Chapter18 【魔術補足】 従属情報と空間魔力収束
「エレナ、何の本読んでるの?」
私は読んでいた本を閉じ、改めてそのタイトルを確認する。
「『基礎魔術原理』だって。
魔法の基本原理を説明する内容、みたいな」
「エレナもだんだん、難しい内容が理解できるようになってきたみたいだね」
「でもこの本には、今までノムに教えてもらった範囲の内容しか書いてないけどね。
まあ、復習、みたいな」
「具体的にはどんな内容?」
「『魔術はどうやって実現されるのか』、について書かれてる。
まず、この世界の空間中には、およそどんな場所にも、プレエーテルが存在している。
ちなみにプレエーテルは、物体でなく、気体でもない。
『エネルギー体』って言われている。
触れることのできないエネルギー。
接触不能、攻撃不能なエネルギー、と表現されたりする」
ノムは特に不思議な顔はせず、わずかに頭を縦に揺すっている。
「魔術師はプレエーテルを体内に取り入れる。
体内でプレエーテルは『魔力』に変換されて蓄積される。
魔術を使うときは、その魔力を再びプレエーテルに変換する。
そこから、例えばエーテルの魔術を使うとしたら、エーテル変換でプレエーテルをエーテルに変換する。
攻撃魔法としての役目を終えたエーテルは、再びプレエーテルの状態に戻って、空間中に拡散してゆく。
こんな感じで、プレエーテルが体内で魔力になって、体外でエーテルになって、最後にまたプレエーテルに戻るサイクルを『魔力輪廻』っていう。
・・・。
・・・。
もしかして今、私、ノムに『魔術』を教えた!?」
「今の話は、全部知ってたけどね」
「さようですか。
・・・。
でも、ということは。
私が今説明したことは、間違ってない、ってことだよね」
「魔術の原理については厳密には解明されていないから、絶対とは言えないけど。
おそらく、今の説明で正しい」
「はい!
先生、ここで質問があります」
「ぬ」
「何で一回わざわざ体内に魔力を蓄積しないといけないの?
空間中にプレエーテルがあるんなら、それを使って魔術を実現すればいいんじゃないのかね?」
「じゃあ、やってみたら?」
「え、あれ?
どうやってやればいいんだろ?
全然イメージできない」
体内の魔力は私の意思に従って、その姿形を変化させてくれる。
しかし、空間中の魔力に向けて『動け』と念じても、『イエス・マム』とは言ってはくれない。
空間中の魔力に対するアクセス制限がある状態。
コミュニケーション能力の欠如。
「エレナが魔術を実現するとき、体内に蓄積された魔力は、比較的思うとおりに操作できるよね」
「うん」
「でも空間中の魔力は操作できない。
それは魔力が『従属情報』を持つから、と言われている」
「従属情報?」
「体内への魔力の蓄積は無意識的に行われるけど、このときに魔力自体に『この魔力は私のものです』という情報が、自動的、無意識的に書き込まれる。
そして自身の従属情報を持った魔力、つまりプレエーテルは、操作することができる。
でも空間中の魔力は、従属情報を持っていないから操作することはできない。
さらに従属情報は、攻撃後、つまりエーテルがプレエーテルに戻るときに消滅してしまう。
攻撃後のプレエーテルは、空間中のプレーテルと同じように従属情報をもたない状態となり、空間中に戻ってゆく。
だから、魔術使用後に空間中に残ったプレエーテルを、直接再利用することはできない。
「そうなんだ」
「再利用するには、従属情報を書き込む目的で、術者体内に魔力を蓄積させる必要がある。
故に、空間中の魔力を使って魔術を使い放題、っていうことはできない。
ちなみに、余談だけど。
収束、放出、制御を行うときには、魔力に対して収束情報、放出情報、制御情報という情報を書き込む。
これらの収束情報、放出情報、制御情報、及び従属情報を合わせて『情報構成子』と呼ぶ。
一方で、その情報を書き込む対象である魔力、プレエーテル、エーテル、アンチエーテルのことを『魔導構成子』と呼ぶ。
以上、余談でした」
「なるほどねぇ」
体内に取り込める魔力には限界がある。
結果的に人間の成せる魔術にも限界があるのだ。
なんでもかんでもできるわけではない。
「が、しかし。
この話には続きがあるの」
「ぬぇ?」
「『空間中の魔力を収束できない』、と思われていたのは最近までであって、実は空間中の魔力を直接収束する方法があることがわかってきた。
それが『空間魔力収束』。
「空間魔力収束?」
「空間中のプレエーテルを体内に蓄えずに、そのまま使用する魔術実現法。
従属情報の仮説が正しいのなら理屈は簡単で、空間中の魔力は術者の従属情報を持たないから操作できない。
ならば、従属情報を持たせればよい」
「そんなことできるの!?」
「実際、私もちょっと前にできるようになった。
でも、習得はかなり大変。
最初は、収束できる魔力量も微々たるものだったから、本当に従属情報が書き換わっているか、っていう判断ができなかったから。
実際今も、どうやって実現しているかをうまく伝えられない。
それに収束できる魔力量も微小でしかない」
「『無限の魔力』みたいにはならない?」
「それは無理そう。
空間魔力の従属情報書き換えは、体内に蓄積して書き換える方法よりも遅い。
現状では、魔力収束に時間がかかる。
どこまで上達するかは、これからの訓練次第と思われる」
「そっか」
「でも空間魔力収束を使えれば、体内の魔力をほぼ消費しないで魔法を使える。
体内の魔力を使い切っても魔術を使用できる」
「それって、MPが増えた、とも言えるよね」
「さらに従属させた空間魔力を自身の体付近に持っていけば、体付近に吸収しやすい魔力が集まって、結果的に魔力の自然回復力を高めることができるらしい。
これを『空間魔力吸収』という」
「つまり、魔力を意識的に回復できるってことじゃんか!
すごい!」
「まあ、回復できる魔力は、最初は微々たるものだけどね」
ノムでも習得に苦労する技術ではあるが、それを習得したときのリターンは大きそうだ。
今度から練習してみようと思います。
「また、さらに効率的に空間魔力を収束させる方法が存在する。
それが『強制従属』。
これは空間中の魔力の従属情報を書き換えずに、自身の魔力で空間魔力を押さえつけて制御できるようにする技能」
「・・・」
「強制従属に使用しやすい魔力の種類が存在する。
それが残留魔力。
例えば、比較的大きな魔力を持った魔術師が亡くなったとき、情報を多く持った魔力が空間中に残される。
これが残留魔力となる。
この残留魔力を用いた魔術を何って言うか、わかる?」
「知らない」
「黒魔術。
つまりは闇魔術。
残留魔力を使用し続け、特にその魔力を空間魔力吸収し続けると、術者の人格がだんだん変化してくる。
魔力に精神を侵食される、とも言う。
多くの場合、多量の魔力を残留させる魔術師は、あんまり良い魔術師でないことが多いの。
だから、黒魔力、つまり残留魔力を用いる人間の人格は悪しきほうに流れてゆく。
と言われている」
「だから、マリーベル教会で禁止されているんだね」
「結論。
強制従属には手を出さないこと。
まあ、普通は出来ないけどね」
「でも、エルノアはできるのね」
「そういうこと。
黒魔術を使ったからといって、必ず人格に支障をきたすって訳ではないみたい。
使い方とか、術者の免疫とかも関係する」
「うーん、まあ使わないに越した事はないかな」
*****




