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Chapter21 死霊術 (7)

「ノムさん、この試合の見所をお願いできますか?」


「いまだ、真の実力を見せていないヴァンフリーブ。

 6属性全ての魔術を、高いレベルで実現する。

 彼の魔術の変幻自在さに、エレナの神懸かった反射神経がどれだけ対応できるか。

 一瞬も目が離せない」


「そうですね」


「エレナの雷術の攻撃力は高いけれど、ヴァンフリーブの封魔防壁の堅牢性も非常に高いレベル。

 魔導防壁を張る技術も高度と思われる。

 彼女が今まで戦ってきた相手のように、雷術での一撃必殺とはいかない。

 一方、エレナの魔術防御力は、彼に比べると低い。

 クリティカルは一撃も許されない」


 そんなノムの解説が終わるのを、ご丁寧に待ったのち。

 エレナちゃんのターン。

 もはや定番となった、雷の魔力を蒼の剣に収束しながらの侵攻開始。

 そんな単純明快な選択を、彼は許してくれない。


 光!


 その属性の魔力が彼から漏れる。

 その後、即、発射される光の矢。


 エレナ、軽やかなるステップでこれを回避。

 しかし、次弾はすぐにやってくる。

 それは既に想定済み。


 この程度の攻撃、何発でもきやがれ!


 回避を繰り返しながら、間合いを詰めていき。

 そして、雷槍の射程に入る。

 そのタイミング。


 今度は炎!


 収束開始される炎の魔力。

 一瞬で収束は完了。

 放たれた劫火(ごうか)

 それはこちらまでは到達せず、彼を取り囲む壁を形成した。


「ファイアーサークル!」


 キープアウト、進入禁止。

 炎のバリアが行く手を遮る。


 ならば、上から入りますね。

 

 雷槍のために収束していた魔力を、天空に向け移動制御する。

 6点収束、合成、変換!

 くらいなさい!


「ハイ・サンダーだ!」


 円環状に生成された炎の穴に、雷を落とす。

 逃げ場なし。

 そのまま潰されちゃいなさい。


<<バヂィヂィッ!>>


 その瞬間響いた炸裂音。

 そして私の雷の魔力が消滅。

 相殺されたか!


 そして攻守交代。

 次の瞬間、薄れゆく炎環の中から、魔導の刃が飛んでくる。

 1撃。

 右後ろにステップして回避。

 2撃。

 左後ろにステップして回避。

 間髪入れず。

 属性が変わり、光術レーザー。

 風術、トライウィンドが、1、2、3発。

 

 ファイアサークルから数えて、なんと合計8発。

 立て続けに魔術が放たれ、そのたびに後方にステップし、彼との間合いを空けていく。


「魔力豊富すぎない!?」


 私を追い続ける連撃。

 しかも異属性混合。

 回避のためにすり減らされる神経がハンパない。


 相手を見据え、考える。

 少し様子を見るべきか。

 リスク無視で近接戦へ持ち込むか。

 だが、その問いへの選択権は私側にはなかった。


「今度はこちらの番だな」


 殺気。

 戦慄(わなな)く私の第六感。

 防衛本能が正常に仕事をする。

 

 凝視、アンド、オーラサーチ。

 少しの情報も見落とさない。


 炎、魔導。

 私の第六感が拾ってきた情報。

 2属性なの!?

 予測。

 属性合成、『フラン』だ!


 一瞬だけ見えた気がした3つの炎のコア、同じく3つの魔導のコア。

 それは瞬時に高速で回転しながら合成され、赤黒い巨大なコアを生成。

 完成したそのコアを、見せつけるように空間中に漂わせている。

 回避の準備はできている。

 くるんなら早く来てよね。

 焦らしプレイか!

 変態なの?


 そして、たっぷりの間を取った後、放たれたその魔力球は。

 明後日の方向に飛んでいった。


「は!?」


 予想外の出来事に全身が脱力する。

 ノーコンなの?


 飛んでいった魔力球を眺める。

 すると、その魔力は。

 突然軌道を変えてきた!


「カーブかよ!!」


 円弧を描き、到来する魔力球。

 脱力した体に力を戻すまでに時間を要する。

 そして、まるで吸い込まれるように標的私を見定めた。


 跳んでくれ!

 自分の体に一生懸命命令を出す。

 爆撃の直前にその命令は聞き入れられ。

 ジャンプ一発、飛翔回避を試みた。


 爆音、衝撃。

 それは、左後方から。

 ギリギリだった。

 右前方に着地した私は、すぐに次弾を見据える。

 予想通り。

 すでに完了していた炎×魔導の魔力球。


 今度は右からだ!

 

 再び魔力が円弧を描く。

 崩れた体勢を無理やり立て直し、今度は左に回避した。


「避けづらい!

 なんだこれ」


 その答えは解説のノム先生が教えてくれる。


「上位の放出技能、カーブ放出。

 仕込まれた制御の情報構成子により、その軌道は円弧を描く。

 ただし、単純な炎術は制御力が低い。

 そこで魔導術の登場となる。

 炎と魔導の合成魔術、『フラン』。

 六点収束で『ハイ・フラン』。

 制御力の高い魔導術と合成することで、高い制御力を持った炎が実現される。

 しかし、こんなに『曲がる』魔術、今まで見たことがない。

 魔術を極めたヴァンフリーブだからこそ可能な見事な曲芸。

 いいもの見れたの」


 ありがとうございます先生。

 先生の解説が終わった時点で、彼は既に次の『フラン』を発射準備完了状態まで持ってきていた。

 円弧の軌道をイメージし。

 より軽やかな跳躍を。

 今はこの攻撃を見切るしか、対策はありえない。


 くる!


「ストレートかよ!」


 左曲がりでも、右曲がりでもない。

 直線軌道の炎弾が左脇腹を(えぐ)る。

 完全にタイミングをずらされた。


 この私としてはありえない失態。

 私の武器である『回避』と『勘』。

 それを過信しすぎていた。

 『やってしまった』という後悔が、苦い笑いを誘発する。


 しかし、そんな私に余暇(よか)を与えてくれる相手ではない。

 余白なし。

 既に収束完了した合成魔力。


「しかも、2つかよ!」


 左手に魔力、右手にも魔力。

 それは美しいシンメトリーな円弧軌道を描き、放出される。


 もう笑うしかない。

 そして。

 (あらが)うしかない。






*****






 もう、卑屈な笑みさえも消えうせて。

 全身を覆う鈍い痛み。

 かつてない疲労感。

 それらは、私から攻める意志を奪い去り、脳内はただ防ぎ、避けることのみで埋め尽くされる。


 直線軌道と円弧軌道のフランは徐々に見切りつつある。

 その一瞬の希望が、絶望に変わる。


 ヴァンフリーブから放たれた風雷合成『スパークウェイブ』。

 それが私の足を絡め取る。

 広大な攻撃範囲は、私から『回避』という選択肢を奪う。

 魔導防壁は張っている。

 封魔防壁も強化している。

 しかし、それを突き破ってくる相手の攻撃。

 一般的には比較的低威力と呼ばれるその攻撃も、彼にかかれば有効打。


 詰んだ。

 若干の余力を残しながらも、終わりのイメージが浮かび離れない。

 奇跡的な挽回策が脳内に降臨することを期待する。

 聖女マリーベルよ。

 私に力を貸してください。





 そして。

 その祈りは。

 逆に天罰となって発現した。

 信心深くないの、バレたの!?


 ヴァンフリーブが静止。

 瞬間、彼の両手の2つの腕輪。

 そこから、炎の魔力が溢れ出す。

 それは止め処なく、際限なく、無限の魔力。

 そんな言葉を連想させる。


 私が惚けている間に、膨れ上がる赤の魔力球。

 しかも2つかよ!

 左手の先に1つ。

 右手の先に1つ。

 2つの巨大な魔力球が天に掲げられる。

 

 腕輪に魔力を収束していたんだ!

 『武具収束奥義』だ!

 そこで、私の思考は止まる。


 ああ、終わった。


「イフリート・キャレス!」


 彼の叫びに応じて、侵攻を開始する2つの炎の魔力球。

 それは私の左前方と右前方から襲ってくる。

 巨大すぎて回避もできない。


 じゃあ、あれっ?

 どうすればいいんだっけ?


<<ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!>>


「きっ、決まったーーーーーーーーー!

 ヴァンフリーブ選手の(すさ)まじい炎術が直撃!

 これは勝負あったかーーーー!」


「エレナ!」


「ノムさん、エレナ選手大丈夫でしょうか!?」


「わかんない、わかんないの!」

















 爆煙。

 それが静かに引いていくと。

 そこに残ったのは、腕を交差させ、防御の姿勢を取った私。

 そして私は。

 静かに右膝をついた。


 静寂。

 長い時間が流れているはずなのに、私の思考は停滞したままだ。

 まだ戦えるのか。

 それともここで終わりなのか。

 もう何もわからない。


 彼の地獄の炎撃で(たかぶ)った観客の興奮は冷めやり、静まり返った会場。

 私の荒い呼吸音が鮮明に聞こえる。

 そんな時間がしばし続いた後。


 彼は。

 理解不能なことを言い出した。


「30秒だけ待ってやる!」


 『ありがとう』なのか、『要らんお世話だ』なのか。

 『お前何言ってんの』なのか、『もうちょっと待ってよ』なのか。

 全く結論がでない。


 そんな脳内の混濁が永遠と続き。







 そのまま20秒ほどが経過した頃だろうか。


 そのとき私は。

 自分でも信じられない言葉を吐き捨てた。


「さっき私を殺さなかったことを、後悔させてやる!」


 その言葉をトリガーにして。

 私は魔力の収束を開始する。

 属性は魔導。

 そして封魔。

 2属性。

 そう。

 それは。


「ヒーリング!」


 魔導と封魔が合成された魔力を、自分自身に浴びせる。

 私の体がキラキラと光り輝く。

 鋭い痛みが、鈍い痛みに変わる。

 それでも、活動再開には十分だ。


「治癒術!

 エレナ選手、回復魔法です!」


 そして、約束の30秒。

 私に残された時間は、再度武具収束奥義のための魔力が収束完了されるまで。

 一刻の猶予もない。


 ぶっとばす!


 どこから湧いてきたのかわからない闘争本能。

 それに一番驚いているのは私だ。


「長く待った甲斐があったぞ!」


 同時に彼も活動再会。

 すぐに魔力の収束を開始する。

 デュアル・ハイ・フラン!

 発動前に、完全にその魔術名を予測する。


 嫌というほど見せつけられたその魔術。

 おかげさまで、その発動モーションが脳内に完全再現できる。


 予測どおり赤黒い2つの魔力球が完成する。

 しかしそれは先ほどの『イフリート・キャレス』とやらに比べればちゃっちく見える。

 そして放たれた2つの魔力球は、私の勘の通り、対称形の円弧軌道を描く。

 ならば。

 

 真ん中を抜ける!


 用意しておいた風の魔力を放出。

 エリアルステップ。

 その補助魔法の効果で、一気に前方へ踏み出した。


 私の後方で爆発する魔力球。

 その衝撃を完全に無視して。

 ヴァンフリーブ、ただ一点を狙い澄ます。


「エレナ選手、魔炎の包囲網を抜けたーーー!」


 収束するのは、雷術。

 を、キャンセルして光術!


 高速収束した単点光術レイショットで、相手の次弾収束を妨害する。

 風術の加護もあり、一気に縮まった間合い。

 そして、ここで。

 収束するのは封魔の魔力。


小賢(こざか)しい!」


 寄ってくる虫を一掃する攻撃。

 バーストスイープ。

 その魔法が、私と彼の間に展開される。

 しかし。

 私は侵攻を止めない。

 収束した封魔の魔力を魔法防御力に変換し、そのまま炎に突入していった。


 炎の壁を抜けると、そこにはもう(へだ)てるものは何もない。


「やっと間近でお会いできましたね」


 狂気を孕んだ笑みで相手を威嚇し。

 蒼の剣が円弧を描き。

 その軌道が、彼の胴体を(かす)める。

 

 そこから立て続けに数発の斬撃を繰り出す。

 彼はその全ての攻撃を、体スレスレで回避していった。


 その回避動作と同時に収束される炎の魔力。

 それが一定量溜まったことを確認して、私は一気に後方にステップした。

 その瞬間、発動されるバーストスイープ。

 私達の間に、中距離程度の間合いが確保される。


「頭脳派の引きこもり系と思いきや、意外に動きも俊敏でいらっしゃる」


「はっ!

 小癪(こしゃく)な!」


 いやらしい笑みが衝突する。

 即、笑みを殺して、決意を固める。

 次で決める!

 私は蒼の剣に雷の魔力の収束を開始する。


 と同時にオーラサーチ。

 相手が収束を開始したのは炎の魔力だ。

 その魔力の収束が完了する前に、こちらから仕掛ける。

 一歩を踏み出すと同時に、雷の魔力が収束された剣を引き、雷槍(らいそう)発動のモーションに入る。


 この時点で相手は、雷槍の回避、及び炎術での相殺の2つの選択肢を取れる。

 どちらを取られてもダメージを与えることはできない。

 ならば。

 別の手段を取りますわね!


「来て、紅玲(くれい)!」


 突き出した左手から、炎の妖狐を産み落とす。

 炎の使い魔は彼を見据え、今にも飛び掛らんとする。


「ここで召喚魔術だーーーーーー!!」


 その瞬間、相手は回避のモーションに入る。

 全く驚いた表情は見せない。

 アリウス戦で彼女をお披露目してしまったことが災いした形。

 結果、意表をついたはずの炎撃は、彼の予測の範疇に入ってしまった。








 ここまではね。



 

 その瞬間、炎狐が2つに分裂する。

 炎が左右に展開し、相手ヴァンフリーブを挟む壁のように広がった。

 回避先を失った彼。

 見たかったよ。

 困惑したその表情。


「いっけーーーーーーー!」


 即、迷いなく、真っ直ぐと雷槍を打ち出す。

 それは彼を貫く。





 その寸前に、炎の魔力と衝突し、爆音を轟かせる。


 ほんのわずか、遅かった。

 彼は炎術の収束を完了していた。

 本当に、魔力収束が速すぎる。


 雷術と炎術がぶつかっての相殺。

 その結果が導き出される。

 彼の安堵した表情は、爆煙によって包み隠される。

 魔術の帝王。

 その壁の高さを思い知らされた。








 なーんてね!


 彼を挟むように展開した紅玲(くれい)による炎の壁。

 それは彼を通り抜けた後、再び一箇所に集まる。

 そしてその姿は、再び狐に化けたのだ。


「雷槍は囮!

 真の狙いはこっちなの!!」


 バックアタック。

 完全無防備な彼の背後から、炎の使い魔が襲いかかり。

 そして、その存在を、慈悲なく包み込んだ!


<<ゴゴォーーーーーーーーーーーーーーーーフ!!>>


「ついに、エレナ選手の一撃が決まったーーーーーーー!」


 凄まじい熱、音、衝撃。

 それが空間を通して私に伝わり、ステップして後方に退く。

 と同時に。

 ミーティアの実況に掻き立てられた観客たちの歓声が、怒涛の如く押し寄せる。





 そしてその役割を果たしてくれた紅玲(くれい)は、空間中に消えていく。

 より厳密には炎の魔力がプレエーテルに変換されて戻り、そして紅玲(くれい)の情報を持ったそのプレエーテルが私の体内に自然と戻ってくるのである。


「お帰り。

 ありがとう、助かったよ」


 勇敢なる炎狐に謝意を伝えて。

 そして再度、戦況を見つめる。

 黒煙を上げるヴァンフリーブ。

 いかに彼の封魔防壁が強固堅牢であっても、今の攻撃は効いたであろう。


 いや、頼むから、効いててくれ。

 嗚呼。

 嘘でしょ。


 彼は仁王立ち。

 (ひざまず)くことなく、しっかりと大地を踏みしめている。


 化け物かよ。


 そして(うつむ)き下を向いていた顔を上げ、しっかりと私を見据えなおす。

 そして、高らかに宣言したのだ。


「今日は、これくらいでいい。

 終わりだ」


「はい!?」


 彼は両手を軽く掲げて笑う。

 そして判定を(つかさど)るミーティアにアイコンタクトを送った。


「し・・・。

 勝者、エレナ・レセンティアーーーーーーーーーーーーー!!」






*****

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