Chapter19 特殊武器・特殊魔法 (1)
優勝はエレナ・レセンティア。
なんだかんだあれこれあったBランクトーナメントも無事に閉幕し、帰宿。
勝利からくる高揚感、疲労からくる睡眠欲。
それにも勝るのが、懐疑心。
「あの後、正気を、取り戻した、けど。
セリス・・・。
戦ってて感じたけど。
たぶん、あれは・・・。
魔力に意識を、奪われてた。
そんな、気がする」
「ありえない話、ではない」
観客席から見ていたノムも、私の推測に対して異存なし。
戦闘中、常に、何かしらの異質さを感じ続けていた。
「精神をトランス状態にして魔力を高める。
そういった類のもの、だと、最初は思ったけど。
最後は、完全に、意識を飲まれてた。
それは、相手をする側だけでなく、自己も危険な状態にする程。
・・・。
もしかして、『闇魔術』かな」
「それは、違う、気がする」
「もしくは、幻魔の介在。
私が紅玲を自身の体に定着させたように。
なんらかの魔力、幻魔が、セリスの中にも存在したのかな、って
そして、宿した幻魔の魔力が強大すぎて、制御しきれずに精神の操舵権を奪われた、とか」
「それは、ありえる。
召喚魔術で幻魔を使役しようとして、逆に精神を奪われたり。
そういった話を、聞いたことはある」
『私の中に在る魔力、枷を外してあげる』。
彼女の言葉が思い出される。
強大な魔力を宿す代償は、あまりにも大きかった、のかもしれない。
「危険を犯し、制限を外している、みたいな」
「その話、そっくり、エレナにお返しするの。
エレナも無茶しすぎ。
術師に抱きつくなんて、自殺行為。
無防備すぎる」
ほんのりと眉根にシワを蓄えて、ノムが顔を近づけて諭した。
反論なし。
自分でも、なぜあんな無茶を犯したのか。
冷静になった今現在の自分が、過去の自分を叱責する。
「いやー、なんか必死になっちゃて。
それにほらー、賞品もゲットしたしー!
『蓮華の腕輪』。
もらえるの、明日だけど」
ノム先生の心が煮えるのを避けようと、話題を変えてみる。
と思ったが、すでに先生の眉間のシワは、既に消えていた。
それほど怒ってはいなかったようです。
そのままの流れで、腕輪の話に移行する。
「『蓮華の腕輪』・・・。
これ、防具だよね」
「武器」
「投げて、攻撃、みたいな?」
「杖、みたいな」
「杖じゃないでしょ」
「腕輪に魔力を収束するの」
「腕、もげるって」
「なので、使いこなすのにテクニックが要る。
要訓練」
「うーん」
「さて、ここで問題です。
最初に腕輪を武器として使った歴史上の人物は、誰でしょうか?」
「わかりません」
「華の女王シルヴィア」
「あー、そっか!
そうだった!
腕輪だった」
「プレゼントしてもらったら、実際に使って、試してみるつもり」
「腕、もげないようにしてね」
プレゼントで怪我されるのとか嫌。
まあ、ノムならば大丈夫だろうが。
「そういえば!
優勝祝いに、ミーティアさんがご馳走してくれるんだって。
いまから!
せっかくだし、ノムも一緒に行こうよ!」
「じゃー、行く」
*****
行きつけの酒場にやってきた、エレナ&ノム。
既にビールを1人で飲み始めているミーティアを発見。
ジョッキを天に掲げて、居場所をアピールしてくれる。
私達もとりあえずビール。
それが到着した上で、祝勝会(割り勘)が始まった。
『ご馳走する』、じゃなかったのかよ。
「でも、びっくりしたー。
エレナ、いきなりセリスに抱きつくんだもん」
「いやー、いろいろあって」
「あれさー。
エレナがセリスに抱きついて、全身の骨を折って倒したってことになってたよ」
「まじですか!」
「冗談だけどね~」
危うく『エレナちゃん・マジ・マッチョ説』が流行するところであった。
心象風景を美化したいのです。
人気が欲しいもので。
ミーティアの人気者っぷりを見て、改めてそう思ったのだ。
「でも、ミーティアさん、すごい人気ですよね。
歓声がすごかったですもん。
私、なんか文句言われたし」
「そーかなー。
トーナメントエントリーは久しぶりだったしなー」
「ミーティアは、かなり人気あるぜ。
『闘技場の舞姫』とか、持て囃されてたもんな」
「おー、イモルタ」
武具店店主イモルタが、ミーティアの隣に座ってきた。
ミーティアは気にした様子なし。
ニヘラニヘラとしたまま、彼を見向きもせず、ビールを追加注文した。
どうやらこの2人、年の差の割りに仲がよいらしい。
呼び捨てだし。
「おっさんも飲みに来たんすか」
「この店は、お前らより俺のほうがよっぽど常連だ」
おっさんは居座る気まんまんのようで。
ミーティアの注文に続けて、モゲラのから揚げを追加した。
「ミーティアは闘技場の華だからな。
闘技場に通う輩で、知らない奴はいない。
Bランクトーナメントでも、何回か優勝している。
舞うようにレイブレードを振るい、華を散らすように光術を乱射する。
その優美な戦闘スタイルも、こいつの人気を加速させる要因だ」
「うんうん、苦しゅうない」
おっさんのべた褒めに、まんざらでもないミーティア。
何?
おっさん、ミーティアの追っかけなの?
ファンなの?
それとも、持ち上げるだけ持ち上げといて、から揚げおごらせるつもりなの?
その答えを見定めんとイモルタを見つめていると、彼とぴったりと視線が合う。
そして話題の矛先が私に向いた。
「つーか、お前。
いつの間に法陣魔術なんて覚えたんだよ」
「そーそー、思った」
「ノムに教えてもらったんで」
「ノム、そんなに強いんだ」
「こいつは強えーぞ。
鬼だ」
「こんなにかわいいのに」
ミーティアはノムを覗き込むように観察する。
まあ、ノムは本当にかわいいから、仕方ないね。
「ノム、トーナメントには出ないの?
今度のAランクトーナメントとかさ。
相手してみたい」
「死にますよ」
速攻で忠告。
この時点でミーティアがノムの真の実力に気づいているか、それは判断できない。
冗談かもしれない。
もしくは、頭がおかしいのかもしれない。
「おっ、いた!
エレナちゃーーーん」
若い男性の声。
名前に対して条件反射で振り向くと、見知った白衣のお兄さん。
「今日、すごいよかったよー、エレナちゃん」
「アシュターさん、どうもです」
白衣のアシュター。
そして、その後ろには、眼鏡のフレバス氏。
どうやら、ミーティアが声をかけていたらしい。
「シエル君はー!?」
「『ミーティアがいるから行きたくない』、だそうです」
「ぶー」
期待に満ちた満面の笑顔が、渋いしかめっ面に変わる。
すごい顔面落差。
『やってらんねぇ』とでも言わんばかりに酒をあおりだしたミーティア。
ヤケ酒、いくない。
「エレナちゃん、隣座ってもいい?」
「えっ?
はい、いいですけど」
「おっし」
隣に座ってきたアシュター。
彼の顔や衣服などをより詳細に観察しようとしたとき。
見つめた彼、その先にある酒場の入り口。
そこに立つ1人の男性に、私の視線は釘付けになった。
「ごめん、ちょっと外出てきます!」
「どうした、エレナ?」
「いや、ちょっと。
ごめんなさい、すぐ戻ります」
不思議な顔をしたノム、およびその他の面々にお詫びをし、私は酒場の外に出た。
*****
「アリウス!
どうしたんですか?」
そこにいたのは、アリウス・ゼスト。
私の法陣魔術を受けて沈んだ彼。
そのダメージも、かなり回復している印象。
しかし。
彼が、何故ここに?
「話がある」
「治療代払え、とかっすか」
私の冗談に対し、少しばかりの笑みを見せてくれた彼。
しかし、それは、すぐに消える。
「エルノアからの伝言だ」
「はい」
「この街に、死霊術師が入り込んだ可能性がある」
無言の驚愕。
その瞬間、一気に酔いが覚める。
本日、セリス戦後に感じた、何の理由も理屈もない漠然とした不安。
それが、現実のものとなってしまった。
「もちろん、『エルノア以外の』、だ。
ただ、まあ、今のところは目立った動きはみられないが。
『注意するように』、とのことだ」
「そう、っすか」
「すまないな、楽しんでいるところ。
どうしようかと思ったのだが。
できるだけ早く知らせたほうがいいと思ってな」
「いやいや、ありがとうございます。
助かります」
あのエルノアが注意勧告するレベルの魔術師。
巡らされた様々な憶測が、私の精神をジワジワとすり減らした。
「セリス。
あの戦い方から、俺は、何かを感じた。
もしかすると・・・」
私をまっすぐに見つめ、彼が告げる。
「関係ない、とも言い切れない、ってことですか」
「わからん。
とにかく、ノムにも伝えておいてくれ」
「わかりました。
ありがとう。
アリウスも気をつけて」
「ああ」
*****
「ノムー、どこ出身~?」
「なんでタコが嫌いなんだ?」
「その杖、とても良いものですね。
なんていう杖なのですか?」
「エレナちゃんってー、何が好きなの?」
「いや、あの、えーっと・・・。
むーーーーーーーん」
酒場の席に戻ってきたエレナが見たものは、質問攻めにされるノム先生。
日頃ない困惑した様子の彼女、超新鮮。
かわいいかわいい、という思考を巡らせながら、遠目からその様子を微笑ましく見つめる。
なごむわー。
アリウスの話。
明日でいいか。
*****




