Chapter21 死霊術 (6)
【** エレナ視点 **】
「紅玲、ありがとう」
勇敢に戦ってくれたお礼を述べると、彼女は私の体の中へ戻っていった。
密かに練習していた紅玲の召喚。
そのとっておきの切り札が勝負を決めた。
本来なら、決勝まで秘密にしておきたかったんだけどね。
それほどにアリウスは強かったのだ。
紅玲召喚に関して残念な点がある。
それは、『常時』紅玲を空間中に存在させることはできないことだ。
彼女を召喚できる時間は限られている。
ある程度の時間召喚すると、彼女の魔力が尽きてしまう。
その魔力を回復するには、一度彼女を元の書籍に戻し、徐々に魔力が回復するのを待つしかない。
故に、ここぞのピンポイントでしか彼女の力を借りることはできないのだ。
「うぐっ!」
低いうめき声が聞こえる。
アリウスがその重い体を必死で起こそうとしていた。
そんな彼を、駆けつけた救護班の男性が支える。
「アリウス、私、絶対優勝するんで。
エルノアに、本、届けます」
「すまないな、俺がもっと強ければ・・・
俺は、いつもエルノアに守られている。
俺自身は、さして強くはないんだ」
そんな悲観的な言葉を呟いて、彼は大地を見つめる。
そんな彼とは対照的に、私は楽観的な笑顔を浮かべた。
「まあ、私もノムに守られてるっすからねー。
意外と共通点?
っすかね」
そんな適当な冗談が。
彼の心には届いたようだ。
「ふっ・・・。
そうだな。
すまない、愚痴っぽくなってしまったな」
「いいですよ」
「また・・・
いつか相手をしてくれるか?」
「もちろん」
「それまでには必ず、お前より強くなる」
「そのときも、負けませんから」
彼の顔に笑顔が戻る。
『私が強くなれたのは、あなたのおかげです』。
それは、言葉にしなくても伝わっている。
「さぁーーーーーーーーーーーーーーーーて!
これで明日の準決勝へ進む、ベスト4が出揃いましたぁーーーー!
なんと4人中3人が女性!
しかも3人とも初出場です!
その挑戦者を迎え撃つは、前回王者ヴァンフリーブ!
その存在に、彼女達はどう立ち向かうのかぁ!?
さて、解説のノムさん。
最後に本日の試合の総括をお願いします!」
「リリアのダイアミスト。
セリスの法陣魔術。
アリウスのナイトリキッド。
エレナの召喚魔術。
この1日で、多くの魔術の深淵を、この目で見ることができた。
そして、ヴァンフリーブも、いまだ真の実力を見せていない。
明日以降も、とても楽しみなの」
「あーーーーりがとうございまっす!
では、本日のトーナメントはこれで終了です。
明日、またお会いしましょう!」
*****
「エレナ、おめでとう」
闘技場のステージから引き上げてくると、そこには桃色の髪の依頼主が待っていた。
「どうもです。
なんとか優勝して、賞品を渡せるようにがんばります」
「エレナに1つ言っておきたいことがあって」
「なんですか?」
日頃から笑顔を絶やさない彼女。
その表情に霧がかかる。
「セリスには気をつけて」
「セリスが魔力を覚醒させてるのって、やっぱり闇魔術ですか?」
「おそらく違うわ」
「セリスが、例の死霊使いの可能性もある、ってことっすかね」
「それはないわ、感覚的に。
でも・・・
残念ながら、関係があるだけのは確かね。
感覚的に」
「そう、っすか」
エルノアは魔術が持つ情報を読み取る。
その彼女の予言は、信じたくはないが、信じざるを得ない。
「私も、セリス戦のときはすぐにエレナを助けに行けるようにしておくけど。
いつ、何が起こるかはわからない」
「わかりました」
「それじゃあ、明日がんばってね」
労いの言葉をかけ、去っていくエルノア。
私は彼女とは逆、闘技場のステージのほうへ視線を向ける。
明日、そこにいるであろう。
儚げな憂いを湛える、彼女を思い。
*****
「みんなぁーーーーーーーーーーーーーーっ!
盛ーり上がってるかーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ついにトーナメントも準決勝!
今年も、史上最強の魔術師、魔術の帝王ヴァンフリーブが制するのか!?
それとも、凍てつく視線痺れる、氷華の女騎士リリアか!?
神秘的な魅力、雷神を宿す美女セリスか!?
よく見るとかわいい、神速の雷姫エレナか!?」
「どいつもこいつも、『よく見ると』ってなんだよ!
なんなんだよ!」
「本日は、先日に引き続き。
解説はノム・クーリアさんにお願いします。
さらにスペシャルゲストとして、見事準決勝に進みましたエレナ・レセンティアさんにもお越しいただいています」
私の突っ込みを無視して進行するミーティア。
その右に、昨日に引き続き、やる気まんまんのノム。
私はミーティアの左に陣取った。
「でぇーーーは、さっそく参りましょう!
準決勝、Aブロック!
選手入場!
西、赤の門より!
氷華の女騎士、リリア・ディアラムっ!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「そして、東、青の門より。
雷神を宿す美女、セリス・シルバニア!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
絶世の美女といっても過言ではない2人が入場すると、闘技場が昨日にもまして沸きあがる。
こんなにも美女だと、それなりにかわいい私が霞んでしまうので困る。
営業妨害。
「氷の美女と雷の美女。
そんな対決になりました!
さて、ここで解説のノムさん、一言お願いします!」
「リリアの作る氷の霧は、戦いの時間が長引くほどに濃くなっていく。
セリスとしては短期決戦に持ち込みたいところ。
彼女の放つ雷撃、その1つ1つが必殺の威力を持つ。
この攻撃をリリアがどれだけ見切れるか。
それがこの試合のポイントになる」
「エレナさんからも一言もらえますか?」
「セリス、彼女は豊富な魔力を持ち、雷術の同時収束も連続攻撃もできます。
放出のバリエーションも多彩です。
さらに、法陣魔術による超広範囲攻撃も、武具収束奥義による超高威力攻撃も、リリアさんは考慮に入れなければなりません。
魔術放出前に相手の攻撃の種類を判定する。
そんな『勘』みたいなものも必要でしょう」
「なるほど、ありがとうございます」
両者、出揃った。
さあ、試合が始まる。
「それではーーーっ!
準決勝ーーーーー・・・
はじめーーーーーーーっ!!!!」
*****
氷華と雷龍が舞う美しい戦い。
見るものを魅了する演戯。
しかし、それは突然のフィナーレを迎える。
セリスの斧に収束されていく雷の魔力。
それは、まるでリミッターが外れたように際限なく蓄積されていった。
そして。
その斧が高く掲げられる。
その瞬間、天空に巨大な青の魔力球が出現した。
「ハイサンダー!」
私とノムが同時に叫ぶ。
そして、十分な思考を構築させる間もなく、その魔力が相手に向かって打ち落とされる。
通常なら、ここでジ・エンド。
しかし、リリアは攻撃の行く先を先読み。
風の魔力の収束を完了していた。
エリアルステップ。
雷撃が地面を突き刺すタイミングを見計らい、風の魔力を利用して大きく後ろにステップ、これを回避した。
天空から打ち落とされた雷が、轟音を響かせ大地を揺らす。
狂気的破壊力。
誰もがその巨大な落雷に釘付けにされる。
だからこそ。
リリアその人も含め、誰も彼女を見つめてはいなかった。
「連続攻撃だ!」
私のその叫び声が会場に響き渡る。
エリアルステップで大きく浮遊した体が、大地に戻る、その瞬間。
彼女は、雷神の槍で貫かれた!
斧を突きつけるセリス。
そして、声なく地面に倒れこむリリア。
彼女の刀が滑り落ち、金属音を響かせる。
「しっ・・・
勝負ありっ!
勝者、セリス・シルバニア!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
圧倒的な攻撃力による2連続攻撃。
『雷神を宿す』とは、あながち冗談ではない。
「ノムさん、どうでしたか、この試合」
「セリスの魔力はまるで無際限。
ハイサンダーで使い果たしたと思っていた魔力は、実は半分しか使っていなかった。
武器に収束した魔力を2回に分けて放出した。
それでも1撃の威力は必殺級」
「そうですね」
「しかし、リリアも大絶賛。
魔術のセンスは素晴らしかった。
あとは絶対的な魔力量を増やす。
そのための地道な鍛錬が求められる」
「ありがとうございます。
エレナさん、お願いします」
「決勝で彼女と戦えるように頑張ります」
「応援しています!
では、午前の試合は終了です。
Bランク準決勝は午後からになります!」
*****
「調子はどう?」
お昼のランチはいつものパスタ。
くるくるっと巻いたパスタを口に運ぶ私を見て、ノムが尋ねる。
「たぶん。
本当にたぶんだけどさ。
昨日くらいからだけど。
すごい調子いい。
絶好調なんだよね」
過去最高のパフォーマンスを発揮できたアリウス戦。
それが私に確かな自信を与えてくれる。
「死霊術師のことは心配しないで。
私とエルノアに任せて。
エレナは試合に集中して」
「ありがと、ノム。
・・・。
勝つからね」
「ふふっ。
がんばって、エレナ」
右手に掴んだフォークを彼女に向けて宣言する。
緊張感は特になく。
優勝まで、あと2戦。
絶対に勝つ!
*****
「みなさーーーーーーーーん!
長らくお待たせいたしましたーーーー!
準決勝第二試合を開始しまーーーーーーーーーーーす!」
ミーティアの実況が響き渡る。
「西、赤ゲーーーート!
魔術の帝王!
ヴァンフリーブ・ウェルシュトレイン!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーっ」
「ヴァン様ぁぁっぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」
今大会最大級の声援。
圧倒的人気。
倒したら恨まれそうなレベル。
今からボッコボコにするけど、許してーね。
「そして、東、青ゲーーーート!
神速の雷姫!
エレナ・レセンティア!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「エレナーーーーーーーー、負けんな!」
「エレナちゃーーーーーーん!
大好きだーーーーっ!」
「アシュター、恥ずかしいからやめてください!」
あれっ?
結構、声援があるかも。
そうこれが。
ここまで私がこの闘技場で積み上げてきた実績。
振りまいてきた愛嬌。
天性の愛らしさ。
顔面偏差値の高さ。
やっとそれが、みなに伝わったのだ。
たぶんね。
私が負けられないのは。
エルノアのため?
ノムのため?
それとも・・・。
観客席をざっと見渡す。
一段と強い漏出魔力が、その存在を教えてくれる。
セリス。
真っ直ぐに、こちらを見つめている。
もし、決勝で会ったら。
もう一度。
もう一度だけでも。
「レセンティア!」
彼は私の姓を呼び。
そして、内に秘めた魔力を解放する。
すごい、魔力だ。
押し寄せる魔力の波。
防衛本能が強制覚醒させられる。
反射的に身構える。
「お前は、魔導書が目的のようだな」
「・・・」
「俺の目的も、その魔導書だ。
つまり、俺に勝たなければ、望みのモノは奪われる」
「大丈夫です。
ヴァンさん、倒すんで」
彼の脅迫めいた口撃も、今の私には効果なし。
最大級に爽やかな笑顔で笑い飛ばしてやった。
「はっ!
いいだろう!
全力で潰してやる!」
「いきます!」
「試合ーーーー、開始っ!!」
*****




