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Chapter18 武具収束奥義 (7)

 脚線美、からの、くびれた胴、膨らみ、美貌。

 無駄なものが排除された彼女の体躯。

 そこから、無際限に生み出され続ける雷。

 並みの魔術師ならば、既に魔力切れになっているはず。

 無限の魔力。

 そう例えても遜色ない、彼女の連撃。


 雷のコアを彼女の前方空間、横一列に5つ生成し、雷の槍を連続放出するマルチサンダーランス。

 私の頭上、天に魔力を収束し、それを地に落とす雷撃、六点収束、ハイサンダー。

 遠距離不利の判断を持って私が距離を詰めると、雷の魔力を拡散放出するヘヴィスイープで引き離される。

 これらの攻撃、全て、一撃必殺。


 一方、私の俊敏性は前2試合を終え、さらに高まっていた。

 雷を回避しながら、収束が速くて射程が長い、レイショット、トライエーテルの魔術や、ウィンドショット、サンダーランスの術技で応戦。

 魔力量と攻撃力では圧倒的に負けている。

 しかし、全属性の魔術を使える点が理由となり、戦術の幅の広さに関しては私に軍配が上がる。


「実力は互角くらい、かな?」


 本戦、初めて笑みが生まれる。

 視線が合うも、精神攻撃は相手に通じず。

 彼女の精神は、終始、凪いでいた。






*****






 様子見の攻防が数分続いたところで、相手の手が止まる。

 それが静寂の引き金となって。

 闘技場全体が、彼女の思考を追いかける。

 それは当然、私も同じ。


 推測。


 戦術が変わる。

 

 彼女から漏れる、流れ出す魔力に、細心の注意を払う。

 第六感を主として、その他五感も合わせて研ぎ澄ました。


「仕方、ないか」


 聴覚が、彼女の呼吸のような(つぶや)きを拾う。

 視覚で、彼女が深く呼吸をする様を認識する。

 味覚が、生唾の味を教えてくれる。

 この情報邪魔。


 そして、彼女は瞳を閉じた。

 そこはかとない、毛羽立つ感覚。

 やばい・・・、感じがする。


「私の中に在る魔力。

 (かせ)を外してあげる。

 存分に、力を示しなさい!」


「なっ!!」


 瞬間!

 溢れ出す雷の魔力!

 青い稲妻。

 彼女から全周囲に乱雑に放出され、炸裂音を撒き散らす。

 トリハダスゴイ!

 これは、やばい!!


「これで終わらせる!」


 防衛本能が過去最大級の警鐘を鳴らす。

 彼女の雷斧(らいふ)に、魔力が集まる。

 急速に、際限なく。

 

<<バチバチバチバチババチッ>>


 凶撃が、私に向けられる。

 極太の雷槍(らいそう)が空間を貫く。

 収束開始から、放出完了までの時間が短すぎる。

 これではおそらく、私の体は、脳からの命令を完全には受理できない。

 そんな思考が生まれる中、私の体は既に大地を蹴っていた。

 反射反応による、サイドステップ。

 『軽く回避しただけだと避けきれない』。

 防衛本能が無意識で生み出した予測が的中し、私は命をつなぐ。

 気を抜いた瞬間に()られる。

 安心は死。

 逃げる私を追いかけるように、雷槍(らいそう)が止め処なく放たれる。

 先程までの彼女の攻撃とは比較にならないネチッこさ。

 一撃必殺なのは同様。


 ここでやっと、違和感の正体の解明が開始される。

 セリスの魔力が上がった!?

 ノムみたいに、魔力を、オーラセーブで隠してた、のか?

 でも、この感覚は、ノムのソレとは異なる。

 その感覚に、明確なラベル付けができないまま、私は青の暴龍を相手に逃げ回る。


 しかし。

 私のスバシッコサが想定以上であったことを理解した彼女は。

 決めに来る。


「死になさい!」


「来る!!」


 今度は上からだ!

 第六感は、実にいい仕事をする。

 私の上方空間に収束された18個のコアが、6個単位で即合成され、即1発打ち落とされる。

 間髪入れず、残り2発。

 ハイサンダー。

 しかも、連続放出かよ!


<<ババババババチバチババババチババババババババババババチバババッ!!>>


 もはや反則級チート

 重いのに、速い。

 戦略的思考がまとまらない。

 今の私は、逃げることしかできない。


 ・・・。


 ・・・。


 逃げることしか、できないのだが。

 逃げれている。

 私が奥底に秘めていた回避能力、敏捷性は、私自身の想像を超えてきた。

 やりゃ、できんじゃん!


 それでも。

 どれだけ雷槍、雷撃を放っても。

 セリスの攻撃は衰えることなく。


「むしろ、徐々に威力が、上がってるんじゃ、ないかい」


 恐怖を興奮で上書きする。

 このタイミングで訪れた、一瞬の静寂。

 瞳の先に映る。

 相対する、美しい彼女の瞳。

 そこに反射する光は。


「消えろ」


 その小さな(つぶや)きに合わせ、消え失せた。






*****






「はぁ・・・、はぁ・・・」

 

 息が切れ、体が重い。


 あれから、何分経過しただろうか。

 時間を知覚する余裕はなく。

 ただひたすら。

 『避ける』という行為のみを。

 それでも。

 止む気配のない連撃。

 かつ、その威力は、単調増加。


 ・・・。


 さて。

 では、なぜ、私は。

 現時点で、まだこの場所に立っていられるのでしょうか?


 ・・・。


 その答えは、感じ続けている違和感の中にある。


 何か・・・。

 何かがおかしい。


<<ババババババチバチババババチバ!!>>


 必殺の雷槍が飛来。

 私はそれをサイドステップで回避。

 雷槍が放出された直後に蹴り出せば、問題なく避けられる。

 絶対に直撃を受けることはない。

 そんな。

 数mgの余裕が、問いの答えを導き出す程度の脳の回転を生んだ。

 

「命中率が下がってるね」


 単調増加の攻撃力に反比例し、命中精度が明らかに下がっていた。

 攻撃が単調になり、回避行動に余裕が出てきた。

 また、攻撃が私から反れることも多くなり。

 それも、それで、違和感であり。

 改めて。

 攻撃の起点である彼女を見つめる。


 様子が・・・、おかしい?


 焦点が定まっていない瞳。

 それは、まるで。

 雷斧(らいふ)を振り続けるだけの操り人形。


 意識が・・・、無い?


「セリス!!」


 名前を叫ぶ。

 しかし、彼女は寸分も反応を示さなかった。  

 ここから導き出される結論。


 『大いなる魔力は、術者自身を飲み込む』。

 その教訓、そのものだ。


 その教訓が。

 過去の記憶を呼び覚まして・・・。

 そして。

 私は。


「セリス!!」


 地を蹴って、飛び出す。

 ここまでの観測で、粗くなった彼女の攻撃は、大方見切っている。


 機械的に飛んでくる雷槍、雷撃に丁寧な対応をしながら、彼女との距離を詰めて行く。

 私の侵攻を受けても、彼女の表情は変わらない。

 しかし、攻撃は激化。

 彼女の防衛本能がそうさせるのか。

 はたまた、何かしらの導きか。

 アンチエレナなのか。

 それは、わからないけれど。


「セリス!

 正気を取り戻して!」


 もう、彼女の目の前。

 しかし。

 近距離から放った言葉すらも、奪い去られた彼女の精神は拾い上げてはくれなかった。


「け・・・、す・・・」


 消え去るような声。

 まるで彼女という人格も、一緒に消えてしまいそうな。

 そんな儚い感覚は。

 私の。

 心の奥に、強く突き刺さった!


 だから!


<<ババババババチバチババババチババババババババババババババヂヂ!!>>


「ぐっ!!」


 至近距離からの雷槍が、私の胴を(かす)める。

 しかし、退かない。

 至近距離まで近づいた。

 そんな私に次に向けられる攻撃は。

 ヘヴィスイープ。

 そんなことは、既に、わかっている。


<<ババババババチバチババババチババババババババババババババヂヂ!!>>


 雷が拡散放出される。

 と、同時に。

 風術エリアルステップを利用して強く大地を蹴り、大きく前方に飛翔し、これを回避。

 そして。

 そのまま。


<<ぎゅっ>>


 飛びついて。

 彼女を、力いっぱい抱きしめた。


「セリス、落ち着いて」


「・・・け・・・、・・・す・・・」


「大丈夫・・・だから」


 私の言葉が聞こえたのか、そうでないかはわからない。

 しかし彼女は、私に体を預け。

 気絶した。


 相対的に冷たい。

 少しでも、私の体温が、あなたに移行すれば。

 まだまだ熟練度の低い私の回復魔法が、少しでも足しになれば。

 彼女の心拍が、私の体を振動させる感覚を知覚する。

 たぶん、たぶん、大丈夫だろう。

 不安、安心、そして、再び不安へ。

 得体の知れない、何かを感じる。

 それは、これから起こる出来事を、暗示しているのかもしれない。


 その何かを見定めんと。

 私は静まりかえった闘技場の入場門、その先の暗闇を、まっすぐと見つめた。

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