Chapter22 (1)
「ごめんねノム。
セリスを宿で看病するなんて無理言って」
「大丈夫。
それに、セリスには聞きたいことがあるから」
セリスの襲撃から一晩経過し、今は早朝。
彼女は今、私のベットで深く眠っている。
昨日の無理がたたったのだと思われる。
おそらく大丈夫だとは思われるが、しかしやはり心配だ。
「エルノアが言ってた。
セリスが例の死霊術師と関係があるって」
「私も、そう思う。
確かな理由はないけれど。
だからこそ、確かめる必要がある」
静かに眠っているセリスを、ノムは険しい表情で見つめる。
その表情を崩さず顔を上げると、私を見つめてきた。
「エレナ、前、私がマリーベル教の人と面識があるって話したよね」
「うん」
「昔、教えてもらったことがある。
マリーベル教、退魔師団が、最も危険と位置づける闇魔術師達。
『指定闇魔術師』」
「指定闇魔術師」
「もし、セリスと関係がある魔術師の名前が、その中にあるとしたら」
「私達では、敵わない、ってことだよね」
「わからない。
でも、私より強いかもしれない」
この世界で最も強大な力を持つ機関だと言っても過言ではないマリーベル教の退魔師団。
その退魔師団の幹部となれば、それはノム以上の力を持つ魔術師であると想定できる。
そんなトンデモ軍団から『危険』とカテゴリされる人物。
人を超越する邪神か。
人の道から外れたキリングマシーンか。
私達2人、いやこの街にいる全ての人物を持ってしても、対処できるのかは不明。
不安感が、顔面のいろんな部分から溢れ出す。
「だから、応援を呼んである」
「えっ!?
そうなの?」
「実は、この街のマリーベル教会に、応援を要請するように頼んであるの。
どれくらい強い人が来てくれるのかはわからないけど。
エルノアにも話をしてある」
「おお!心強い!」
「でも、残念。
到着まで、あと1週間はかかるらしい」
「さようですか。
もし、死霊術師の目的がトーナメントの賞品の魔導書なら、応援は間に合わないよね。
っていうか、もしもその本が目的なら・・・」
「闘技場の優勝者が決まる今日、現れる可能性が非常に高い」
「んっ」
深刻な事態を想定し静まり返った宿。
そこに産まれた苦しげな声。
口をつぐんだ、エレナとノム。
ならば、声の発生源は一点に絞られる。
「セリス!」
「ここは・・・。
はっ!くっ!」
セリスは即、状況を把握し、体を起こそうとする。
しかし、まだ体の状態が万全ではないらしく、動かせたのは上半身のみであった。
「セリス、大丈夫?」
「やはり昨日のが、かなり残ってるみたい。
こっちには好都合だけど。
・・・。
セリス、悪いのだけれども、質問に答えて」
「答える、つもりはない。
解放しろ」
ノムは結論を急ぐ。
しかし彼女は強く反発し、無理やり体をベットから離そうとした。
「いやセリス、今は動かないほうがいいって!」
「あなたの後ろにいる、死霊術師の名前を教えて」
飛躍したその問いに対し、彼女はわずかな反応を見せる。
しかし、口は動かさない。
ノムは厳しい口調で尋問を続ける。
「あなたが戦う目的は?」
「・・・」
「答えて」
「・・・」
「答えなければ、殺します」
狂気的な発言。
それとは正反対の優しい声。
それが私達の後方、宿部屋の入り口から聞こえてきた。
「エルノア!?」
なぜか、そこにいたのは桃色の髪の死霊術師。
その後ろにはアリウスの姿も確認。
私たちに笑顔を見せ、軽く会釈すると、彼女はゆっくりとセリスに近づいた。
「私もあなたに聞きたいことがあるわ。
お願いだから答えてね」
「殺せるものなら、殺せばいい。
だが・・・。
ここで死ぬわけにはいかない!」
「セリス!」
その瞬間、溢れ出す解放魔力。
彼女は強制的に戦闘態勢へと移行する。
しかし最凶の死霊術師は、全くもって動じなかった。
「ふふっ。
復讐が目的なのね」
明示的な会話なく、『復讐』という単語が産み出された。
「何故、そう思う」
「私は、魔力から憎しみや怒りの感情を読み取ることが得意なの。
そしてそれが、どの方向に向けられているのかも。
この中の誰かではない。
なら・・・。
殺したいのは、その死霊術師?」
その瞬間、セリスの表情の変化を確認できる。
エルノアは魔力を読み取り、彼女の心を言い当てたのだ。
「あなたの復讐を、手伝わせてくれない?
未だに、相手のことは詳しくわからないけど、大災害級の危険人物であることだけはわかる。
このまま野放しにしておくことはできないの」
「あいつは・・・。
私が、倒す。
そうでなければ・・・、意味が、ない」
戦闘態勢は解除され、俯き呟く。
瞳に込められた力が抜けるも。
計り知れない憎悪の感情がその奥に隠されている。
その理由はわからないけれど。
「ふふっ。
なら、トドメはあなたに譲るわ。
それならどう?」
「お前達に、手出しはさせない」
「そう、それならそれでいい。
私達は私達で対抗させてもらうわ。
でも。
せめて、相手の名前くらい教えてくれてもいいんじゃない?」
セリスはしばし考え込むも、結論を出す。
「相手を知れば、対抗する意志も消える、という考えもあるか」
ノムとエルノアはセリスを凝視する。
「ランダイン・・・。
ランダイン・ネガルジット」
その瞬間、2人の魔術師が息を飲み驚嘆。
即、顔を見合わせた。
「指定闇魔術師、死霊術師ランダイン。
死体に魔力を定着させることで、無尽蔵に魔力を増幅させるという、死体定着魔術を操る」
「ノム!
彼の目的は、死霊術の魔導書ではないわ!
彼の目的は!」
その瞬間。
感じた悪寒。
その感覚を、この場の全員が共有する。
同時に、その感覚の『震源』も把握する。
「今のって?
北の方角から魔力が!?」
「エルノア」
「現れたみたいね。
行きましょう」
「私は一度教会に立ち寄ってから行く。
すぐに合流するから」
ノムは教会の人と話をするらしい。
相手が死霊術師ならば、神聖なる教会も黙ってはいないはずだ。
「おっし!私も!」
「エレナは駄目」
「え!?」
「危険すぎる。
エレナは昨日の疲れもあるし。
それに、セリスの看病するんでしょ」
「私も行く」
ここでセリスが割り込む。
しかしまだ体が痛むようで、低い声を漏らして再度俯いた。
「セリス、まだ動いたら駄目だって」
私は彼女に駆け寄り、体をさする。
どうやら思いとどまってくれたようで、行動の意志は引いている。
そこまで確認した時点で振り返ると、そこにはもうノムもエルノアもアリウスもいなかった。
窓の外を見つめると曇天。
その空の濁りが、不吉さを象徴しているように感じる。
私は、私がどうするべきかの結論を出せず。
この場に留まり、ただ祈ることしかできなかった。
*****
【** アリウス視点 **】
「彼の目的は、墓地に存在する無数の死体。
基本的に、自分以外の物体に魔力を収束することはできない。
しかし、『特定種の魔力を特定の物体に』、というケースなら、逆に収束しやすい場合があるわ。
死体に魔力を定着し、その魔力を自身の魔力として吸収する」
「『死体定着収束』、『死体定着吸収』ってやつか」
「ここなら死体はいくらでもある。
しかも、冒険者として生きた、屈強な者の死体であればあるほど、その魔力効率は高い」
俺達はウォードシティーの墓地に到着した。
無数の墓石が点在する。
そして同時に、多くの『生きた』冒険者達が確認できる。
「異変を感知して、人が集まってきているな」
「これはまずいわね。
死体が新しければ新しいほど、魔力収束が高効率になる。
ランダインはこれを狙っていた。
冒険者が集まる街であるが故、優良な死体が揃っている。
そして、優良な死体を、今から作り出せる。
「こいつらが死ねば死ぬほど、ランダインは強くなるのか」
最悪のシナリオが脚色される。
人道を外れた外道。
人でありながら悪魔。
その存在は、きっと、すぐそこに。
「アリウス下がってて。
ごめんなさい、道を開けてください」
エルノアが冒険者の集団をかきわけて、墓地の奥へ進んでいく。
『下がっていて』とは言われたが、俺はその後を追った。
「ランダイン・ネガルジットですね!」
エルノアがその名を叫ぶ。
やっとその対象を、視覚的に確認できた。
肩まで届きそうな白髪。
相手を射殺す鋭い目。
肌の質感からして年齢は30代から40代と思われる。
俺よりも高い身長。
薄汚れた黒の道着と帯。
その衣服には、いくつもの紋様が描かれている。
武器という武器は持っていないが、手にはルーンと魔法陣が描かれたグローブを装着している。
「死霊術師の気配がすると思っていたが、まさか女とは」
墓地に響く低い声。
エルノアに向けられる威嚇の言葉。
「答えろ。
わが儀式の邪魔をするか。
我に魔力を差し出すか」
「どちらにしても、生かして帰してくれるつもりはないみたいね。
まあ・・・。
私も生かして帰す気はないですけど」
ランダインから溢れる闇の魔力。
しかし。
感知したのは、彼からエルノアへ向けたベクトル、それのみではない。
逆方向。
奴に向けて魔力が集まっていく、その感覚も同時に感じる。
つまり。
死体から魔力を吸収している。
そして、既に相当量の魔力を吸収済み。
そのような予測が立てられる。
これ以上こいつに、魔力を吸わせてはいけない。
「あいつって、死霊術師か?」
「倒して、マリーベル教会に報告したら、褒章金とかもらえんじゃねぇか?」
「てめぇら行かねぇなら、俺がいくぜ!」
今までエルノアとランダインのやり取りを見つめているだけであった冒険者達が、その冒険心に火をつける。
これはまずい。
そのとき、解放された魔力。
過去経験したうちでも最大級の魔力圧。
その震源は当然、目の前の死霊術師。
「なっ!」
「なんて魔力だ!」
「贄となるがいい!!」
ランダインから放たれる黒く光る魔力。
黒魔術だ!
それは、エルノアを含めた冒険者達の集団に襲い掛かる。
しかし、エルノアが彼らを救う。
「ダークシザーズ!」
<<ガォオオオオオオオオーーーーーーン>>
黒魔力で実現された六点収束魔導術、デモンシザーズ。
その魔術により、無事に相殺された。
「エルノア!」
「皆さん下がってください!
私が、殺りますので!!」
幸運であったことは、冒険者達が見極めたことだ。
ランダインの放った一発の黒魔術。
その殺傷力、破壊力を、ここにいる全ての人間が理解した。
「なんだよこれ」
「やばい、逃げたほうがいいか」
冒険者達が後方に退避していく。
忸怩たる思いだが、ここはエルノアに任せるしかない。
「逃がさん!」
しかし、ランダインは逃避を許さない。
次の黒魔力の収束が始まった。
「また来る!」
違う!
この感覚は、先ほどとは違う。
それに最も早く気づいたのは、エルノアだ。
「皆さん!下です!」
<<ドガッツ!ドドドッ!ドドドド!>>
「なっ!」
「死体が這い出てきた!」
「死体が!
死体が生き返った!」
固い大地を突き破り、無数の死者が蘇った。
腐った肉を持つグール。
骨のみで動くスケルトン。
産み出された2種のアンデットモンスター。
俺たちを取り囲み、今にも襲い掛からんとする。
明確な攻撃の意志を持ったエネミー。
それは最上位の死霊術師のみが成せる業だ。
「死体制御術か!」
その一体一体で考えれば対処のしようはある。
グールはまだしも、スケルトンは特に知能が低い。
しかし、いくらなんでも死体の数が多すぎる。
このままでは、今ここいる冒険者たちが次々に死んでいく。
それはランダインに更なる力を与えることを意味している。
今取りうる行動案。
可能な限り、敵の数を減らすしかない。
「彷徨える魂よ。
我に隷属せよ!」
<<フォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーン>>
「魔法陣が!?」
この場を取り囲む、巨大な白色の魔法陣が出現。
それは神々しい光を放つ。
こんな芸当が可能な人間は1人しかいない。
エルノアだ。
<<グッォォォォォォォォォーーーーン!!!>>
数十体のグールたちが一斉に雄たけびを上げる。
また、スケルトンにも何かしらの反応が見られる。
混乱する冒険者達。
それは俺も同じだ。
そして、事態は動き出す。
「死霊が死霊を攻撃し始めたぞ!」
死体たちが同士討ちを始めた。
エルノアの仕業か。
ランダインの死体操作術に対抗し、彼女も死体操作術で返した。
エルノアの魔力に魅了された死者たちは、ランダインの操る死霊を攻撃し始めたのである。
しかし操れているのはおよそ半分以下か、さらに少ないか。
死体操作という技能に関しては、ランダインに軍配が上がる。
「やはりすべてを制御はできない。
三分の一くらいね」
エルノアは魔法陣に魔力を供給し続けている。
この魔力の供給を止めれば、また全ての死体はランダインの操作対象となってしまうのだろう。
しかしこれでは、エルノアがランダインに対応できない。
ならば。
取れる行動は1つしかない。
「エルノア!
俺が出る」
「アリウス!」
「なんかあの姉ちゃんが、すげぇ!」
「みんな、あの女性を守るんだ!」
「みなさん!」
冒険者達が、状況を把握し始める。
ランダインは死体から魔力を吸収する。
ならば、俺達ができること。
それは、エルノアを守ること。
そして、死体を破壊することだ。
一斉にモンスターに向かって侵攻を開始する冒険者達。
エルノアの法陣で、戦況は若干マシになった。
しかし、俺の計算からすると、圧倒的に戦力が足りない。
もっと『力』があれば。
「はっ!
おもしれえことやってるみたいだな。
黒髪、俺にもやらせろ!」
声がする方向。
そこには短い金髪、金色の瞳の魔術師が立っていた。
「ヴァンフリーブ!」
そして。
白銀の鎧、白銀の剣を携える青年。
「ヴァンがやるのなら、自分も戦う」
氷華の女騎士。
「力を貸す」
筋骨隆々の武具店店主。
「俺に任せろ」
紫髪の受付嬢。
「私もいるよー!」
そして、魔導工学の天才少年。
およびエーテルゴーレムの軍団。
「すまない、遅れてしまった」
歴戦の猛者達が一堂に会す。
この街を守りたい。
その1つの言葉を合言葉に、共同戦線が張られたのだ。
「あらあら、これは頼もしい」
エルノアが彼らを見つめ、笑みを見せる。
そして魔導工学の天才が、開戦を宣言するのだった。
「よし!
ゴーレム達!
思いっきり暴れろ!!」
*****




