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Chapter15 魔導工学 (3)

「アシュター、フレバス。

 すまないな、休みだと言うのに」


 ゴーレム試運転ため、闘技場にやってきたエレナ、ノム、シエルの3人。

 それにしても。

 勝手に闘技場使っていいの?

 もしかしてシエルって偉いの。

 なんか明らかに年上相手に呼び捨てだし。


「いえいえ、師匠ー。

 お待ちしてました」


「だから師匠っていうの、やめろって」


「まあでも、実際師匠ですからね、我々の。

 でも、シエルが他人にゴーレムを触らせるなんて珍しいですね」


「まあ、いろいろあってな」


 現在地はステージの外。

 北の入場門から入ってきて、ステージ端まで来た地点。

 そこに、2人の男性がスタンバイしていた。

 年は私達よりも少し上くらいか。

 一人は、見覚えあり。

 先日、紅玲(くれい)の書籍を渡してくれた闘技場スタッフ。

 メガネを掛けた優しそうな男性。

 漏出魔力の感じからすると、魔術がそこまで得意そうには感じない。

 が、体は鍛えてある印象。


 一方、もう一人は白衣を着た背の高い痩せ型の青年。

 正直、貧弱そうに見える。

 魔導術と封魔術の魔力が漏出していなければの話だが。

 この人、間違いなくそれなりの魔術師だ。


「よろしく、お願いします。

 ノムです」


「エレナです」


「アシュターっす」


「フレバスと言います」


 白衣の男性がアシュター、眼鏡の男性がフレバスと名乗った。


「日頃は、この2人がゴーレムを動かしてるんですね」


 突然、ノムがそのような推測を口にする。


「なんでそう思う?」


「魔力が、そんな感じ」


「魔力が、っていうのはよくわかんないけど。

 まさしくその通り」


「自分が初級ランク担当。

 闘技場の警備と雑務を担当しています」


「俺が中級担当。

 普段は、救護班っす」


「で、俺が上位ランク。

 ゴーレムの作成とメンテナンスが仕事」


「すべてのランクで師匠が操作するってのはかなり労がいるから。

 俺たち2人で手伝ってる感じ」


 この時点で、私が以前から感じていた1つの疑問の答えが見つかる。

 闘技場のあるランクから、突然ゴーレムが強くなったのだ。

 ゴーレムの種類は同じであるにも関わらず。

 それは、『操作者』が変わったからだ。

 眼鏡の男性と比較して、白衣の男性の方が魔術のセンスが数段高い。


 そして、そこから連想される事実。

 それは。

 シエルが操作するゴーレムは、今まで私が戦ってきた白衣のアシュターが操作するゴーレムよりも強い、確実に、ということ。

 で。

 私はそのゴーレムを今日相手する、と。

 うーん、難儀。


「自己紹介はこんな感じで。

 じゃあまず『手本』からだな。

 フレバス、簡単に説明しながら操作してみてやってくれ。

 で、エレナはその相手をしてくれ。

 早速準備して」


 言いたいことはいろいろあるが。

 聞いてもらえる気はしない。

 

 私は闘技場のステージに上がり、南の入場門に近い位置で相手を待つ。


 続いて、見慣れた灰色のゴーレムが登場する。

 首を持たない魔導兵士。

 一般的な大人の男性よりも大きな鋼鉄の体。

 腹と背中には魔法陣が刻まれている。

 拳の先には太い棘が複数付いており、鋼の剛腕と相まって、その一撃の威力を物語る。


 一撃を喰らってもいけないが、かと言って速攻で倒してしまうとノムに怒られそうだ。 

 まあ。

 適当に、やりますかね。

 

 

 



*****






【**ノム視点 **】




「まあ、こんな感じです。

 どれほど、伝わりましたかね?」


 エレナとゴーレムの戦闘が終わると、操作者フレバスが聞いてくる。


「わかりやすかった」


 ゴーレムの一つの動作ごとに、フレバスはその操作方法、魔力の流し方を説明してくれた。

 エレナのほうもそれは分かっていたようで、ゴーレムの攻撃をかわしながら、適当に時間を潰してくれていた。


「でもゴーレムの操作技術に関しては、私はまだまだのようですね。

 一撃も、彼女に与えることはできませんでしたし。

 まだまだ当分の間は、初級ランクの番人、ということになりそうです」


 というよりも、ゴーレム慣れしたエレナの回避能力が高すぎるだけなのだが。


「それじゃあノムさん、やってみますか」


「ちょいまちっ!」


「アシュター?」


「次。

 俺やる」


 白衣の男が割り込んできた。

 チャラい。


「と、言ってますが。

 シエル、どうします?」


「・・・。

 いいんじゃない?」


「いよっしゃっ!」


 ほんの僅か、考え込んだように見えたシエルは、すぐに承認の結論をだした。

 喜ぶ白衣。


「エレナちゃーん!

 次は俺が相手するからさー」


 ステージ外の4人のやり取りは、ステージ上のエレナには完全には伝わっていないと思われるが、エレナは相槌を打つ。

 そんな適当な対応にも、白衣は満足そうである。

 オーラサーチからの判断では、フレバスよりも白衣の方が魔術能力が高いと考える。

 先程のフレバスの操作よりも、より滑らかな動きを見ることができるだろう。


 それにしても、この男。

 エレナを見る目が、そこはかとなくいやらしい。

 あんまりいやらしい目で見続ける場合は、爆破しますので。






*****






 エレナの放ったトライスパークが直撃し、耐火ゴーレムがステージに倒れ込む。


「全然駄目だわ。

 エレナちゃん、強すぎ」


「でも、自分よりは善戦してますよ」


 白衣の操作するゴーレムは、フレバス操作時よりも、動きが機敏で無駄がなく、相手の攻撃を防御、回避する能力が強化されていた。

 が、それでも、エレナに対し、ほんの一撃も加えられなかった。


 その一戦を、シエルは無言で見つめ、何か思考を巡らせているように思えた。

 戦闘後も押し黙っていたが、一通り考えがまとまったのか、表情が戻る。


「じゃあ次、ノムな」


「ぬ」


「エレナー!

 ノムが練習するから、少し待ってくれ」


「ぅいっすー」


 エレナがやる気のない返答をすると、ここで、紫色のゴーレムが登場し、ステージに上がる。


「ノム。

 ゴーレムに、魔導と封魔の魔力を流してみて。

 最初は、適当にでいいから。

 壊さない程度の少なめの魔力量で」


「どういう風に、流せばいい?」


「動かしたい部位に魔力を流して。

 それ以外は自由。

 ゴーレムの操作訓練は、とにかく魔力を流してみて。

 こういう魔力を流すと、こう動いて。

 別の感じで流すと、こう動いて。

 っていうのを、体で覚えていくのが一番早いんだ。

 魔導術のみを流したり、封魔術のみを流したり、両方を同時に流したり。

 できるだけ多くのパターンを試してみてくれ」


「やってみる」


 壊さないように。


 魔導属性の魔力を、ゴーレムの腕を目標地点として少量飛ばす。

 すると、その腕が、僅かな反応を示す。


「おおっ!

 ちょっとだけど、動いた!」


 ゴーレムを間近で見ていたエレナが、感嘆の声を上げる。


「うん、いい感じ。

 もっといろいろやってみて」


「ぬ」


 体の前方、後方、上腕、前腕、手、腰、脚部、足先。

 魔力を流す部位、そして流す魔力によってゴーレムの反応が変わる。

 少しづつ、入力と反応の関係を頭にインプットしていくと、徐々に操作のコツが掴めてくる。


 うん。

 ちょっと。

 ・・・。

 楽しいかも。








*****







 腕に魔力を流して通常攻撃ジャブ

 一旦溜めてからだと大攻撃ストレート

 基本的、動きは遅いけど。

 瞬間的に間合いを詰めるだけなら。

 足に魔力を多めに流して、相手に向かってステップ、して距離を詰める。


 で。

 すぐに右腕操作で攻撃。

 間を開けずに。

 脚操作でバックステップ回避。

 両腕操作で防御姿勢。


「完璧に使いこなせている」


「こいつ、なにもの?」


「まあ、ノムならすぐにマスターするとは思ってたけど。

 さすがに速いな」


「みんなのおかげ」


 1時間程訓練にのめり込むと、おおよそ自由自在にゴーレムを操れるようになっていた。

 術者からゴーレムまでは距離が離れているため、術者の近傍に魔力を集めて操作する場合に比べ、魔力操作は遥かに難しい。

 しかし、この辺りの繊細な魔力制御は、私が最も得意とするところだ。

 ゴーレムの仕組みを体得するにつれ、より人間に近い動きを実現できるようになった。


 が一方で、操作に慣れればなれるほど『限界』も感じる。

 それは、どう操作しても、これ以上の良い動きは実現できないという、ゴーレムの物理的な制約、メカニカルな性能限界。

 もう少し『良い』ゴーレムならば、さらに高い戦闘能力を実現できるかもしれない。


 そんな私の考えを察したのか、シエルが1つの提案をくれる。


「ノム。

 ゴーレムのバージョンを上げてみようか。

 性能も操作性も高い、別のゴーレムに」


「でも、壊したらまずいし」


「大丈夫。

 壊れても、修理する」


 なら遠慮なく。

 もしも、これ以上の性能のゴーレムを扱えるのなら。

 エレナを倒せるかもしれない。


 そんなことを考えながら見つめた当の彼女は、すごく嫌そうな顔をしていた。

 その嫌な予感、当たるかもね。






*****

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