Chapter13 幻魔召喚魔術 (2)
今まさに、このとき。
京の町を飲み込まんとする妖弧。
その妖怪は、過去数回この世に姿を現し、その度に、暴虐と享楽の限りを尽くしたのだ。
しかし、その独善的な支配は永遠ではない。
妖弧が跋扈せんとするを許さなかった、退魔師達の働き。
それがあったからこそ、今日の平穏があるのだ。
だからこそ。
その退魔師の一人が残したこの巻物が、
京、いや和泉を危機から救うための術を記してくれているはずだ。
多大な期待、希望を込め、巻物を開く。
それは記す:
妖弧は九つの尾を持つ。
その尾は、妖弧の魔力の蓄積庫となるものだ。
かつ、その複数の尾は、個々、異なる意味合い、特性を持つ。
この尾に、それぞれの特性に対応する赤橙黄緑青藍紫、白黒の9つの色を割り当てる。
まず、第一第二、白と黒の尾。
これらは、妖弧の生命力を司る。
二尾は、そのどちらかが欠けてもならず。
二尾の内の一尾を落とすことで、妖弧の命を絶つことができる。
しかし、その他の尾が残った状態でこの尾を断った場合、
その残った尾が生命の尾に成り代わる。
つまり、妖弧を討伐するには、その尾の数を一以下にする他ない。
白黒の二尾は、それ自体に戦闘の能力は持たない。
それゆえ、二尾しか持たぬ妖弧は、恐るるに足らず。
魔力を吸収し、三つ目の尾を持つことで、その脅威を急増させる。
第三、赤の尾は、妖弧に武神の力を宿す。
これにより妖弧は、武術と魔術の力を手にし、敵対者への反抗を行うようになる。
さらに、これに加え、元より持つ炎の力が絶大なものとなる。
第四、橙の尾は、妖弧に式神を扱う能力を付与する。
自身より力の弱い妖怪を使役することが可能となる。
これにより妖弧は兵力を持つ。
第五、黄の尾は、妖弧に幻術を使う能力を与える。
この幻術が含む範囲は、自身の変化の能力に始まり、人の感情を操作する術までを含む。
これにより妖弧は、人を騙し、操る能力を手にする。
第六、緑の尾を持つことで、妖弧は天変地異を操る。
風を操る能力で、人の兵を翻弄し、民衆を恐怖で支配する。
第七、青の尾は、魔を封じ打ち払う能力に当たる。
つまり、退魔師の封魔術法に対する高い防衛能力を妖弧に与えることとなる。
第八、藍の尾は、妖弧に分身の能力を与える。
幻術による『見せ掛け』ではない、魔力的脅威を持った分身は、妖弧の戦闘能力を倍増する。
第九、紫の尾は、妖弧に闇と死の能力を与える。
妖弧が九つ目の尾を持つことは、この国の死を意味する。
これら色彩を持つ尾は、それが紫に近づくほどに、その脅威を増す。
故に、妖弧が九つの尾を取り戻す前に、これを退けることが望まれる。
打ち払われた妖弧は、岩と化し、無力化する。
しかし、岩となった妖弧は魔力を吸収し、その力を取り戻そうとする。
そして、その岩が破壊されるとき、妖弧は復活する。
妖弧の輪廻を断ち切る、その手立てが求められる。
が、それは私には見えず。
ただ、この岩と化した妖怪が、復活せぬよう。
見守ることしかできない。
・・・
巻物は、ここで終わっている。
今、この時代に存在する妖弧は、麗しく妖艶な女の姿。
そしてそれが変化する前、狐の尾の数は五つであった。
第五、黄の尾の幻術の能力で、我が国の帝は操られ、
第四、橙の尾の能力で操る妖弧の僕が、国の官職として入り込んでいる。
第六以降の尾を取り戻すその前に、決着をつける必要がある。
そして、願わくば。
妖弧の輪廻を断ち切る、その術を。
・・・
・・・
・・・
「と、
いうわけで。
宿に帰ってきて賞品の書籍を読んでいるのですが。
・・・。
うーん。
けっこう面白いかも」
この書籍の主人公は、和泉の国の退魔術師。
九尾の妖弧が国を乗っ取り、そして完全に力を取り戻そうとすることを妨げんとしている。
狐が黄の尾を取り戻し、絶世の美女に化け、国の帝をたぶらかす。
この妖弧。
悪者ながら、すごくいいキャラをしている。
非常に独善的で快楽主義。
その一方、気まぐれで優しさを持つこともある。
凶悪な戦闘能力と、女性としての品格も併せ持つ。
どこか憎めない魅力を持っているように感じる。
そんな感想等あれこれ考えていると、徐々に現実に引き戻される。
お手製の栞を挟み、書籍を閉じる。
・・・
何か。
何かがおかしい。
その何かを探るため、思考を巡らせる。
その答えは脳内にはなく。
今この場所にある。
見える何かではなく、第六感で感じるものに異常を感じる。
これって・・・。
「ノム!
・・・。
って、いないし」
「ノムは今帰ってきたよ。
どーしたの?」
「これ」
今、私が読んでいた本。
その赤色の表紙が彼女に見えるように掲げる。
さすがの先生は、一瞬で私が言わんとすることを理解する。
「魔力が・・・。
本から魔力を感じる」
「私も今気づいた。
さっきまでは、まったく感じなかったよね」
博識の先生が押し黙り、考え込む。
私は、その考察の結果を待つ。
「感じなかった。
・・・。
たぶん、魔力が集まってきたんだと思う」
「集まってきた?
なんで?」
「わからない。
おそらく、ある程度の魔力を持つ人間が所持すると、魔力が集まる。
そんな仕組み、なんだと思う」
「そんなことって、あるの?」
「ありえない話ではない。
この書籍を作った技工士が特に有能であったか。
特殊な魔力がこの書籍に封じられたか。
信じられないことには変わりないけどね」
グリモワールではない。
と見せかけてグリモワールだった。
この書籍は、当たりだ。
良い意味か悪い意味かはわからないが。
「もしかして、危ないかな」
「わからない。
でも今の時点では、集まっている魔力量も大きくないから、問題ない。
もし危なくなったら、私が処理するから」
「んーじゃあ。
危なくなる前に読破しちゃおうかなー」
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