Chapter14 六点収束魔術 (1)
『デュアルフェニックスシュート』
高圧収束された炎の魔力で形作られた2匹の不死鳥を飛ばし、相手に衝突させて大爆発を巻き起こす炎術。
『ユニヴァース』
空間中の多数地点に、雷、光、封魔の魔力を収束限界を超えて収束させて暴発させる多属性法陣魔術。
『アブソリュートゼロ』
強大な封魔術の力で、空間中の魔力をすべて無力化する特殊な法陣魔術。
「例えばさー。
ノムってこんな魔術も使えたりするの?」
これらの魔術は、3魔女の時代の各女王が使う奥義。
そんな空想上の産物を、果たして実際に実現することができるのか。
「できる、できないじゃなく、『威力が足りない』ということになるはず。
炎を不死鳥の形に成形ものを2つ作る。
そのこと自体は可能。
だけど、それが高い威力を持つかは別の話。
単純にバーストを放ったほうが強い。
華の魔女シルヴィアが使うそれと、同列では括れない。
ただ似せただけじゃ、本物とはいえない」
たぶん本物といっても誰も文句は言わないだろうが。
謙遜されているが、普段から十分に最強の魔女っぷりを発揮している。
「でも、3人の女王じゃなくて、その構成員が使っていた魔術なら使えるかも」
「そんなのあるの?」
「それぞれ華術、月術、雪術と呼ばれる。
特に月術に関しては、魔導書が残っている可能性が高い。
でもその魔術の多くは、高等魔術に分類される、習得難度の高い魔術」
「そもそも『高等魔術』って、具体的にはどういう意味だっけ?」
「『高等』という言葉は、魔術習得の難易度を表すもの。
純術、つまり単純なバーストやエーテルと同レベルの習得難易度の魔術を『初等魔術』。
三点収束魔術よりも難易度が高い魔術を『中等魔術』。
六点収束魔術よりも難易度が高い魔術を『高等魔術』と呼ぶ」
「ということは、私はまだ1つも高等魔術を使えないってことだよね。
六点収束って、まだ習ってないし」
「紅玲の召喚は、高等と言っていいレベル」
「なら、私もそろそろ六点収束を習得可能なレベルになりそうなの」
「その通り。
そろそろ話をしようと思っていたところ。
ちょうどいいから、今から話をしようか」
「おー!
ついに私も高等魔術師の門を叩くのか」
*****
「六点収束魔術は基本的に三点収束と同じ。
6個コアを作って合わせることで実現される」
「まあ、そりゃーまーそーだよね」
「ただし、『6個の点を作る』というイメージよりも、『上三角の三点収束と下三角の三点収束を合わせる』というイメージのほうがやりやすい。
ここまで何回も三点収束魔術を発動してきたから、それを2つ作って組み合わせてやればいい。
ちなみに、上三角と下三角が合わさると六芒星が描かれる。
それ故に、六芒星は高等魔術、さらには『魔術』を表す記号として使われるようになったの」
「なるほど。
たしかに魔法といえば六芒星ってイメージだよね」
「六芒星の各頂点にコアを作り収束。
と、言葉で言うのは簡単だけど・・・。
でもこれ、想像以上に難しい。
収束時のコアの反発力は、三点のときを大きく越える。
また、収束できる絶対魔力量も増えるから、その分さらに反発力が大きくなる。
魔力が多い分、収束するのに時間もかかる。
だから。
『補助収束』を行う」
「『補助収束』・・・。
ってはじめて聞くな。
名前どおり収束を補助する、みたいな感じ?」
「説明する。
例えば、エレナがトライスパークの魔法を使うとき、エレナはトライスパークを使うことを意識して、トライスパークを使うために魔力を収束させる」
「もちろん」
「補助収束というのは、ある魔法の使用に限定して魔力を収束するのではなく、任意の魔法を使うことを想定し、使用する魔術を限定しないで魔力を収束すること。
ただ単純に魔力、プレエーテルを集めるイメージ」
「へー、そんなことできるんだ」
「難しいけどね」
でました、いつもの『難しいやつ』。
もう、なんでも来いって感じです。
その困難、時間で解決してやる。
「うーん、また特訓する必要がありそうだね」
「せっかくだし、今からやる?」
無言の相槌で返す。
そしてすぐに魔術発動の姿勢をとる。
一発で成功しないかしら。
「とりあえず、何にも考えないで魔力を集めてみて」
「てぅぃーっす」
無心。
その言葉を心に抱き、魔力を集める。
何かしらの魔術。
一瞬浮かびそうになる、そのイメージが雑念となる。
「ストップ。
・・・。
スパーク」
「なんでわかんのさ!」
まあ、確かに。
収束された私の魔力は、そこそこの量の雷の魔力を含んでいる。
「スパークとか、特定の魔法を放とうとしたらだめ。
何にも考えたらだめ」
考えているつもりは、1mℓも1mgもないのだが。
脳内で思い描くように現実が動かない。
「うーん。
じゃあ、もっかい」
再び魔力収束を開始する。
が。
「ストップ。
・・・。
スパーク」
「いやいや、今回はほんとに何も考えてないって」
とか言い訳するも、確かにスパーク。
若干、雷の魔力に変換されている感じがする。
これ、想像以上に難しいぞ。
「今までは、『できるだけ速く発動したい』という意志を持って魔法を発動していたはずだから。
とにかく速くエーテル変換や、四元素変換を行うことが癖になっている。
だから、属性変換をしないでプレエーテルの状態で止めることが難しい。
でも。
今のは今ので補助収束にはなってるの」
「どういうこと?」
「『雷の魔力を補助収束した』と言えるの。
これを『属性限定補助収束』っていう。
属性非限定の場合よりも簡単。
でももちろん、その状態から他の属性に変換することはできない」
「雷の補助収束をしてるって相手に気づかれたら、雷術に対する身構えをされちゃうしなー」
「だからこそ、属性非限定の補助収束を練習しておくのがいい」
「ぬーん。
じゃあ、もっかいやる」
「・・・・・・。
だめ。
スパーク」
「だめだ」
*****
「・・・。
・・・・・・。
ちょっとスパーク。
でも、この程度なら全然問題ない」
「おー!
意外とできた」
訓練開始から5時間程度で、及第点をいただけた。
数日はかかるかなー、と思っていたが。
「ちなみに、プレエーテル70%、スパーク15%、魔導8%、封魔3%、光2%、炎1%、風1%って感じ」
「そこまでわかるのかよ!」
「あんまり正確じゃないけどね。
このように、プレエーテル以外の魔力が含まれる場合、発動魔術の属性以外の魔力は『雑味』成分となる。
言い換えると、その分魔力を無駄にしているような状態。
だから、理想はプレエーテル純度100%が望ましい」
「そこまでの境地に達するのは、まだまだ先になりそうだね」
「むー、でもこれは時間かかると思ったのになー」
自身の予測が外れ、ムスッとした表情の先生。
いや、そこ喜ぶところですよ。
「かかんなくていいから。
繊細な魔術制御が必要で、精神的にすごく疲れたし。
あーでも、まだ本題の六点収束魔術習得が残ってるんだよなー」
「六点収束の習得開始は、もう少し魔力が強くなってからがいいかな。
闘技場で、もう少し修行してきて。
魔導学概論に習得開始条件を書いておくから。
炎の六点収束魔術『ハイバースト』を覚える。
『ハイ』は『高等』を意味する。
いつものとおり、条件が整ったと感じたら私に声を掛けて」
「うーん。
またしばらくは闘技場メインの生活になりそうかな」
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