Chapter3 【魔術補足】 コア、収束法
「エレナ、今時間ある?」
「どしたの?」
「魔力の収束に関して補足しておこうと思って」
「あー、うん。
じゃあお願い」
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「魔術を発動する前、魔力は術者の体内に存在する。
そしてそれは、プレエーテルとなって体外に排出される」
「うん」
「術者は、排出されたプレエーテルを、空間中の1点を中心として集める」
このとき、魔力が集まる、その中心をコア、もしくは核と呼ぶ」
「コア、ね」
「次に、収束時のスタイル、収束法について。
エレナの現状の魔力の収束法は『前方掌収束』。
前に突き出した掌の前にコアを作る」
「旅の途中でノムに教えてもらった収束方法だよね」
「これは最も単純な収束のスタイル。
これ以外にも様々な収束法が存在する。
例えば・・・
掌を寝かせてその上に魔力を乗せるように収束する『上方掌収束』。
指先に魔力を集める『指収束』。
両手を使う『双掌収束』。
手を交差させる『交差収束』。
手を胸の辺りに持ってきて祈るようにする『祈祷収束』。
などなど、いろいろな収束法がある」
「ノムはどの収束法を使ってるの?」
「いろいろな収束法を使い分けている。
魔術の種類によって適する収束法があるから。
ただ、今までの例は武具を用いずに収束する場合の話。
私は基本的には杖を使って魔術を発動するから。
杖やその他の武具を使う場合は、収束法が違ってくる」
「武具を使う?」
「現状、エレナは槍を武器として使ってるけど、魔法は武器を持っていない方の手の掌に収束させている。
一方、私は杖に収束させている」
「杖に収束・・・」
「杖の利点の1つは、コアを作る手助けをしてくれること。
コアを素早く構築できれば、それは魔術発動スピードが速くなるということ。
初心者のうちは、このコアの元、種火、シードと呼ばれるけど、これを構築することに苦労する。
シードさせ構築できれば、そこからの魔力収束は比較的スムーズにいく。
エレナ。
私の杖の先には、宝石がついてるよね」
「うんうん」
「杖に付加される、こんなような宝石、鉱石も、同様にコアとか核って呼ぶんだけど。
この杖のコアの中で魔力のコアを作ることで、より効率的にコアを生成することができるの。
この杖は特に性能がいいから、杖を使うのと使わないのでは、収束スピード、威力、消費魔力が全然違う」
「でもさー。
杖のコア部分に、重ねて魔力のコアを作るんだよね?
ということは、例えば火の玉を作る魔法を使うときは、杖の長さ以上の火の玉を作ると手が燃えちゃうよね」
「その考えは誤り。
魔術発動時に難しいのは、コアの種火を作ること。
だから、その種火だけ杖の核で作るの。
その後に、杖のコアか魔法のコアを動かして2つを離した後、魔力のコア、エレナの例でいうと火の玉を大きくしていく」
「うーん、なるほど。
でも、杖のコアの中で火の玉の火種を作るんだから、その火種で杖が燃えて劣化しちゃうんじゃないのかな」
「杖のコア内部で魔力のコアを生成する段階では、まだ攻撃エネルギーの状態でなく『プレエーテル』の状態なの。
だから大丈夫」
「そっか。
コアの段階ではまだプレエーテルだから、まだエネルギーを持たないのか」
「厳密にはちょっとちがう。
エネルギーは持つの。
攻撃可能ではないエネルギーを持つ。
プレエーテルの状態では魔力が希薄だから、という意見もあるけど、
私の考えでは前者が正しい」
「うーん。
わかったけど、不思議だ」
「不思議と感じるのは私も同じ」
「なんか、だんだん杖が欲しくなってきました」
「次は杖以外の武具を使う場合の話。
斧や槍などの武器の場合は、『集める』よりも『流す』というイメージのほうが強い」
「魔力を流す・・・。
・・・武器にだよね」
「特に品質の高い武器の場合は、体内から武器伝いに流した魔力が、武器の先端、攻撃部位に溜まるようにできている。
ただ残念ながら、今エレナが所持している武器は安価なものだから、自分で制御しないといけない」
「武器に魔力を流したことさえないですが」
「なので斧や槍の場合は『流して集める』が基本。
あーでも。
やっぱり今は流したらダメ。
武器が劣化するから。
最悪、壊れて使えなくなる」
「どうやったら壊れなくなるの?」
「武器なしでの収束、制御、放出の反復練習を繰り返す」
「おー!
つまり今やってることなんだね」
「そのとおり。
話はここまでだから、さっそく闘技場に行って練習してきたら?」
「よっし!
行ってきます!」
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