Chapter18 武具収束奥義 (3)
【** ミーティア視点 **】
敏捷性。
それがこの試合の勝敗を決める。
本日まで、彼女の闘技場での振る舞いを観察してきて感じたこと。
それは、『彼女は私より遅い』ということだ。
おそらく彼女は今まで、自分より『速い』人間を相手にしたことはないだろう。
今まで用いてきた戦術が一気に破綻する。
そして、新しい戦術を立てられる前に倒す。
だからこそ。
先制!
私は試合開始の合図と共に、一気に間合いを詰める。
対するエレナは、防戦の構え。
さあ、見せてあげましょう。
私の戦法を。
私が右手に握った金属性の棒管。
『レイブレード』と呼ばれる、最新鋭の武器だ。
術者の光の魔力を高圧収束し、光の刃、光刃を作り出す。
世界数多、この種の武具を所持し、扱いこなす人間はそうそう存在しない。
では。
何故、私がこのような価値の高い武器を所持しているのか。
そもそも私は、刀の扱い、及び光術が得意な魔導闘士であった。
しかし、『刀』『光』の2つは、比較的相性が悪い。
ここで。
愛しのシエル君が登場する。
彼が私のために、『光と相性の良い刀』の特注を受けてくれたのだ。
私だけのために!
この『レイブレード』と私の戦闘スタイルの相性は抜群。
武器が軽量なため敏捷性が損なわれず、かつ攻撃力も絶大。
重い大剣を弾き飛ばすほどのエネルギーを持っている一方、羽のように軽い。
そのような武具の特性もあり、私とエレナの距離は一瞬で縮まった。
この距離は、私の間合い。
高圧収束した光刃を、エレナに向けて叩き付ける。
彼女は槍を両手で持って構え、防御を固める。
光刃と槍のシャフトが接触した部分から、無数の火花が空間に舞う。
ノータイム。
続けざまに連撃を叩き込む。
そのたび、『キンキン』という甲高い音を立て、火花が飛び散る。
5撃目の後、エレナは大きくバックステップし間合いを確保した。
彼女の鋭利な視線が私を貫く。
劣勢ながら、一瞬も隙は見せず。
次の一撃を見据えている。
・・・。
ここまでの一連の攻防を受け、2点の考察が生まれる。
1点目。
それは、『私がエレナを侮っていた』、ということ。
私の速攻にも怯まない、常人離れした反射神経。
対人戦の経験は少ないはずであるが、戦い慣れはしている。
2点目。
それは、『やはり、エレナよりも、私のほうが速い』、ということ。
武器の槍のサイズ感から判断して、私の裏をかく瞬撃は放てないだろう。
エレナと槍は相性が悪い。
中距離からの雷槍撃のみ注意を払えば良い。
近距離では、私が圧倒的に有利だ。
ならば、遠距離からの時間稼ぎは無意味と判断。
攻め、一辺倒。
次で全てを決める。
絶対に防げない攻撃。
それを、あなたに見せてあげる。
そんな思考を持って笑みを向けるも、エレナの表情は頑な。
精神攻撃は無効。
物理攻撃で勝負!
再度、レイブレードを強く握りしめ。
地を蹴り、間合いを詰める。
すぐさま、攻撃の間合いに到達。
光刃を、見せつけるように大きく振りかぶる。
そう、それは。
剣を天に突き上げ、掲げるように。
対し、彼女は防御姿勢を取る。
その動きに、一切の無駄はない。
しかし、残念。
その動作自体が、無駄なのよね。
光の斬撃を浴びせる。
そのタイミングで。
単点収束光術の3地同時収束を開始。
高速収束は私の十八番。
一瞬で収束された光の魔力が、彼女に向かって放たれる。
斬撃と光術3発の、多方向同時攻撃。
防げるものなら、防いでみなさい!
!!!
『ギギギン』という甲高い音を立てて火花が上がる。
と同時に、『ジジジッ』という焼けるような音も拾った。
エレナは光刃の衝撃で後方へ弾き飛ばされるも、よろめきながらステップを踏み、なんとか体勢を整える。
そこまで、一瞬の出来事で、状況判断に時間を要される。
フル回転した私の脳が、その結論をたたき出した。
「防がれた!!!?」
彼女から滴り落ちる血の量が、私が予想していたソレと大きくかけ離れている。
ダメージ量が少なすぎる。
考察。
予想するに、ディヒュージョン。
封魔術による光術拡散魔術を瞬間的に繰り出したエレナ。
3点同時発射の光術を、粗く粉砕したガラスのような封魔術の魔力が拡散し、彼女へ到達する光のエネルギーを削減した。
いや、しかし。
いくらなんでも、ディヒュージョンの発動が速すぎる。
今の一瞬で光術の防衛が必要であると判断し、封魔魔力を収束し、そして拡散放出した。
天才的な判断力と実行力。
そして、理解力と吸収力。
斬撃と光術の同時攻撃、その感覚、回避のための『勘』のようなものをつかんだであろう。
この娘、やりますわね。
予想を超える結果を受け、笑いがこみ上げてくる。
嗚呼、本当に。
これは、なかなか、楽しめそうね。
*****
体感、試合開始から10分ほどが経過しただろうか。
防戦一方のエレナ。
しかし、斬撃と光術の同時攻撃を見切った彼女は。
遠距離からの光術も、流れるような光刃の連撃も、多点同時攻撃も。
適切に捌き続けた。
私のほうが彼女より速い。
その事実が曲がらない限り、私が有利なのは依然変わらない。
しかし、攻めあぐねているのも事実。
ならば・・・。
今度は、『ゴリオシ』で行きますわね。
深く空気を吸い込んだ後。
レイブレードを握る力を強め、魔力を込める。
魔力が注ぎ込まれるたび、形成された光刃が、ビリビリと反応する。
その光景を確認する、エレナの顔色が変わる。
本当に。
彼女の第六感は優れている。
でも、対処しようがなければ無意味なのよね。
収束完了。
これで、決める。
その強い意志を持って地面を蹴り、彼女へ向けて突撃する。
彼女は防御か回避かを迷っている様子。
しかし、時既に遅し。
私は、レイブレードに収束した全魔力を、一撃に込める。
「はあぁぁぁっ!」
光の鞭。
そんな様相で、彼女に振るわれた渾身の一撃。
それを彼女は槍の1点で受け止めた。
しかし、莫大なる光のエネルギーは防壁を突き破り、槍ごと彼女を吹き飛ばした。
「ぐっ!」
低い呻き声を吐き出して、地面に叩き付けられたエレナ。
土煙が舞い、私はその様を静観する。
久々に、観客の喝采に意識を向ける余裕が生まれる。
その喝采が落ち着いてきたのと共に。
内に秘めた闘志をたぎらせて。
戦士エレナは、再び、ゆっくりと立ち上がった。
・・・。
が、しかし。
「勝負ありね」
「げっ」
彼女の闘争心は折れなかったが、彼女の武器の槍は真っ二つに折れていた。
槍の刃を含む上部、残る柄の下部、その2つに分離したような形。
その2つのパートは彼女の手から溢れ、金属音を響かせながら地面に転がった。
私の放った一撃に、市販品の武具は耐えることができなかったのだ。
私の勝利を確信し、観客席全周から歓声が沸き、溢れる。
その歓声に反するように、静かに、呆然と立ち尽くすエレナ。
脱魂したように、地面に落下した武器の槍を見つめている。
あとは、彼女が『参りました』と言えばいい。
ただ、そのイベントが残るのみ。
どう、考えたって。
彼女が、1歩2歩前へ出る。
そして、折れた武器、その片方。
槍の刃を含む上部のほうを掴み、拾った。
その片翼をじっと見つめるエレナ。
そのまま。
しばし、静かな時間が流れる。
・・・。
そして。
そして、彼女は。
折れた槍の切っ先を、私に向けて突き出した。
その瞬間、私の体に悪寒が走る。
「冗談」
理解の範疇外の出来事を受け、卑屈な笑いが零れ落ちた。
狂っているとしか思えない。
しかし、彼女は笑っていた。
まるで、『今度は私の番ですね』と言わんがごとく。
彼女は動き出す。
地を蹴り、私に向け、一気に間合いを詰める。
速い!
先ほどよりも敏捷性が向上している。
リーチが短くなった壊れた槍は、片手で扱えるサイズになっていた。
次の瞬間、中距離の間合いから風の槍が襲ってくる。
ウィンドショットだ。
その風槍は、壊れた武器から発されるとは思えないほどの威力を誇っていた。
脳内が考察で溢れ判断が遅れるも、反射的にサイドステップし、風槍を回避。
この時点で、エレナは私の目の前まで到達していた。
『一旦逃げろ』。
その思考を脳内で復唱し、バックステップ。
一気に間合いを取る。
次の瞬間、さきほど私がいた場所に、雷の魔力が拡散放出される。
ライトスイープ!
そのまま私は、闘技場ステージの端まで退避した。
・・・
間合い確保を確認後、深く息を吐く。
お株を奪われたような連撃。
しかも、風、雷、異属性。
異属性連続にも関わらず、風と雷の間のインターバルが短すぎる。
そして、私の考察を断絶させるようにやってきた悪寒。
第六感が、相手の魔力収束開始を検知。
感覚を研ぎ澄ますも、魔術属性を判定できない。
エレナは全属性の魔術を扱える。
この時点で、攻撃属性を限定することはできない。
魔導術か?
光術か?
複数の可能性が脳内で衝突し、防御モーションのイメージを確定できない。
そんな混線状態のまま、6つの点に風の魔力が収束され、即合成される。
風術!
「はぁっ!」
瞬間。
彼女の生成したコアが前方に打ち出され、コアの魔力が空間中に拡散される。
その攻撃の効果範囲は広大。
私を囲む空間全体に拡散され、私に逃げ場なし。
ただし拡散された分、威力は落ちるはず。
私は、咄嗟に魔導属性で、自身を囲む球状の防壁を生成。
防御。
『ギリギリ間に合った』。
そんな。
一瞬の安心感が、致命的であった。
「!!」
彼女の風術と私の魔導防壁で悪化した視界の先から、雷の槍が飛来する。
『回避!』、という命令を出した時点で、既に私はそれに貫かれていた。
「いっ!」
全身が痺れる。
私が出来たことは、封魔術で封魔防壁を強化することだけ。
その封魔防壁を突き破る雷。
重い。
体に碇を打たれたようだ。
・・・
ちょっと、油断しただけ。
制御性の劣化した体に向け、強めの命令を出し、大地を踏みしめる。
視線の先のエレナは、冷ややかにこちらを見つめている。
最大限の強がり。
私は彼女に向けて笑みを向ける。
彼女はそれに答え、笑みを返してくれる。
2人だけの空間。
もう、後は。
戦いを、楽しむのみだ。
*****




