。
頼みます」
ノムは遠くの彼方を見つめている。
そこにいる。
大切な者の無事を祈って。
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