Chapter21 死霊術 (2)
ついに明日、Aランクトーナメント開催。
といわけで、遅れましたが参加登録に来ました。
「エレナがいなくなっちゃうのは寂しいなー。
まあ、最後は綺麗に優勝を飾ってよ」
「まあ、なんとかがんばります」
トーナメントの登録手続きを依頼する前に、私はミーティアさんにこの街を去る意志を伝えた。
「んじゃあ、これ。
登録用紙ね」
手渡されたのは出場者の一覧表。
記載された名前の数は、Bランクよりも圧倒的に多い。
私は用紙の最後尾に、自分の名前を記入した。
「どーも。
ちなみに、今回はどんな人が出るんすか?
私登録にくるのが遅かったんで、もうみんな登録済みなはずですよね」
「まあでも締め切りまでもうちょっと時間あるから、あとちょい増えるかもだけどね」
個人情報保護の観点が働いたのか、ミーティアさんはそれ以上の話はしてくれない。
しかし私は、ミーティアさんに個人情報保護の観点があるとは思っていない。
もう少し粘ろう。
私は登録用紙を上から眺めていく。
「えーっと、知ってる人は・・・
アリウス。
あと、イモルタ」
そして見つけた、探していた名前。
「セリス、出るんだ・・・」
もし、彼女を倒したら、今度こそちゃんと話がしたい。
そんな新たな目標を胸に秘める。
「いよっし!
闘技場を知り尽くした私が、今回のトーナメントのポイントを教えてあげよう!」
「是非に、よろしくお願いします」
普通に教えてくれるようだ。
それにしてもこのお姉さん、ノリノリである。
「まずは、この人!
元西大陸の王国の騎士。
騎士団長になれると言われながらも、若くして退役。
その後は世界中を放浪し、更なる力を求め、技を磨く。
剣技では右に出る者はいない!
そしてイケメン!
聖騎士、クレスト・エルストル!!」
『聖騎士』という肩書きからして、武術に長けた人物であることが予測される。
護身用で始めて、途中からは我流の私の剣術が、どこまで通じることやら。
魔術で攻めるのがよさそうだ。
勝手な騎士様イメージを脳内で構築し、イメージトレーニングを開始する。
「あとはー、もう一人有名な人がいるんだけど・・・。
まだ登録してないなー。
街で見かけたから、絶対に出る、はずなのに、なぁ」
ミーティアは選手一覧用紙を数回見返す。
意中の名前がないことに納得すると、残念そうな表情を見せる。
と、思いきや。
その表情が180度反転。
「と、噂をすれば。
来ましたね!
過去トーナメント出場3回中、優勝3回。
無敗の最強魔術師。
そして、超イケメン!
女性人気No1!
(でも私にはシエル君がいるから、どうでもいいけど)。
ヴァンフリーブ・ウェルシュトレイン!!
通称、ヴァン様!」
背中から感じる漏出魔力。
その魔力は、私の第六感にかつてない種別の刺激を与える。
即、振り返り、視覚情報を得る。
イモルタよりも落ち着いた色の短い爽やかな金髪。
ほぼ同色の金色の鋭い瞳。
なるほどイケメンな整った顔立ち。
判断が難しいが、わずかに笑みをたたえているように見える。
体を覆う黒のコート。
そのコートの袖からは、両手首共に金色の腕輪、および青から紫色のルーンが刻まれた白のグローブが確認できる。
私は、この装備が彼の戦闘スタイルを暗示するものだと判断する。
「この人が」
まじまじと凝視する私には目もくれず。
真っ直ぐにミーティアに接近する男性。
放たれる圧倒的存在感で、後ずさりさせられそうになる。
「以上、優勝候補2人。
ヴァン、アンド、クレスト。
覚えた?
ちなみに、Aランクトーナメントの司会は私なのです」
「そうなんだ」
受付カウンターを挟んでミーティアと対峙した彼は、その口を開く。
「俺の噂話か?」
「トーナメントの登録ですか?」
「そうだ」
「では、こちらの用紙に名前を記入してください。
今回も優勝したら、4連続ですよ!」
「『したら』、じゃない。
『する』、だ」
彼は自信家であるようだ。
『大口を叩く奴にたいした奴はいない』というあるあるを、真っ向から否定する存在。
近くに寄れば寄るほど、彼の隠し持つ魔力の大きさを感じ取れる。
ノム大先生に匹敵する可能性すらある。
そして。
そんな彼に全く臆することないミーティアにも賞賛。
改めてこのお姉さん、強者。
「クレストさんも出ますよー」
「知っている。
今しがた、宣戦布告されたばかりだ。
前回、決勝で負けたのが、よほど悔しかったらしいな。
まあ、久しぶりに得るもののあった試合だった。
だが、甘い。
あいつは魔術が糞だ。
自身の剣技に、魔術技能が追いついてない」
「だから、今回はそこを埋めてきたそうですよ」
「はっは!
それはいい!
さらに楽しめそうだ!!」
「ちなみに、この娘も強いですよー」
「げっ!
ミーティアさん!」
絶妙なお節介。
今はあまりパーソナルな情報を与えたくない。
『弱っちい乙女の振りして不意打ちの一撃でKOする』、という私の作戦に支障が出る。
「貴様も、でるのか女?」
『貴様』って、あんた。
扱いゾンザイすぎない?
私の女の魅力伝わってないの?
ホモなの?
そんな心の内はひた隠し。
無知な少女を演出してみたりして。
「えっ?
はい、一応」
怖がっている風な態度で返す。
かつ同時に漏出する魔力を最小限に留める。
オーラセーブ。
ノムとずっと一緒にいたからか、私も彼女が得意なその技術が、六部咲き程度に開花していたのだ。
おそらく彼は、私の魔力的な実力を判断することはできない、と思われる。
「読みづらいな」
ボソッと呟いたヴァン様。
すると、なぜか知らんが私にジワジワと近き。
目の前まで近寄ると、そこからさらに顔を近づけてきた。
何!?
近いって!
さっさとどっか行きなさいよ!
息もかかるほどの近距離からの凝視攻撃。
石化しそう。
眉間のシワが目に入る。
反射的に視線を逸らせる。
苦い笑みが零れ出る。
やましいことはないのだが、取調べを受けている感覚。
・・・。
その時間が5秒ほど続き。
私を釈放した彼は、
「ふっ」
そんな鋭く短い笑いを、私に向けて放った。
不遜。
「どうですかー?
エレナちゃんっていうんですけど」
「少しは楽しめそうだそうだな」
「おおっ!」
ミーティアが手を叩き、驚嘆の声を上げる。
「勝ち残ったときは相手をしてやる。
まあ、勝ち残ったら、だがな」
そんな言葉を吐き捨てて、彼は闘技場を後にした。
その背中をホゲーっと見つめる。
「行っちゃった」
「エレナ、すごいじゃん!
普通ならヴァン様は、雑魚とか、粕とか、糞とか、ド阿呆とか、馬鹿とか、ゴミとか、生ゴミとか、クソ虫とかしか言わないのに。
『楽しめそう』って言わせたってことは、結構認めてたってことだよ!」
「強そうな人でしたね。
魔力も、そして自信もすごい」
「でもあれは、わざとああいう風に見せてるだけで、実際の戦闘のときは至極冷静沈着だから、気をつけてね。
優勝するんでしょ。
ってことはクレストも、ヴァン様も倒さないと、だよね」
「そうですね」
「おっしゃ!
じゃあ最後に一言。
私はエレナを応援してるからね!」
「ありがとう!
がんばりますよ!」
*****
ついに始まったAランクトーナメント。
これは5日間かけて行われる
まず最初の2日は予選。
予選1日目で60人の選手が32人まで絞られ、予選2日目で、その32人が8人まで絞られる。
3日目が本選の1回戦。8人が4人まで減る。
4日目が準決勝。
そして最終日が決勝だ。
Aランクトーナメントは、試合後にしっかりと魔力を回復できるように、日数をかけて行われる。
1つの試合で魔力を使いきっても大丈夫。
そのかわり、毎試合毎試合、自分も相手も全力で戦うことになる。
抽選により決定された予選ブロックの対戦相手。
1人目、魔法を使えない大剣と鋼の鎧を装備した戦士。
2人目、炎術を得意とする杖装備の炎術師。
3人目、風術と魔導術と炎術を扱う刀装備の魔導闘士。
で、あった。
私は、そんな短い説明しか思いつかないほどに、あっさりと彼らを撃破していった。
この予選で私が気になっているのは、私の対戦相手のことではない。
試合が終わるや否や、私はノムの待つ闘技場の観客席へ向かった。
*****
「ノムー、どうだった?」
「うん、エレナに言われたとおり、ちゃんと見てた。
知ってるかもしれないけど、エレナがチェックしてた人は全員、明日の本選に進んだ」
私が気になっていたのは、本選で戦うことになる強敵。
その戦闘スタイル。
事前に可能な限りの情報を得るため、ノムに試合の観戦をお願いしておいたのだ。
「うん。
一応、私も自分の試合の合間で見てたんだけど。
ノムの感想としてはどうだった?
誰が手ごわそう?」
「じゃあ、手ごわい人は後に残して、比較的に弱いと私が思う人から挙げていくね」
「よろしく」
「まずはアリウス。
弱い、と言っている訳ではない。
彼も前回に比べると格段に強くなってる。
もし、エレナとあたったら、本気で勝ちに来ると思う」
「そうだね」
「クールな顔しているけど。
実際、エレナに負けたのが相当悔しかったんじゃないかな」
「そうかな?」
「アリウスの戦闘スタイル。
特筆すべきは『ナイトリキッド』。
魔導の魔力で使い魔、のようなものを創造し操る、厄介な魔術。
がしかし残念ながら、アリウスの対戦相手が雑魚すぎて、今回ナイトリキッドは見れなかった。
私がアリウスの立場ならば、『本選まで力を温存できた』って言うかな」
「本当に残念だ」
「槍に魔導の魔力を収束する武具収束術技『エーテルショット』。
3戦とも、これがトドメの一撃となっている。
Bランクのときにエレナも一発喰っているし、特に要注意な攻撃」
「あれは痛かった」
「もう1点だけわかったことがある。
アリウスは炎術もそこそこいける。
つまりアリウスが使えるのは魔導術、風術、炎術の3つになる。
私のオーラサーチの結果からすると、残りの3属性は不得意だと思われる。
ただし、『不得意』であって、『使わない』ではないから注意して。
炎術と風術が使えると、広範囲で比較的攻撃力もある『バーストストーム』なども注意に入れないといけない。
炎術1つで、戦略は一気に増える」
「なるほど。
Bランクのときは、さほど炎術は使わなかったもんね」
Bランクトーナメントから3週間ほど。
たったそれだけの期間で、彼はどこまで強くなっているのか。
不安と期待が入り交じり、いびつな笑みが産み出された。
「次は、クレスト」
「ヴァンフリーブさんが、『あいつは魔術が甘い』って言ってたけど」
「その考えは危険。
ヴァンフリーブと比較すれば甘いのかもしれない。
しかし、彼は神聖術を使う。
光と封魔の合成術。
当然、光術と封魔術も使える。
魔術攻撃力も十分にある」
「厄介だね」
「もちろん、最も警戒すべきはその卓越した剣術。
通常の剣よりも少し大きめな白銀の剣は、十分な魔導加工が施された一級品。
剣だけの勝負ならば、エレナに100%勝ち目はない。
必然的に遠距離、中距離からの魔術戦に持ち込むことになる。
相手は常に間合いを詰めてくる。
敏捷性はエレナに分があるから、どれだけ間合いを確保できるかが鍵になる」
「なるほど」
「ここで厄介になるのが相手の神聖術。
剣と神聖術の武具収束術技、『神聖十字斬り』。
単純な物理攻撃では実現できない射程と威力を兼ね備える。
この攻撃を見切れるかどうかが、勝負を分けるのかもしれない」
ここまで武術を極めた人物との戦闘は、私は初めて。
怖気づくような気持ちもあり。
私の魔術がどこまで通用するのか、試してみたい気持ちもあり。
「そして、ヴァンフリーブ。
正直、ここまで強いとは思わなかった。
しかも、かなり頭がキレる」
「ミーティアさんも、似たようなこと、言ってた気がする」
「剣も槍も持っていない、完全なる魔術師タイプ。
武器は腕輪。
この腕輪に魔力を収束、蓄積することで、高威力な魔術や流れるような連撃を実現する。
そして、彼は六属性全てを得意としている。
彼が予選で使用した魔術を列挙する。
1戦目は、炎術ハイバースト、ただ一発で試合が決まった。
2戦目は、牽制の光術レーザーを放った直後、風雷合成スパークウェイブの直撃で勝負有り。
3戦目は、魔導術エーテルスフィアとトライエーテルの連撃で追い込んだ後、封魔術ハイフリーズが炸裂した。
一方的に攻撃を繰り出し、三戦で一度も相手を近づけさせることはなかった。
対戦相手の実力から考えて、六属性全てを確認できたことが幸運と考えるべき」
「そうだね」
「ここからは想像でしかないけど、扱える魔術の種類はエレナよりも多いと思われる。
攻撃前に魔術種別を予測することが非常に難しい。
全属性強力。
軽視できる属性はない。
あえて言うなら、2戦目で使用した『スパークウェイブ』にポイントを置きたい。
ヴァンフリーブは相手の魔術防御力の低さを瞬時に見抜き、攻撃力はそこそこだけど攻撃範囲が広いスパークウェイブの魔術を選択した。
これは敏捷性が高い代わりに魔術防御力が比較的低いエレナに対しても有効となる。
その他、広範囲攻撃である『ハイウィンド』、『バーストストーム』も使えるはずだから、常に注意が必要となる」
魔力で圧倒されてしまうと、避けられない低威力広範囲攻撃でも体力を削れてしまう。
まさに、ノムの言うとおりだ。
「昨日と今日の試合で見せた術。
それ以外、それ以上の術も使えるはず。
読めないところが多い」
「わたしじゃ勝てない?」
「でも。
私はエレナのことも読めない。
エレナはいつも、私の予想を越えてくる。
だからこそ、彼との試合を見てみたい。
そして。
エレナが、勝つところを見たい」
「まあ一応、優勝するつもりだからねー」
笑顔に笑顔。
一瞬緩んだ雰囲気。
それは、すぐに引き締まることとなる。
「でも・・・。
今回のトーナメント、一番の強敵は他にいる」
ノムの表情が一段と険しいものに変わる。
その理由は、私にも、既にわかっている。
私も今日、その人物の戦いを見ていたからだ。
「エレナが優勝するために、倒す必要のある人物」
「セリス。
まさか、この数日であんなに強くなってたなんて。
魔力量が、増えていた。
というよりも・・・」
「あのときは本気ではなかった、ってこと、かもしれないの」
「セリスの体中に存在する魔力が、より効率よく引き出されている、とか」
昨日と今日の彼女の戦いを脳内リプレイする。
3試合ともに、たった一発の雷撃で終わってしまった。
そんな彼女は一瞬の笑みも見せず。
勝利の瞬間も、無表情のまま。
彼女は何を思い、何を抱えているのだろうか。
「でも・・・。
このままだとセリス、危ない気がする。
無理してる気がするんだよね」
「かも、しれない」
改めて、過去の彼女に思いを馳せる。
あのときの、死んでしまったかのような彼女の瞳。
それが、私の脳内に強く焼きついている。
「エレナ、無茶したらだめだからね」
「わかってる」
「エレナの、『わかってる』、は信用できない。
エレナがセリスのこと、気になるのはわかるけど。
私は、エレナが・・・」
「まー、とにかく今日は宿に帰って明日の予行練習。
イメージトレーニングでもしようかなー。
誰にあたってもいいように、さっ!」
ノムの言葉を途中で遮り、明るく振舞う。
もう引き返すつもりはない。
誰が相手になろうとも。
全てを退ける。
*****




