Chapter21 【魔術補足】死霊術
今日はノムと一緒に、エルノアが泊まっている宿屋に来ました。
ノムがどうしてもエルノアと直接話をしたいと言ったためだ。
「エルノア、悪いけど。
あまりにも『酷い』魔術師だったら、私達は逃げるから」
「もちろんわかってます。
あなた達が死んで、私のせいにされるのも嫌なので。
あなた達が逃げる道くらいは、ちゃんと作りますよ」
「ありがとうございます。
でも、相手はどんな魔術師なの?」
「わからないわ。
わかるのは、『いる』、っていう感覚だけ。
あと、危険な感じがします」
未知は恐怖。
しかも、私よりも上位の魔術師が、ここまで明確に『わからない』と言う。
少しでもいいから情報を。
不安感を希釈するために。
「死霊術師って、どんな魔術を使ってくるのかな?」
「そうですね。
では、まず『死霊術』について簡単に説明しましょうか」
「よろしくお願いします」
「まずはじめに、『闇魔術』と『黒魔術』の違いはわかる?」
「闇魔術はマリーベル教会の退魔師団の幹部が定める禁止された魔術。
黒魔術は悪しき思想を持った魔術師の残留魔力を用いて実現する魔術だよね」
「闇魔術は正解ですが、黒魔術は違いますね。
黒魔術は、収束する魔力の種別は関係なく、魔力中の従属情報を書き換えないで収束するという、『強制従属』という収束法で実現される魔術のことです。
だから黒魔力だからといって、その元の持ち主が悪い魔術師、という訳ではないです。
残留魔力は強制従属することが、そうでない魔力に比べて簡単だというだけ」
「そうなのかー」
「次に死霊術ですが、これも闇魔術と同じで定義は教会が定めています。
死霊術は大きく分けると2つに分類できます。
1つ目は残留魔力に着目するもの。
2つ目は死体自体に着目するものです。
前者で有名ものは『死者会話』、つまり死者と会話するというものです」
「そんなことができるの!?」
「残留魔力には生前の術者の思念が情報として含まれます。
この情報を読み取ることができれば、それは『死者の情報を聞き取ることができた』、ということになります。
だだし、この情報は非常に微弱なうえ、その情報を読み取るには高度で繊細な魔力制御、感知の技術が必要です。
つまり難しい」
「うーん」
「そこで、通例、2択の質問形式で行います。
術者は質問を用意し、その回答を残留魔力から感じ取ります。
イエスかノーか、どちらを強く感じたか。
それで会話が成立します」
「でもそれって・・・。
エルモアの勘違いだったりするんじゃないの。
回答を感じ取ったって言っても、なんとなく、でしょ」
「確かに普通の人から見れば、占いみたいなもので、信憑性が心許ないですね。
つまり、私をどれだけ信用するか、という話になります」
「正直、あんまり信用できないです」
「私は、他の死霊術師に比べると、残留思念感知は得意なんですけどね」
魔力に残された意志。
そんなものは、今まで魔術を使ってきて感じたことはない。
死者会話。
それは限られた者のみが使用できる特殊技能なのだ。
「そして、次に死体自身を用いる魔術です。
これは死体を操る術、『死体操作術』が有名です。
腐敗した肉体を持つ場合がグール、骨だけの場合はスケルトンと呼称されます。
スケルトンよりグールのほうがより詳細な操作が可能です。
操作は術者が遠隔操作することが基本ですが、残留魔力の持つ攻撃意志を利用し、自律的に動かすという方法もあります。
これは強制的にウィスプやレイスを造っていることと同じですね」
「世界征服するには便利そうですね。
ちなみに、生きた人間は操作できないの?」
「人間の体は封魔属性の防壁に守られていますので、それが操作用の魔力をはじいてくれます。
しかし死んでしまうと、その防壁は霧散消滅するので、操作が可能になります」
「なるほど」
「まあ、あまりにも魔力差が大きい場合は生きたまま操作できますけどね」
「さようですか」
「最後に1つだけ注意があります」
「はい」
「絶対に真似をしないでください!」
「しません!」
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