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Chapter15 魔導工学 (2)

「・・・。

 ゴ・・・。

 ゴーレムがいる」


 (ほこり)っぽく薄暗い大部屋に入ると、何度も闘技場で戦ってきた、宿敵、エーテルゴーレムが姿を表す。

 1体、2体ではない。

 見渡せば見渡すほどに、私の視界にゴーレムが入ってくる。

 優に20体はいるのではないでしょうか。


「尋常じゃないくらいいるし。

 怖っ!」


「これは、すごい」


 ノムが感嘆のため息を吐く。

 簡単に周囲の確認をすませると、1体のゴーレムに近寄り、至近距離からの分析調査に入った。

 これぞ、食い入る。

 

 一方、イモルタは誰かを探している様だ。


「シエルいるかー」


 ・・・


「シエルー」


 ・・・


「探すか。

 お前らも手伝え。

 俺、むこうのほう見てくるわ」


 そう言い残すと、イモルタは指さす先の方向に行ってしまった。

 兎も角。

 『シエル』という人物を探せば良いらしい。

 らしいのだが・・・。


「手伝え、って言われてもなー」


 ゴーレムが気になって、それどころではないのですが。

 ・・・。

 それにしても。

 本当にすごい数のゴーレムだ。

 種類も複数。

 一番多いのはノーマルタイプ、紫塗装のエーテルゴーレム。

 次に多いのが、灰色のアイアンゴーレム。

 茶色いのが耐火ゴーレム。

 それに加え、まだ見たことのないカラーリングのゴーレムもいる。

 ・・・。

 いやこれ、大丈夫なの?


「このゴーレム、いきなり襲ってきたりしないよね」


 ゴーレムに張り付いているノムの耳元まで接近して確認する。


「それはない。

 ゴーレムは、基本的には動かす人間、魔術師が存在して、初めて動く。

 一度魔力を与えたら、勝手に、自律的に動き続けるわけじゃなくて、離れた場所から遠隔操作をしてる」


 その説明を聞いて、思いつくことがある。

 闘技場のゴーレム戦で、相手の入場口である北の入場口の上方から、なにかしらの魔力を感じていた。

 なるほど。

 その場所から、どなたかの魔術師がゴーレムを操作していたのね。

 日頃からの違和感の正体が解明。

 スッキリ。


 ノムはゴーレムに視線を向けたまま、動作の仕組みを説明し始める。


「ゴーレムに対して、エーテルの魔力とアンチエーテルの魔力を流す。

 それらの魔力を、ゴーレムの機構に用いられる材質とうまく反応させることで、ゴーレムを動かす。

 と。

 なんかの本に書いてたような。

 なかったような。

 わからんないけど」


 心ここに在らずのノム。

 まるで、魂をゴーレムに吸い取られたような。

 どうやら、すごく面白いらしい。

 彼女の純真無垢な瞳がそれを物語る。

 蘇る童心。

 なんかかわいい。


「よくよく考えれば。

 ゴーレムを作ってるなんて話、ここ以外では聞いたことないよね。

 3魔女の時代、月の構成員の魔術師さんが作っていたっていうけど」


「フローリア、だったっけ」


「そう、フローリア。

 でもそれ以降は、ゴーレムに関する記述のある文献なんて見たことないし。

 やっぱり、こういう物体制御の魔術は、難しいんだよね」


「・・・。

 動かしてみたい、これ」


「いや、だめっしょ。

 怒られるって」


 いくら魔術制御に優れるノムであっても、これだけの数のゴーレムやらメカニカルな何かしらが密集する場所で適当なことをやらかせば。

 ・・・。

 これ多分、結構、高価だよね。

 借金地獄の入り口が見えるぜ。


 そんな私が鳴らす警鐘を、彼女が聞くはずはあろうか、なかろうか。


「ゴーレム!

 エレナを、ちょっとだけ()っちゃえ!」


「いや、ちょっ!

 危ないって!」


 茶目っ気たっぷりで、『()っちゃえ』とか言うノムちゃん。

 いくら可愛くても、殺しちゃダメ。


「冗談」


「に聞こえない!」


 彼女なら、数分もなくゴーレムを自由自在に操作し始めるだろう。

 改めて言うが、彼女の持つ魔力を精密制御する技術は、間違いなく世界レベルだ。

 ノムの操るゴーレムが、私の関節をキメる映像が脳内に浮かぶ。

 その映像内の彼女はとても楽しそうだ。

 ドSですね。


「おい!」


 突然の呼び声が、自虐的な妄想をかき消す。

 キョロキョロ。

 この声は何処から・・・?


「勝手に触るな」


 ・・・?

 ・・・?


「エレナ、前」


 ノムの助言でやっとこさ気づく。

 想像想定よりも対象が小さく、発見までに時間がかかってしまった。


「子供?」


「子供っていうな」


 目の前で明らかな不快感を示す『おとこのこ』。

 その体の非成熟具合に相反し、私をまっすぐと睨みつける瞳は鋭い。

 間違いない。

 第一印象は最悪、相互(そうご)に。


「ここは闘技場関係者以外立ち入り禁止なはずだが」


「イモルタに連れてきてもらったんだよ」


 イモルタが探していた『シエル』が、この男の子である前提で話を進める。

 そんな気がする。

 ならば、逆にこの子は、イモルタのことを知っているはずだ。

 たぶん。

 予測の正誤は、この子の返答で判断する。


「あいつ、誰も連れてくるなって言っておいたのに。

 んで、何の用?

 俺、忙しいんだけど」


「イモルタは『武器を仕入れに来た』って言ってたけどね」


「それはわかってる。

 お前達は?

 社会見学か?

 それとも遠足か?」


 刺々しい質問。

 ある意味、途中からは工場見学で正解なのだが。

 本来の訪問目的を伝えるべきであろう。


「シエル君が、武器を作るのが上手だって聞いてですね。

 よろしければ、私の武器を作ってもらえないかなー、って」


「わかった!

 (こころよ)く引き受けよう」


「おおっ!」


「と、言うとでも思ってる?」


「まあ、そうだろうね。

 出会って5秒くらいでそう思ったよ」


 逆にここで従順さを見せてきたら、キャラ不安定だねってなるレベル。

 ここまでの彼との会話で、それなりのキャラ設定が完了している。

 クール。

 頑固。

 1つのことに集中するタイプ。

 周りを気にしない。

 ちょっとクソガキ。


 さて、ここからどうやって、武器開発まで交渉をもっていくか。

 それとも諦めるか。

 ・・・。

 諦めようか。

 イモルタに頼もうにも、慕われてなさそうだし。

 たぶん無理かな。

 帰ろう。


 そんなことを考え、ぼーっとしていると、当のシエルくんは、私の持つ武器に興味を示しだした。


「今どんな武器使ってる?

 緑は。

 まあ普通のだな」


「一蹴だね」


 どこの武器屋にでも置いてある、そこそこの値段がして、そこそこの能力がある槍。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 あと、人に名前とか聞かないの。

 私、緑なの。


「青はー」


 次の色に移ったシエルは、青髪の武器を眺め始めた。

 その後、徐々に彼と杖との距離が近づいていく。


「聖杖サザンクロス!」


「わかる?」


「1世代昔の名工、リジド・カルバナルの最高傑作の1つだ。

 中心のコアと4つの十字が、書籍で見たものに酷似している。

 いや、似ているだけ、なのかもしれないが」


 私の市販の槍のときとは明らかに異なる反応。

 この子、武器マニアなの?

 興奮対象なの?


 そんな興奮状態のシエルは、ノムの持つ聖杖に熱視線を送ったまま。

 しばらく黙りこくっていたが。

 考えがまとまると、ノムと向き合った。


「ちょっと、見せろ」


「む」


「見せて」


「む」


「見せてください」


「む」


「見」


「む」


「何と言っても、だめか」


 何と言っても顔を縦に振らないどころか、横にすら振らないノムが、否定語と思われる『む』を連発する。

 人に渡すことができないほどに高価で高尚な杖なのだろうか。

 その聖杖(せいじょう)なにがしは。


「・・・。

 交換条件」


 おお!

 ノムが(つぶや)くその言葉が意味することは!

 つまり、交換条件でエレナの武器を作ってくれ、ってことだよね!


「ゴーレムを、動かしてみたいかも」


「違うしっ!」


「全然いいけど」


 私のツッコミが空間を切り裂く。 

 そんなことお構い無しに、ノムは何の躊躇(ためら)いもなく聖杖(せいじょう)をシエルに手渡す。

 即、分析が開始される。


「中心のコアは、希少宝珠で封魔のエレメントでもある『封神結晶』だな。

 これだけでもその金銭的、魔導工学的な価値は計り知れない。

 でも、それよりもこっちのほうがすごい。

 このコアの周りの4枚の半透明の板。

 よく見ると、模様が見えるだろ。

 これは魔導回路っていう魔導工学の技術で。

 まあゴーレムにもこの技術が用いられているんだが。

 ゴーレムで使う回路に比べて、板の大きさは小さいのに、その回路の規模はとても大きい。

 この小さい板の中に、とても微細な別の物質の線が埋め込まれている」


「そうなんだ」


 なんかすごい。

 そんな感想です。


「でも、最も重要な部分は、これ以外の場所なんだ。

 青いの、わかる?」


「筐体の素材?」


「そう。

 筐体とは、武具の内、刀身やコアなどの魔導要素以外の部分、全てを指す言葉。

 でも、さらに細かく言えば。

 着目したいのは、柄、シャフトの部分」


「確かに。

 武器のシャフトは、術者とコアを結ぶ重要なパーツ。

 この部分の品質が悪いと、術者とコアの魔導距離が離れてしまって、魔力制御の効率が下がる。

 魔導技工士の能力が一番現れるのはシャフトの部分、っていうよね。

 特にグリップの部分」


「そのとおり。

 まあ実際、それがどのようにして実現されているかは、『中』を見てみないと、完全にはわからないけど。

 ・・・。

 ばらしてみたいな」


「ばらしたら、シエルをばらばらにするから」


「冗談だよ」


 ノムの危なっかしい冗談を()なし、笑みを浮かべる少年。

 恐れる様子は全く見せず。

 肝、座ってんな。


「でも詳しいな、青いの。

 名前なんていうの?」


「ノム、っていう」


「ノムね

 これ、ありがとう」


「ぬ」


 シエルは満足したようで、杖をノムに返す。

 どうやら2人の間に信頼関係が構築されたようで。

 蚊帳の外感、半端ない。


「ゴーレムを動かしてみたいんだったよね。

 ここじゃ危ないから。

 闘技場に行く?」


「いいの?」


「交換条件、だろ」


「ありがとう」


「で。

 私の武器の件は・・・」


「それはいやだ」


 だんだん友好的になってきた、と思っていたが。

 子供って言ったの、まだ根に持ってるの?

 心の中でクソガキって言ったの、バレてるの?


「今は、武器は作らない。

 イモルタに武器を流しているのは、昔、世話になったから。

 それだけ。

 それに。

 ノムの武器以上のものは、俺には作れない」


「いやいやいや。

 そんなすごいのじゃなくっていいからさ。

 簡単なことなら、手伝うから」


 ここまでのノムとのやりとりから察すると、彼が本当に魔導工学的な天才である可能性が高い。

 食い下がる価値はあると思われる。

 へりくだる。

 年下相手でも。


 すると、そんな私のエセ真剣さが伝わったのか、シエルが私がを見つめ返してくる。


「緑、名前は?」


「エレナ」


「・・・。

 やっぱり。

 アシュターが言ってたのはおまえだったのか」


 よくわからんが。

 何か(つぶや)いて、1人で納得されてしまった。

 一通りの考慮が終わると、シエルが笑みを浮かべる。

 何か。

 そこはかとなく。

 嫌な予感がする。


「そういえば。

 ノムがゴーレムを動かすにしても、相手がいないとつまらないよな」


「んー、別にそこまでしてもらわなくても。

 まあ、いればいるに越したことはないけど」


「ゴーレムは初心者が扱うと結構危ないんだ。

 俺達も、対戦相手にできるだけ致命傷を負せないように配慮してるんだが。

 だから適当なやつ捕まえてとか、闘技場スタッフ相手にってわけにはいかない。

 死の可能性あり。

 だから」


「そっか!

 私も、エレナ相手なら全力でいけるかも」


「なんでだよ!!」


 納得すんなよ!

 『死の危険性あり』のフレーズの後に、『エレナなら』っておかしいだろ!


「でもお前、そこそこ強いんだろ?

 それに、ちょうど俺も『改良版』を試してみたかったし」


「私は実験材料か」


「交換条件。

 俺がお前の武器を作ることに時間を割く。

 お前は俺の実験のために時間を割く」


「まあ。

 一応、お願いしてるのはこっちだから。

 それでいいけど。

 ちゃんと手加減してくれるよね」


「嫌」


「ノムには聞いてない」


「魔術戦では、いつも手加減して本気が出せなかったけど。

 今回は本気が出せそう、かも」


 ワクワクが溢れ出す先生。

 間違いなく。

 シエルよりも、こっちのほうが危険だ。






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