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Chapter21 死霊術 (8)

「こんなに楽しめたのは久しぶりだ」


 ヴァンフリーブは笑みを(こぼ)しながら賛辞の言葉を送ってくれる。

 その余裕に満ちた表情が、彼がまだ戦えることを暗示していた。


「結構、まだ元気そうですね。

 もしかして手加減しました?」


「ふっ、どうかな。

 てめぇで考えな。

 どちらにしても、俺もまだ(あめ)ぇ、ってことだな。

 自身の理想と現実には差異が存在する。

 ただ今の戦いで、その差異の形が少し見えた。

 礼を言う」


 これだけの力量を持ちながら、それに(おご)ることなく、正直に自分の弱さを認めることができる。

 同じ魔術師として、真に尊敬できる人物であると感じた。

 あなたと戦えたこと、(とうと)く思います。


「魔導書、頂きますね」


「魔導書が欲しかったのは、そこに自分に足りないものを求めたからだ。

 強くなれれば、手段はなんだっていい。

 別を探す」


 そして彼は、とある一点を真っ直ぐに見つめる。


「半年だ」


「・・・」


「あと半年で、あそこにいる青髪を倒せるくらいに強くなる」


「それは結構、難しいっすよ」


「俺にも目指す理想がある。

 公言した以上、意志は曲げない。

 次に会ったときは、完全に潰す。

 青髪も、お前も。

 覚悟しておけ!」


「はい!」






*****






「疲れたぁーーーー」


 決勝戦への切符を手にした私。

 ボロボロになった体を救護班のアシュターに治癒してもらい。

 もう辺りは暗くなっている頃。

 私はノムと一緒に宿へ帰る。


「エレナ、おめでとう」


「ありがと、ノム」


「エレナ、強くなった。

 もう、私も全力でエレナの相手をしても大丈夫なくらい」


「無理だから」


 後は夕飯を食べて寝るだけ。

 明日の決勝戦に向け、可能な限り、体力と魔力を回復する。


「はぁ・・・。

 早く帰ってご飯食べたいけどー。

 なんだけどー」


 私はノムと顔を見合わせる。

 それが意味すること、それは・・・。


「後、つけられてる?」


「つけられてる」


 2人の意見は一致した。

 先ほどから、同じ漏出魔力が私達の後をぴったりとついてくる。

 しかし、その漏出魔力の醸し出す感覚は、私の記憶の中に確かに存在するものであった。






*****






「セリス」


 ノムと話をした結果。

 私達はそのストーカーと顔を合わせることにした。

 漏出魔力が、その相手の名前を教えてくれていたからだ。


 彼女は普段と変わらず、感情が消え失せた、無の表情でこちらを見つめる。

 そして静かに、口を開いた。


「エレナ」


「はい」


「悪いけど、明日のトーナメントは棄権して」


「どうして?」


「答えられない。

 ただ・・・。

 時間がないの」


 色のなかった彼女の顔が、悲痛に満ちた表情に変わる。

 彼女を理解してあげたい。

 でも、今の彼女は、もう何も聞き入れないだろう。

 そう思った。


「嫌だ、と言ったら」


「嫌と、言わせないようにする」


 その瞬間、溢れ出す雷の魔力。


「エレナ下がって!

 私が相手する!」


「ノム!

 うんお願い!

 私、サポートするから」


 セリスの強さは把握済み。

 しかし、それでもノムには敵わない。

 それがわかっていたから、心配することなく任せられる。


<<バチバチバチバチ、バヂッ!>>


 セリスの武具に雷の魔力が集まっていく。


「魔力が、さらに強くなっている」


 その魔力は、本日のリリア戦での容量を超越する。

 さすがのノムでも、少し苦戦するかもしれない。


「消えて」


 ノムに向けて放たれる雷撃。

 彼女は大きくステップし、これを回避した。


「超高威力。

 でも攻撃は少し単調。

 問題ない」


 すぐに理解する。

 セリスは、また暴走しかけている。

 このままじゃ、あのときと同じだ。


 ・・・


 一瞬の静寂。

 そして、次の瞬間。

 セリスは、そのリミッターを外した。


「これは!?

 魔力が、すごい速度で集まっている!」


「エレナ!

 セリスから離れて!!」


 必死のノムの警告に従い、私は後方に大きく退避した。

 私とセリスの間に立つノム。

 その彼女は、普段見せない焦りの表情を浮かべていた。


「こんな魔法、見たことない」


 バチバチという炸裂音を響かせて、無限に収束されていく魔力。

 それは、過去経験のないレベル。

 『雷神を宿す』と呼ばれた彼女だが。

 もはや彼女は、雷神そのものだ。


「来る!」


 瞬間、ノムが身構える。

 回避か、防御か、相殺狙いの攻撃か。

 ギリギリまで先延ばしにした、その判断の決定を下すとき。


 予測された神の一撃。

 それは。

 やってこなかった。


「セリス!?」


「魔力が減衰してゆく・・・。

 これは、たぶんあのときと同じ」


 収束していた莫大な魔力は、空間中に霧散して。

 そして彼女は、瞳を閉じ、地面に吸い込まれていった。


「セリス!

 しっかりして、セリス!」


 私は彼女のもとへ駆けつける。

 そして体を抱き上げて、声を掛けながら体を揺すった。

 しかし、物理的にも魔力的にも一切反応はない。


「大丈夫、気絶しているだけ」


 ノムが状況を判断する。

 その言葉で私にも気持ちの余裕ができたようだ。


「セリス、『時間がない』、って言ってた。

 たぶん、たぶんだけど」


「・・・」


「セリスが、『魔力に精神を完全に飲み込まれるまで』、ってことだと思う」


 私の予測に対し、無言で(うなず)くノム。


 どうして彼女が。

 そんな疑問は不安に変わり。

 その不安に(あらが)うように、私は空を強く睨みつけた。

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