Chapter18 武具収束奥義 (5)
【** アリウス視点 **】
真っ二つに折れたはずの槍。
それは、蒼穹の剣に姿を変えていた。
その事実から思い起こされる考察は全て、自分に不利なものである。
先ほどのミーティア戦、終了後。
たった一時間以下のその時間で。
少女エレナは、戦闘能力を格段に向上させてきた。
重量のある槍により抑制された敏捷性がその枷を外して捨て、かつ、彼女お得意の雷槍の射程と実現速度は、下がるどころが上がっていると予想される。
今は、少しでも、情報が欲しい。
試合開始が告げられるも、俺とエレナは一歩も動かずの静観。
『まずは相手の出方を伺う』という戦術が一致した結果だ。
初手。
魔力収束を開始。
牽制の三点収束風術。
様子見の一発。
緑色の魔力球が完成、即放出。
風の刃は、すぐに彼女まで届く。
と同時に、同等威力の風が発生し、俺の牽制攻撃はかき消された。
『威力の低い術なら、相殺される』。
次。
紫色のコアが先端に付加された槍。
右手に掴んだその槍に魔力を流し、コアに蓄積していく。
ついで、蓄積した魔力を分割し、空間中に6つのコアを配置。
即、合成。
即、放出。
6点収束魔導術、デモンシザーズ。
鋭利な紫の翼にて、彼女を切り裂かんと試みる。
しかし、彼女は横方向に大きくステップし、これを回避。
すぐに、次撃に備え体制を整える。
生まれる考察。
『回避動作開始が速すぎる』。
おそらく、魔術収束開始のタイミングで、既に彼女は攻撃属性を推測していたと思われる。
先の風術の場合も同様。
属性を先読みし、対応策を余裕持って絞り込む。
相手の魔術を察知する『オーラサーチ』の能力。
その点において、彼女は俺の上を行く。
ならば・・・。
次。
『避けれない攻撃』、ならば、どう対応する?
その疑問を解くべく、俺は魔力収束を開始。
槍は使わず。
空間に直接魔力を集める。
炎。
炎。
そして、風。
3コア同時生成。
そして、合成。
炎炎風、三点収束バーストストーム。
橙、黄色側に少し寄った、赤色のコア。
今回は、即放出せず。
相手に見せつけるように空中に浮かべる。
バーストストームの攻撃範囲の広さは、彼女も知っているはず。
敏捷性の高い彼女でも、回避は不可能。
防御を選択するにしても、被害をゼロには抑えられない。
いくぞ!
心の中で叫び、魔力球を放出。
予定通り、空間中を突っ切って飛び。
予定通り、エレナを圏内に含んだ位置で爆発した。
爆煙が空間を埋め、エレナを視覚確認できない。
左右に避けたようには感じない。
防御動作を取った。
その予測を持ち、爆炎が収まるのを待つ。
瞬間!
爆煙の中から、真っ直ぐ、こちらに向かって何かが飛び出してきた。
距離が一気に縮まる。
エレナ!
考察。
彼女は、魔術が発動された時点で、その爆発が処理可能なレベルであると判断し、その爆発に、自分から飛び込んだ。
狂っているとしか思えない。
そんな、無駄な思考が邪魔をして、次の動作の意思決定が定まらない。
そのまま、間合いが完全に縮まり。
彼女は、武器。
それを持っていない、逆、左手から、雷の魔力を拡散放出する。
反射的に後方にステップした俺。
雷術は回避成功。
今の魔術は、『ライトスイープ』。
雷術師が、牽制用途としてよく使用するその魔術。
『牽制用途』。
ならば、次は。
本命の攻撃が、やってくる。
雷槍だ!
青の剣には、既に十分量の魔力が収束完了の状態。
俺が雷に貫かれる映像が、俺の脳内に浮かぶ。
バックステップ直後。
まだ、体は、大きくは動かせない。
回避は、間に合わない。
そんな僅かな思考が、結論を絞り出す。
俺は可能な限り、風の魔力を集める。
エレナが槍を引き。
突き出す。
雷槍、その発射のタイミング。
風術発動。
風の補助を利用し、大きく上空へ飛躍した。
次の瞬間には。
跳躍した俺の下を、雷槍、および彼女自身が通過していく。
その様を空中で眺め。
着地。
それは、想像以上にうまくいき。
即。
そのまま前方に数回ステップし、彼女との間合いを広く取った。
・・・
観客の歓声に気を配れるようになった時点で、相手と視線が合う。
彼女は『しくじったか』と言わんばかりの、苦い笑みを浮かべていた。
意図的な大きな呼吸を行うと、冷静さが返ってくる。
様子見をしている余裕はない。
最初から、全力でいかなければ。
殺られる。
それが、よくわかった。
ならば。
次。
その魔法を、見せるしかない。
*****
【** エレナ視点 **】
『しくじったか』。
雷槍を避けるならば、左か、右か、後方か。
その3択で考えていたが。
まさか、上に飛ばれるとは。
アリウスの敏捷性は、並。
その平凡さを、風術でカバーしてきた。
自身の身体運動を風術で補助する、エリアルステップの魔術。
彼が魔導術だけでなく、風術も得意であることが功を奏した形。
もし、彼が得意とする属性が魔導術のみであったなら、先ほどの雷槍一撃で終わっていた。
得意属性が多いということは、攻撃のバリエーションだけでなく、防御、回避のバリエーションも増補してくれる。
「ふぅ・・・。
そー簡単にはー、いかないよねー」
息を大目に吐いたのち。
さて、アリウス。
次は、どう出る?
彼の一挙手一投足に注意を払い、かつ合わせて、魔力の動きにも注意を払う。
そして。
先に情報を拾ったのは第六感。
魔力に動きあり。
「えっ!?」
思わず声が漏れる。
アリウスから魔導属性の魔力が漏れる感覚を掴んだ、そののち。
彼の持つ槍の先端から、黒紫色の『液体?』があふれ出てきた。
なんぞ?
ドロドロ、プルプルとして。
その姿は、まるで、ゼリー状のモンスター、『ウニ』。
止まることなく溢れ出す黒い液体は、子供程度の大きさまで成長し、ステージ上に次々産み出されていく。
・・・。
8体。
いや、連結しているものもあるので厳密ではないが。
6、7、8体の黒塊が、ウゴウゴ蠢いている。
それは、いわば、
「『闇の使い魔』、って感じかな?」
既視の感覚のない魔法。
蠢くそれからは、魔導のエネルギーを感じる。
攻撃魔法。
なめてかかったら、喰われる。
1点、感じる違和感。
それは、『エーテルが長期間空間中に存在し続けている』、ということだ。
通常、放出されたエーテルの魔力は、すぐにプレエーテルの状態に戻る。
長期間エーテルの状態が保たれている、今、目の前で起きている状況は異常だ。
使い魔達はずもずもと動き、ゆっくりとした速度で、私に近寄ってくる。
そして、1体の使い魔が、私の目の前まで到達した。
魔力とお見合いする。
何?
なんだよ?
<<ブシュ!!>>
瞬間。
使い魔は破裂炸裂。
鋭利な歯をシコタマ侍らせた肉食動物の口。
そんな形状に変化し、私に襲いかかる。
「あっぶねぇ!」
私は瞬間的にバックステップ、同時に、魔導術を高速収束して相殺。
使い魔は消滅。
プレエーテルの状態に戻ったのだろう。
特攻兵に気を取られている間に、他の使い魔達は私を取り囲むようなフォーメーションに移行済み。
それはまるで、軍隊を相手取っているかのごとく。
連携を取りながら私に襲い掛からんと、様子を伺っているようにも思えた。
なにこれ?
反則じゃない?
卑屈な笑みが溢れたあと。
アリウス軍の侵攻が開始される。
前から、横から、後ろから。
連続攻撃あり、同時攻撃あり。
対する私は、適宜、回避、相殺。
使い魔の数を、確実に、1づつ減らしていく。
が、しかし。
何度数えても、使い魔の総数が変わらない。
それはアリウスが、闇の使い魔を産み出し続けているから。
多産なお母さんですこと。
アリウスが自然魔力治癒力で魔力を回復する限り、使い魔は永遠に生成される。
切がない。
ならば。
使い魔達は無視。
マザーを、直接狙う。
その目論見を阻止するように、アリウスの前に立ちふさがる使い魔達。
邪魔!
3点収束封魔術、トライダイアブレークでなぎ払い、道をこじ開ける。
それを受け、壁が足りないと考えたのか、わからないが。
アリウスは、使い魔達を、彼と私の間の位置に集合させる。
集合し次第、使い魔達は合体。
全ての使い魔が合わさり、1体の巨大な使い魔が、私の前に立ちはだかった。
「どきなさいって!」
使い魔は、縦に横に、膨張を始める。
それは、巨大な壁のように広がり。
そして。
侵攻を一旦停止した私を包み込み、飲み込む荒波のように、こちらに倒れかかってきた。
逃げ場なし。
が、しかし、残念でした。
縦横に膨張したということは、その壁の厚みが薄くなったということ。
この程度の魔力量ならば、防衛術で無害化できる。
意思決定は完了し。
私は、魔導防壁を張る準備に取り掛かった。
その瞬間。
「目隠しかよ!」
私の第六感は、その壁の先からやってくる、ヤバイ何かを感じ取った。
可能な限り体をよじり、同時に、封魔術で封魔防壁を強化する。
取れたアクションは、精々その程度。
目の前の壁を突き破ってやってきた魔導術の矢に、私は脇腹を貫かれた。
「うわぁっ!」
体に走る鋭い痛み、そして意表をつかれたことによる驚嘆。
その2つを受け、声が漏れる。
使い魔を囮に使ってきた。
本命は、アリウス自身が仕掛けた、槍と魔導術の術技。
ぽっかり穴が開いた壁の向こう側に、槍を突き出したアリウスが見える。
脇腹を押さえ、膝をつく。
それでも、闘志はまだ消えず。
『やって、くれますね』。
そんなが強がりが浮かんだ。
・・・
膝をついたまま、状況を確認。
邪魔な壁が完全消滅したタイミングで、使い魔達は既に全体復活済み。
抜かりなし。
次の侵攻の開始は間もなく。
クリティカルを受けた私は、使い魔達の波状攻撃に対処するのは難しいだろう。
・・・
なら。
攻めてみる?
*****
【** アリウス視点 **】
『ナイトリキッド』。
そう呼称される、魔導属性の魔法。
魔導術は6属性中で、最も制御が楽な属性だ。
刃や矢の形状に整形するのみでなく、訓練すれば、このように液状の塊にすることも可能。
基本的には、プレエーテルをエーテルに変換すると、すぐにプレエーテルに戻ってしまう。
しかし、制御の技能を極めれば、長期的に魔力を空間中に存在させ、操作することが可能になる。
このナイトリキッドは、エルノアが得意とする魔術。
『液体としての魔導術』を攻撃用の魔法として確立したものだ。
俺は、これを見て学び、自分のものとした。
エルノア程に扱えているとは言えないが。
相手を取り囲むように展開することも、先ほどのように壁を作ることも、自由自在。
非常に高い自由度は、相手の戦略を打ち崩すのに最適だ。
そして、まさに今、エレナの戦略を打ち崩した。
その考えの正しさを証明するかのように、彼女は地に膝をつく。
深い傷を負った彼女は、先ほどまでのように軽やかには動けないだろう。
これで、チェックメイト。
俺の勝ちだ。
この戦況で。
さあ、エレナ。
どう出る?
膝をついた状態のまま、彼女は動かない。
彼女の行動再開に合わせ、いつでもナイトリキッドを動かせる状態。
・・・
・・・
・・・
光。
青い光。
青い光が地から湧く。
ステージのいたるところから。
その光を視線でなぞると、光が巨大な円を描いていることに気づく。
その円の中心に、俺がいる。
エレナに動きはない。
動きは。
考察の結論が固まらない。
勝利を確認したことによる安心が、この場に留まることを許容する。
しかし。
『その選択は間違っている』。
その結論に達したのは、青に光の作る円の内に、大量の魔力が収束され終わった後だった。
「法陣魔術か!!」
魔術収束に集中し、無防備な状態のエレナに向かって全力で駆け出す。
しかし、描かれた法陣の効果範囲は広大で、その制限時間内には効果範囲を抜け出せず。
そして。
魔法陣から、雷の魔力が産み出され、解放される。
「アーク・スパーク!!」
エレナの叫び声が俺の耳に届くや否や、脚に蛇が絡まりつき動きが阻害される。
雷の蛇。
すぐに脚から胴、頭を突き抜けて、天空へ。
地から際限なく産み出され、空間中をランダムに進む稲妻。
青で埋め尽くされた空間。
止まらない炸裂音。
状況を認識できたのはここまで。
俺の意識は、ここで途絶えた。
*****




