Chapter19 特殊武器・特殊魔法 (3)
ついに到達した頂。
闘技場の最高ランク、A1。
自身の成長を確かめるため、私は今、その扉を叩く。
第一戦。
相手はうにょうにょと動く軟体モンスター、ウニ。
しかしその体は、黒っぽい金属質。
メタリックウニと呼ばれる、ウニの突然変異種だ。
鋼鉄の体に物理攻撃は効きづらく、柔軟性と堅牢性を兼ね備える相手に苦戦を強いられる。
しかし、私は炎術や雷術をメインに攻めていき、そして無事に撃破した。
第二戦。
相手はウィスプ系モンスターの最上位。
神聖の魔力の結晶である聖霊。
物理攻撃は無効。
相手の放つ神聖術の攻撃力は強烈。
しかし、こちらができることは決まっている。
『ウィスプ系モンスターの弱点属性は封魔術』という定石に乗っ取り、丁寧に回避と攻撃を繰り返す。
そして数発のハイフリーズを被弾させると、空間中に霧散した。
第三戦。
相手は手足顔のない死霊、レイス系モンスターのウォーロック。
なんと、封魔術を除いた5属性の魔術を自在に操る。
魔物とは思えない知能を持ち、シチュエーションに合わせて攻撃を変化させる。
立案した作戦は、『様子見』、『相手の魔術の全てを理解する』である。
立て続けに魔術が放たれる。
風術、トライウィンド。
光術、レーザー。
雷術、スパークスイープ。
炎術、マルチファイアブレッド。
魔導術、エーテルスフィア。
風術、ウィンドショット。
光術、レイスプレッド。
雷術、サンダー。
炎術、バーストスイープ。
魔導術、デモンシザーズ。
その全てを、体に覚えさせる。
遠距離、中距離、近距離、拡散、集中、全てに対応可能。
魔術のバリエーションも、その威力も、確かに高レベル。
しかし、人間の知能の方が勝っている。
垣間見られる攻撃の単調さ、少しの命中力の低さが勝機となる。
発動前に属性を予測。
魔術の発動タイミングを見計らう。
徐々に間合いを詰めていき。
そして、蒼の剣でその身を貫いた。
第四戦。
相手はデーモンの上位種、グレーターデーモン。
その知能は、先ほどのウォーロックを優に超える。
使用可能な魔術の属性は魔導、炎、風の3種。
しかし、こいつには鋭い爪での物理攻撃もある。
そして執拗なまでの攻撃性。
物理攻撃と魔術攻撃を織り交ぜながら、その攻撃の手を休めない。
相手が魔術の収束動作に入る。
オーラサーチ。
属性予測。
導き出された予測結果は、炎、風。
「バーストストームだ!」
その瞬間的な判断で回避を諦め、防御壁を構築する。
魔導防壁作成と封魔防壁増強の二重防御。
その壁の厚みが、相手の爆撃の影響を最小限に抑えた。
まさかの多属性合成魔術。
意外すぎて判断が遅れるところであった。
額に流れる冷や汗を拭い、相手を凝視する。
確かに、相手は強い。
しかし。
ただ1つ言えること。
『相手は、ミーティアよりも、アリウスよりも、セリスよりも弱い』、ということだ。
撃ち破ってきた強敵達が、私に自信を与えてくれる。
勇気を持って踏み出す一歩。
今度はこちらの攻撃だ。
相手は再び魔術の収束に入る。
その瞬間に光の魔力を収束開始。
最速で単点収束レイショットを発動し、相手の魔術発動を妨害する。
相手が怯んだ隙に、一気に間合いを詰める。
同時に蒼の剣に雷の魔力を収束することも忘れない。
相手は物理攻撃の構えを見せ、前へ踏み出した。
勝負!
先攻は私。
突撃してくる相手へ向けて、蒼の剣から雷槍を放つ。
相手は体をよじり、ギリギリでこれを回避。
モンスターとは思えない洗練された動き。
そして後攻。
相手の鋭い爪が襲ってくる。
攻撃を完全に避けるイメージがつかめない。
そして、相手の爪が脇腹に掠る。
襲ってくる鋭い痛み。
そんなものを感じない程の狂気的な集中。
戦闘という行為に取り付かれた私は、まったく怯まない。
体勢を崩す相手の頭を左手で鷲掴み。
そして、ゼロ距離からの雷槍をお見舞いした。
・・・
そして、第五戦。
闘技場制覇の最後の門番。
その名は、GXガーラント。
感じ取る、馴染みのある魔力。
シエル。
彼の操作する黒色のゴーレムだ。
試合開始直後から手加減なし、待ったなしの突撃。
流れるような連撃。
堅い守り、華麗な回避。
先日の戦いを超越する敏捷性、潤滑性、安定性、攻撃性、堅牢性。
完全に私が押されている。
相手の鉄拳が私に直撃すると、少しの時間だけ試合が中断される。
シエルによる配慮のようだが、Bランクトーナメント優勝で高まっていた自尊心が、メッコメコにされていくようだ。
ただ、そんな私もただサンドバックにされているだけではない。
今の私には密かな目標がある。
それは、『武具収束奥義を覚える』だ。
セリスの放ったオーバー・ヴォルト・ストライク。
これを、ラーニング(自分のものと)する。
今まで扱ってきた市販の武器では、耐久性、魔力蓄積性能の観点から実現できなかった武術の秘奥。
しかし、この蒼の剣を持ってすれば、それを実現できる。
そう確信していた。
まあ、さすがに今日一日で習得するのは無理だと思うが。
今度はシエルに実験台になっていただきますね。
ここまでの戦闘で受けた攻撃の痛みも、全力で動き回ったことによる体の疲労も、観客の大きな声援も。
全て忘れてしまいそうな。
そんな没入感。
時間を忘れて。
私は戦った。
ただひたすらに。
・・・。
そして、もう被弾させた魔術の数を数えることも諦めたころ。
黒い兵器はその動作を停止させる。
そして響きわたる、一段と大きな歓声。
勝利を告げるアナウンス。
その声たちを背中に受け。
私は闘技場を後にした。
*****
「セリス!」
闘技場から宿へ帰る途中。
赤色の長い美しい髪が風になびく様が目に入りると、私は深く考える前に、声をかけて引き止めていた。
「エレナ」
「いやー、あのー。
この間はどうも。
・・・。
今、少しお話しできます?」
「すまないが、忙しい」
煩わしそうにあしらう。
そんな彼女、お構いなしで話を続ける。
「『私の中に在る魔力、枷を外してあげる』。
そのあなたの言葉通り、現実が動きました。
中に在るのは『ナニモノ』ですか?」
「あなたには関係ない」
「私の知人が、言ってました。
強大な魔力を定着させることで、力を得る。
その反面、魔力が持つ莫大な情報に精神を支配されてしまうこともある」
「・・・」
「セリス。
あのとき、精神を飲まれていた。
詳細は知らずとも。
このまま、魔力を使役し続けるのは、危険だと思う」
「あなたに、心配してもらう必要はない」
「でも」
「消えて」
冷たさを持った言葉が、場を静まりかえさせる。
確かに、これは彼女の問題だ。
それがわかっていても、気にかけてしまう。
その理由は、はっきりとは、私にもわからない。
「それよりも、あなたは自分の心配をしたほうがいい」
「えっ?」
「この街から、去ったほうがいい。
・・・。
警告は、したから」
彼女の言葉を受けての思案で、脳以外の機能が一旦停止し。
彼女が背を向けて歩き出したことを認識するまでに時間を要する。
「セリス、待って!」
私の呼びかけに対し、彼女は一度も後ろを振り返ることなく。
遠ざかって行く彼女の背中を、ただ見つめることしかできなかった。




