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Chapter16 神聖術・闇魔術 (1)

「ノムー。

 近々、マリーベル教会の図書室に行くって予定あったりする?」


「なんで?」


 私の唐突な質問に対し、ノムが可愛らしく首をかしげる。


「実はさー。

 昨日エルノアとアリウスに会ったんだよね。

 街でばったりと。

 それで、エルノアが探している闇魔術の本。

 それが教会の図書室にないかどうか見てきてくれないか、って頼まれちゃって」


「教会の図書室に、闇魔術の本なんてないから」


「まあ、そうですよね」


 まじ正論。


「あー、でも・・・。

 『対闇魔術』の本はあるかも。

 そういうのではないよね?」


「うーん、どうだろう。

 私がエルノアから聞いた本の特徴は・・・。

 表紙の色は黒ずんだ赤で、タイトルなどは書かれていない。

 グリモワールではなく、魔力を宿したりはしていない。

 あと、内容が『古代文字』で書かれてるってこと。

 それくらいかな」


 私はエルノアから受け取った古代文字のサンプルが書かれた紙切れをノムに見せる。

 ノムはその紙切れを覗き込むと、首を軽く縦に振る。

 さすがは先生。

 謎多き古代文字にも馴染みがあるようだ。


「頼まれたはいいけど、私は教会の図書館には出入りできないだろうし。

 『ノムに相談してみるー』って、エルノアには伝えてるんだけど」


 とかいいながら、この時点で、ノムがYesと回答するとは思っていないのですが。

 怪しげで曖昧で、危険な香りが充満する依頼。

 まあ、拒否ですよねー。


「ぬ、わかった。

 探す」


「あれっ、やるんだ?」


「教会の図書館。

 近々、エレナを連れて行きたいと思ってたところなの。

 対闇魔術や神聖術の本もあるから。

 一見の価値あり」


「神聖術って、なんか昔聞いたような気がする」


「じゃあ、さっそく行こうか」


 思いついたら即実行。

 ノム先生は無口に見えて、超行動的なのでした。






*****






 マリーベル教会、ウォードシティー支部。

 それは街の中心部にそびえ立つ、美しく巨大な建物だ。

 教会にあるのは礼拝堂だけでなく、怪我の治療室、図書室、さらに多くの教員が食事、宿泊できる施設もあるらしい。

 また、周囲には大噴水がシンボルの広場があり、こちらも美しく整備されている。

 ここまでの観察から、マリーベル教会の規模、勢力の大きさが読み取れる。

 さながら城のようである。

 事実、マリーベル教会は一小中国以上の統治力を持つのだ。


 教会正面の大扉を開けると、荘厳な礼拝堂が現れる。

 礼拝堂の最奥には等身大サイズの聖女マリーベル像がたたずみ、扉をくぐった礼拝者を見つめている。

 醸し出される神聖な雰囲気に呑まれ、私語が躊躇われる。

 私はノムにピタッとくっつき、彼女の耳元に向けて質問を吐いた。


「っていうか・・・。

 私もノムも、マリーベル教信者じゃないよね。

 勝手に教会に入っても良いのかね?

 さらには、図書室になんかに入れてもらえるのかね?」


 私の質問を無視して教会の奥へ進んでいくノム。

 構内に靴音を響かせることにさえ、申し訳なさを感じるような静寂。


「ノム様!」


 静かな空間を切り裂く、すこぶる明るい声。

 反射的に声の方向に視線を送ると、天使のような笑顔をたたえた女性が、両手をちょこんと上げて、こちらに駆け寄ってくる。

 その仕草がえらく可愛い。

 顔も可愛い。

 短めの金髪、修道女らしい清楚な濃い藍色のローブ。

 私達より少し高いくらいの身長。

 年も2、3歳年上ぐらいか。


「お久しぶりです、ノム様」


 知り合いか?

 なんかわからんが、彼女はとても嬉しそうだ。


「お久しぶりです、ソフィアさん。

 可能であれば、また図書室を利用したいのですが」


「はい!

 是非、ご利用ください」


 なんか、めっちゃ慕われてるし。

 おそらく年上と思われる女性から様付けで呼ばれるノム。

 謎の上下関係があるらしい。


「この子は、私の友人なのですが。

 彼女も一緒に連れて入ってもよろしいでしょうか?」

 

 ノムが修道女さんに私を紹介してくれる。


「はい、大丈夫です」


 まあ、あっさりと。


「ありがとう。

 行こうか、エレナ」


「えっ、あー、そだね。

 おじゃましまっす」


 修道女さんに複数回頭を下げ、慣れた様子のノム先生に続いて奥の部屋へ進んだ。






*****






「ヴァルナ教とマリーベル教は比較的友好関係にある。

 そんな縁で、私も昔、ヴァルナ教の使者として、この教会に訪れたことがあった。

 ソフィアさんとも、このとき面識ができて。

 その頃のことを、ありがたいことに、彼女は覚えててくれた。

 という感じなの」


「単に面識があるだけの慕われっぷりではなかった気がするけどね」


 察するに、悪霊を退治した、などの何かしらのノム武勇伝が介在したのかもしれない。


「ちなみにヴァルナ教には、『宗教勧誘をしたらいけない』っていう決まりごとがある、って知ってた?」


「知らないって、そんなこと。

 そーなんだ」


「まあ、だからいつかヴァルナ教は消えてなくなるだろうけどね」


「ノム、それでも元ヴァルナ教員かい?」


 そんな会話の後、図書室に到着。

 扉を開けると、莫大な数の蔵書が現れた。

 部屋の中、ぎゅうぎゅうに本を詰め込んだ感じ。

 天井に近い高さの本棚に、隙間なく書籍が並べられている。

 部屋に誰もいないことを確認した上で、ノムに視線を送る。


「この図書室には、聖書や歴史書、特にマリーベル時代の歴史書が多い。

 でも、このあたりの本は今はまだ読まなくても後からでいいから。

 まずは、神聖術と対闇魔術の本から」


「神聖術かー」


「簡単に説明する。

 神聖術は光術と封魔術の合成術。

 光術はピンク色の光を放つけど、神聖術はおおよそ白色の光。

 そこにピンクから、紫、青を通って水色、その辺りの色の光が雑味成分として含まれる。

 神々しい光が敵を消し去る。

 昔から、よく、そのように形容されるけど。

 ここには、封魔の魔力が相手の防壁を弱らせることで、光のエネルギーが骨の髄まで到達する、っていう裏話が隠れている。

 神聖術の王道となるものは、『セイント』、『ハイセイント』、『アークセイント』の3つ。

 ハイセイントは別名セイントクロス。

 アークセイントは別名グランドクロスって呼ばれる。

 グランドクロスは教会の幹部クラスが使うようなレベルだけど」


「で、そのグランドクロスをノムは使えるのね」


「ぬ」


 私の問いにあっさりと頷くノム。

 半分冗談のつもりで聞いたのだが。

 先ほどの修道女さんから崇拝されているのも深く頷ける。

 元ヴァルナ教最年少かつ最強のプリーストの名は伊達ではない。


「で次。

 対闇魔術。

 その前に闇魔術の話から。

 ある魔術が闇魔術かどうかの定義は教会が決めている。

 厳密には、マリーベル教会の退魔師団。

 闇魔術は、教会が使用を禁止している魔法の総称。

 人を呪う呪術。

 対象を毒などの状態にする瘴気(しょうき)術。

 自分に悪霊を憑依させる憑依術、等。

 あと死霊術」


「なるほど、死霊術は闇魔術に含まれるのね」


「闇魔術を使用し続けていくと、使用する術師が魔力に精神を奪われていく現象が起こることがあるの。

 これが一番危険。

 だから教会だけでなくて、魔術師全体として、これらの魔法を禁術として使用禁止にしているの。

 三大禁術と呼ばれたりもするけど」


「三大禁術って?」


「呪術、憑依術、死霊術の3種の術こと。

 話、変わるけど。

 三大魔術奥義って、知ってる?」


「奥義?

 なんか、すごいやつ?」


「そう、すごいやつ。

 飛行術、召喚術、蘇生術の3つ。

 飛行術は、空を飛ぶための術」


「えっ!?

 空、飛べんの!?」


「封魔術の翼を作り、魔導術との反発力を利用して空を飛ぶらしい。

 と、言葉で表現すればそうだけど。

 今、この世界に飛行術を使える人間がいるかどうかも定かではない。

 そんな、習得難度極高の術」


「今度挑戦してみよー」


「次の召喚術は説明不要だよね」


「ってことは・・・。

 紅玲を召喚できる使える私って、実はすごいんじゃ?」


「今の紅玲程度の魔力では、ここでいう召喚術には当てはまらないけどね。

 もっと巨大な魔獣を呼び出せるレベルのものでないと」


「まあ、そうだろうね」


「3つ目の蘇生術。

 これも言葉そのまま。

 死んだ人間を生き返らせる術」


「これもすごいな」


「でもこれは治癒術の延長上だから。

 死んですぐなら、それなりのレベルの治癒術でも蘇生可能。

 死んでから時間が経過するにつれ、蘇生難易度が急激に上昇する。

 例えば死んでから1日くらい経っていたら、どんなに高位の治癒術師でも蘇生は不可能、と言われる」


「できるだけ早く治療する必要があるわけだね」


「その通り。

 じゃあついでに、この流れで。

 三大秘術って知ってる?」


「知らんです、当然」


「秘術と言うのは、『絶対に使用不可能』と考えられている術のこと。

 創造術、時術、呪殺術の3つ」


「ふんふむ」


「創造術というのは、無から有をつくる。

 何もない所から、何かを作る術。

 魔術というのは、術者体内の魔力を、攻撃エネルギーに変換して発動されるもの。

 体内に蓄えている魔力を燃料とする。

 だから無から何かを作っているわけではない。

 『無から有を作れない』という、この世界の法則とも言える」


「うんうん」


「時術は時を操る術。

 時間を進めたり、戻したり、速めたり、止めたり。

 物語や神話の世界では、ときたま時間操作の術が描写されているけど。

 現実世界では、そんなことは実現できない。

 『時間を操作することはできない』という、この世界の法則とも言える」


「ぬぅん」


「呪殺術というのは、ただ念じるだけで相手の命を奪う術。

 一見呪術と似てるけど、違うものを指す。

 呪術では、ちゃんと魔力が術者から対象に移動している。

 魔力が別空間に瞬間移動しているわけではない。

 あくまで魔力は空間中を移動して、相手のところまで到達している。

 呪殺術では、魔力が瞬間移動している。

 ただ念じればその通りになるのではなく、何らかの現象が存在している。

 『魔力や物体の瞬間移動はできない』という、この世界の法則とも言える」


「瞬間移動の魔術は存在しないのね、残念」


「この3術が秘術、つまり実現不可能な術であることを知っておくことは重要。

 例えば、相手魔術師が瞬間移動のような術を使ったとしても、それを信じてはいけない。

 それはおそらく、幻術を使ったマヤカシであると想定できる。

 秘術は実現不能、魔術奥義は実現可能、と覚えておいて」


「なるほどね。

 ちなみに、細かい話だけど。

 何で『3大』なの?

 4つ目って無いの?」


「『魔術師は3っていう数字が好きだから』、というだけだと思われる」


「気持ちの問題ですか」


「あとは6、12、24とかの数字も好き。

 雪月華3属性、基本6属性、6大武具、擬似12属性とか。

 何かと使われる」


「24時間、12星座とかもあるしねぇ」


「闇魔術の話はこれで全部。

 とにかく、闇魔術に手を出さないようにして」


「うぃっす」


「で次に、対闇魔術の話ね」


「うーん、真剣に聞かないとなー」


「闇魔術に対抗すべく、マリーベル教会退魔師団が開発した防衛魔術。

 もしもエレナが、エルノアと戦うことになれば、習得が必須となる」


「戦いません」


瘴気(しょうき)術で毒になったら、基本的には魔力強めのフィジカルキュアで治せばいい。

 闇魔術で、特に厄介なのが呪術。

 呪術で呪いをかけらせたら、フィジカルキュアじゃ治療できない。

 これは対呪術というカテゴリになって、かなり高度な、特殊な魔術が必要。

 『呪い』。

 それは、対象に邪悪な魔力を無理やり憑依させることで実現される」


「とんでもないことするね」


「体力が低下したり、魔力が衰えたり。

 憑依させる魔力の持つ性質に従って、異なる結果となる。

 最悪の場合、精神が崩壊したりすることもある。

 ただ、簡単な呪いなら、マリーベル教会で(はら)ってもらえるけど。

 解呪術は、憑依させられた邪悪な魔力を、封魔の魔力で無力化することで実現される。

 黒魔力の持つ従属情報を消去する封魔術。

 通称、浄化魔法。

 教会退魔師団員の必須スキルと言える。

 元聖職者だけあって、私もかなり得意としている」


「それは心強い」


「最後に、対死霊術。

 残念ながら、私はあんまり詳しくないから説明できない」


「詳しかったら逆に怖いよ」


「死霊術に関する書籍なんて、そんじょそこらには落ちてない。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 なので。

 エルノアの探している本とやらに、すごく興味がある。

 そんなこんなで今ここにいる」


「中身見る気まんまんなのね」


「元プリーストとして、防衛のために必要な知識なの。

 それに、あまりにも危険な内容の場合は、本をエルノアに渡すわけにはいかない。

 さっさと燃やす必要がある」


「それは確かにだけど。

 ・・・。

 まあ、そもそも本が見つかるかどうかもわかんないけどね」


「んじゃ、手分けして探す」


「私はこっちの書棚から見て回るから。

 ノムは逆側からお願いね」


「ぬ」






*****

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