Chapter20 古代魔術 (1)
月の従者、エステル。
雪の従者、ユキ。
雪の女王、リレス。
鋼の傭兵、ノルド。
闇の従者、ティリス。
フラリウス族のビット。
元帝国兵の小物、アーヴァイン。
遺跡荒らしの小悪党、クレア。
あの日、たった一人でアルトリア城を発った自分に、今はこんなにも仲間がいる。
だからこそ今、目の前にいる炎の破壊神、華の女王シルヴィアにも、恐れることなく対峙することができる。
彼女と過ごした幼少期の記憶が思い出される。
あの頃の彼女は、もっと純粋で。
小さな花を愛でる少女であった。
その、彼女を取り戻す。
それが。
俺に課せられた宿命だ!
「シルヴィア!
正気を取り戻せ!
俺を!
思い出せ!!」
彼女の中にも存在するはずの共有してきた記憶の数々。
それらを呼び起こさせる、俺は大声で叫んだ。
彼女は俺をまっすぐに見つめる。
雪月華の聖霊に自ずから飲み込まれ、ただ力のみを求める破壊神と化した彼女。
しかし、俺達2人の間にある絆は、そんなものを超越する。
きっと。
届くはずだ。
ゆっくりと。
彼女は、俺に近づいてくる。
そして。
炎を纏わせたその拳で、俺の顔面を思いっきりぶん殴った。
吹っ飛ばされた俺。
黒煙を上げながら、硬い地面に叩きつけられ。
鈍い悲鳴と唾が口から放出された。
そして、気づいた。
ああ。
そうだ。
こいつは、昔っから。
人の話なんか、聞いちゃいないかった!!!!
「おらっ!
クッソアマ!
ぶっ飛ばしてやる!」
「やばい、フランがキレた!」
過去最大の憤怒が脳内を支配して、俺の理性を焼き尽くす。
そして、俺と彼女は視線を交差させ。
開戦だ。
戦おう。
どちらかの、炎が尽きるまで。
*****
「読破~」
「何を?」
「三魔女の本」
3人の魔女が世界を統治した『三魔女時代』の歴史書。
華の都、アルトリア。
月の都、クレセンティア。
雪の僻地、ノースサイド。
3つの世界を巡るフラン達の冒険談も、黒幕と化した華の女王シルヴィアとの決戦で幕を閉じる。
「というか、まだ読んでたの?」
「2周目だし」
「2周目なの?」
「ノム、決めた。
私は月の従者、エステルになる!」
「がんばれがんばれ」
抑揚のない、超適当な返しをしてくるノム。
私の本気度はまったく伝わっていない。
「エステルは月術だけでなく、古今東西、あらゆる術を使えたらしい。
エレナはまだまだ、全然未熟。
そもそも、月術さえ使えない」
「ということでー、早速。
月術を勉強しようと思って、図書館から本を借りてきたんだー。
が、しかし。
難解で全く読めないのです。
そこでー。
ノムに翻訳してほしいんだけど」
「こんな本、あったんだ。
気づかなかった」
先生が食いついてきた。
先生クラスになると、図書館の全書籍のタイトル程度はインプットされているだろう。
その広大な情報網から、抜け出した魚であったようだ。
「読める?」
「半古代語、かな」
「半古代語?」
「『半古代語』っていうのは、マリーベルの時代から三魔女の時代くらいまでに使われていた言語。
マリーベルの時代よりも前に使われていた言語は『古代語』と呼ばれる。
三魔女の時代以降、魔石戦争時代あたりからの言語が『現代語』」
「そりゃー読めないわ」
「でも、実はそうでもない。
現代語は、半古代語が長い時間を経てだんだん変化したものなの。
だから、現代語と半古代語には共通していることがとても多い。
また半古代語も、古代語が変化してできたもの」
「古代語→半古代語→現代語、っていう流れだね」
「だから古代語を学習する前に、まず半古代語から始めるのが良い。
半古代語なら、私が教えられるから。
でも、古代語は難解すぎて、私では教えられない。
ちなみに、そんな古代語をも理解する女性が存在する。
さて、誰だったでしょうか?」
「誰だっけ?」
「エルノア」
「なるほど、そういえば!
エルノアが探してた死霊術の本。
あれ、古代語だったね」
「私も、いずれは解読できるようになりたいって思ってる。
現在、勉強中の身。
古代に書かれた魔術書には、現在は使われない、いわば『忘れ去られた魔術』の使用方法が記されている、こともある。
それらは、『古代魔術』と呼ばれる」
「古代魔術、かー」
「古代魔術、っていう言葉の定義は、かなり曖昧だけどね。
アークバーストなどの各属性の基本的な法陣魔術よりランクの高い魔術や、多属性合成での法陣魔術のことを古代魔術と呼ぶことが多い。
ちなみに、私の使える神聖魔術のグランドクロスも古代魔術にカテゴライズされる」
「さすが先生。
エインシェント・ウィザード、というわけですね」
「グランドクロスは、マリーベル教会の幹部ならみんな使えるけどね。
この魔法は、聖女マリーベルが創り出したとか、古代に使用させていたものをマリーベルが蘇らせたとか、複数の解釈がある」
「古代魔術って、他にもあるの?」
「最も有名なものは、魔導術と炎術の合成法陣魔術である『カオスフレア』。
続いて、『ユニヴァース』、『アブソリュートゼロ』。
でもこれらは実現方法が高度すぎて、使いこなせている人を見たことはない」
「月、雪の女王が使う最終奥義だよね」
「ユニヴァースは、封魔、光、雷の合成法陣魔術。
消滅系の最高位魔術。
発動すると、魔力が暴発し、効果範囲中の全対象が消滅する」
「月の女王クレセントって、普段は綺麗なお姉さんとして描写されているけど。
改めて、最強の魔女だと痛感させられるね。
そして、そのユニヴァースの詳細な使用方法が、この本に載ってるーっと」
「それはないから。
古代魔術の本なんて、そんじょそこらには落ちてない。
この書籍も、たぶん、月の一般的な構成員が記したものだと思う。
まあそれでも、たいへんレアなものだけどね」
そう言うと、ノムは月術の本をペラペラとめくり始めた。
半古代語で書かれたその本は、私には読めない。
先生に翻訳してもらって、後で教えてもらおう。
そんな下心を抱き、先生の読了を待機する。
先生のページめくりは徐々にゆっくりになり、そしてあるページでそれは止まった。
そこからしばらく、そのページに顔面を吸収された先生。
顔面を引き剥がすと、それは高速で私のほうに向いた。
「どした?」
「書いてる」
「何が?」
「ユニヴァースの使用方法、書いてる!」
「ほんと!?」
「でも、どうだろう?
私も半古代語を完全に読めるわけじゃないから。
それに記述も、少し曖昧な感じ、は、するけど」
珍しく取り乱す先生。
あたふたした顔もかわいいよ。
「なんて書いてる?」
「雷、光、そして純粋な封魔のエネルギーを法陣上に集める。
このとき各属性の魔力量を均等にすること。
また封魔のエネルギーが高純度であり、魔導のエネルギーを含まないこと。
その後、その3属性の魔導構成子を可能な限り細かく分解する。
ついで、細かく分解した小さな魔導構成子を3つ集めて、1つのペアを作る。
そして、そのペアを空間上の多くの点で同時に衝突させて魔力を爆発させる。
・・・。
そりゃ無理だぁ!」
「ノムが突っ込んだ!」
なんかテンションがおかしい先生。
両手を天に突き上げ、文字通りお手上げ状態なのでした。
「ノムでも使えなそう?」
「無理。
求められる制御が細かすぎる」
「そうなの」
「でもおかしい。
一般的な月の構成員は、『光』や『雷』という言葉は、あまり好んで使わない。
『月術』という属性の魔術と考えていたから。
二翼四元素での属性表現を用いるのは、魔石戦争時代あたりからなの」
「だからこれを書いた人は、月の構成員ではない、ってことだよね」
「逆、かも。
月の一般的な構成員でなく、もっと上位の幹部クラスの人物が書いた可能性がある。
ユニヴァースの使い方も詳細に書いてあるし。
たぶんこれを書いた人は、クレセントのユニヴァースを近くで見たことがあるのかもしれない」
「まあ、クレセント本人が書いたとは思えないし。
とすると、月の幹部?
といえば、フローリア。
あとは・・・。
もしかして、エステル?」
「分からない。
けど、ざっと読みの所感ですら、かなりの腕の魔術師が書いたと判断させられる。
エレナ。
先生権限として、この書籍の一時接収を要求します」
「翻訳、よろしくねー」
「ダメ。
エレナもそろそろ半古代語の勉強をすべき。
自力で頑張る。
人は機会を与えられないと、頭よくならない」
「ぐげぇ~」
その後、ノム先生から半古代語の辞書と半古代語で書かれた書籍を受け取る。
厳しい育成方針の再来。
そしてここから、かつてない悪戦苦闘の日々が始まるのでした。
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