Chapter21 死霊術 (4)
先ほどの試合の興奮も冷めやらぬまま。
「Aブロック、第二試合を始めます。
西、赤の門から入場しますは。
黒斧の重戦士、ゴッサム・ポートリオ!!」
「うおーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
ステージに上がると、雄たけびを上げるゴッサム。
漏出する魔力は、炎。
斧と炎術の使い手だ。
「続きまして・・・。
西、青の門から登場します。
雷神を宿す美女、セリス・シルバニア!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
闘技場内から歓声が上がる。
彼女はBランクのトーナメントに数回出場したことがあるようだ。
その試合を見た観客は、彼女の実力を知っている。
「さてノムさん。
この試合、どう見ます?」
「セリスの雷術に注目。
以上」
「なるほど。
さて両者準備が整ったようです。
・・・。
では、試合開始!」
その瞬間。
闘技場に出現する青色の魔法陣。
想定を完全に外れた現象に、相手のゴッサムは状況判断に遅れを取る。
ようやく全てを理解すると、セリスに向けて突撃を開始した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
斧を振り上げ、重厚な鎧を揺らしながら全力で前進するゴッサム。
しかし。
もう全てが遅すぎる。
巨大な魔法陣が青く発光する。
「アーク、スパーク」
拾ったその呟きの直後。
この場にいる全ての人間の目が青で支配される。
暴龍のような電撃。
それが魔法陣の中でぐちゃぐちゃに暴れ舞う。
「法陣魔術だーーーーーーーーーーーー!」
ミーティアの叫びをかき消すほどの炸裂音。
・・・
その攻撃は、私の想定よりも短い時間で終わった。
それは彼女が若干の手加減をしたことを意味している。
しかし、相手を焼き尽くすには十分であった。
「し、勝負あり!
勝者、セリス・シルヴァニア!」
前の試合とは真逆、あっという間の決着。
実力差がかけ離れすぎていた。
焦った様子で救護班の数名がゴッサムに駆け寄る。
彼女の実現した法陣魔術。
さすがの私も言葉を失うその威力。
何よりも、その収束速度の速さに驚いた。
そして、その魔術は。
エレナへ向けられた脅迫のメッセージのように感じた。
*****
「いよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっし!
本選を再開しまーーーす!」
本日最高潮のテンションでミーティアが叫ぶ。
午前中のAブロックの2戦が終わり、昼食休憩が取られ。
そして今、Bブロックの戦いが始まった。
「Bブロック、第一試合。
西、赤の門から入場するのは、謎多き奇術師、フォゾン・イーノルマータ。
そして対するは、前回大会優勝者!
東、青の門から入場するのは、魔術の帝王、ヴァンフリーブ・ウェルシュトレイン!!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ヴァン様ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ヴァン様ーーーーーーーーーーっ、かっこいいー!」
全方向から女性の悲鳴。
この場にいる人の多くが、否、ほぼ全てが、本大会の優勝候補は彼だと考えているだろう。
まあ、私の方が強いけど。
こんな生猪口才には負けない。
「さてさてノムさん。
この試合、どう見ます?」
「フォゾン選手。
オーラセーブが得意みたい。
へにゃへにゃに見えるけど、裏がある。
しかし、ヴァンフリーブに届く程かというと悩ましい。
相手の裏を付く何かしらの秘策があれば、もしかすると、があるかもしれない」
「おお!
フォゾン選手も意外に好評価。
これは楽しみです!」
そんな私の発言を聞いたフォゾンが苦笑いを湛え私を見てくる。
『余計なこと言うな』とかなんとか言い出しそうだ。
そんなことは知らぬ。
「それでは・・・。
試合スタートでーーーーーーす!!」
「はーーーーーーーーーい、降参。
降参しまーーーす!」
「はぁっ!?」
会場全体の気持ちが一致した。
驚愕と落胆。
試合開始直後、フォゾン選手は両手を挙げ、降参を宣言した。
「え、えーっと・・・
それでは、えーっと。
勝者~、ヴァンフリーブ」
困惑の声色混じりにミーティアが宣言した。
ざわつく闘技場内。
両者が逆方向に退場していく。
その途中でまた、フォゾンがニヤついた嫌な笑いを浮かべ私を見つめてきた。
だから、知らんって。
*****
【** エレナ視点 **】
東の入場門の前で待機する私。
その門からヴァンフリーブの戦いを可能な限りうかがわんと目を凝らしていたが。
まさかの不戦勝。
「嘘でしょ」
残念すぎる。
フォゾン、あんにゃろう。
ヴァンフリーブがこちらに引き返してくる。
門の真下まで到達したところで、呆気に取られてボケーっとステージを見続けていた私と目が合う。
「エレナだったか」
「はい、エレナっす」
そう言うと、急に近寄ってくるヴァン様。
そして先日と同じように、さらに顔を近づけてきた。
「よく見ると」
「はい?」
「よく見ると、なかなか整った顔をしているな」
『よく見ると』ってなんなんだろ?
要らなくない。
『かわいいな』でいいじゃん。
ツンデレか。
「試合、見させてもらうぞ。
必ず勝て。
俺を倒して、優勝するんだろ」
「そうっすね」
前回王者から発破を掛けられる。
そして、私はそれをモチベーションに変換する。
やってやろうじゃないの!
「ふっ!
やってみろ!
楽しみにしている!」
そういって彼は去っていった。
ああ見えて、実は結構いい人なんだなー、と気づく。
そう、明日ヴァンさんと戦うために。
倒すべき人がいる。
*****
「ついに本日最終戦。
Bブロック第二試合!
西、赤の門から入場。
宵闇を操る者、アリウス・ゼスト!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「そしてーー・・・。
東、赤の門から入場するのは・・・。
神速の雷姫、エレナ・レセンティア!!」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
私と彼は、壇上に上がり見つめ合う。
私の目的はエルノアへの賞品の献上。
その目的は彼でも果たせる。
「アリウス。
念のため聞きますけど。
私、棄権したほうがいいっすか?」
「全力でこい。
勝った方が、強いほうが残ったほうが、優勝できる可能性は高い。
そして、俺は、負けるつもりは無い。
・・・。
お前と戦うのも、これで最後になるかもしれない。
お前がこの街を離れれば、もう二度と、会うことも、ないかもしれない。
だから最後は、俺が勝たせてもらう!」
「勝ち逃げっすか?
でも、私も負けるつもり無いんで。
いろんな、約束があるから」
懸念点は消滅し、意志が強固となった。
アリウスを倒す!
全力で!!
「本選Bブロック第二試合・・・。
はじめーーーーーっ!!」
*****




