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Chapter12 魔導書 (4)

*****






 トーナメント、当日。


 闘技場の外に設置されたチケット売り場には行列ができ、所々に人だかりができている。

 闘技場の前の太い街路には出店が並び、なにやら甘そうなお菓子やら、煌びやかなアクセサリーやら、武器防具やらが売られている。


 そんな日頃ない賑わいに、つい周りをキョロキョロと見渡してしまう。

 鎧を着た屈強そうな男、ローブを(まと)う魔術師、ガラの悪そうな若者、血の気の多そうな親父。

 このうちの何人かは、トーナメントの出場者かもしれない。


 ここで私は、特に人が密集している区画があることに気づく。

 そこには、大きな木製看板にトーナメント表が張り出されていた。

 どうやら優勝者を当てる賭けに(きょう)じているようだ。


 トーナメント出場の登録は前日に済ませてある。

 私の対戦相手もすでに決定している。

 出場するのはどうせ知らない人だけだから、トーナメント表にあまり興味はないが。

 初戦の開始時間と所属するブロックくらいは確認しておこう。


「エレナ、トーナメント表は闘技場の受付で確認できるから。

 早めに中に入ろう」


 私の思考を先読みしたノムから提案を受ける。

 彼女は何かしらの紙をピラピラしながら、それを闘技場の入り口の方に向けている。

 どうやらトーナメントの観戦チケットのようだ。


「何かアドバイスとかある?」


「相手の攻撃を先読みして、逆にこっちの攻撃は悟らせない。

 以上」


 すごく端的、だけどノムっぽい回答。

 まあ、対戦相手がどんな人かもわからないし、アドバイスのしようもないか。


 闘技場の受付の前まで来たところで、ノムは『上で見てるから』とだけ伝えて観客席に向かった。


 心配とか、あまりしてくれていない。

 というよりも、『心配する必要もない』といった感じか。


 それは私自身が妙に落ち着いているからかもしれない。

 トーナメント出場者達が並んでいる受付を見つめる。

 引き返したい気持ちは全く生まれない。


 全部倒す。


 そんな闘争心を心にしまい、私は受付へ向かった。







*****







「ミーティアです」


 紫の髪のいつもの受付のお姉さん。

 出場の受付が先か、今日の予定の確認が先かと考えていたところで、その両方ではないアクションを受ける。

 少しばかし予想外で、発言の意図を噛み砕けずキョトンとしてしまう。


「私の名前」


「あ、どうも。

 エレナです」


 今日まで、出場登録で何度も名前を記述してきたのだから、お姉さんが私の名前を知っているのは当然。

 それがわかっていても名乗ってしまった。

 それが礼儀かな、とか思ったのかもしれない。

 知らんけど。


 お姉さんはいつもどおりのニヤニヤした表情。

 露出した肩が艶ぽい。


「ついにトーナメント出場ですか。

 これでやっと、あなたの本気の戦いが見れますね」


 そう言うと、お姉さんは見覚えのある紙切れをうれしそうにピラピラさせた。

 トーナメントの観戦チケットだ。


「今日は私も観戦しますよー。

 結構楽しみだったんですよね。

 この半年で、あなたがどのくらい強くなったのか」


 闘技場の受け付け係として、この半年間お世話になっている。

 だからこそ、私の成長、絶対的魔力量が増えていくのを日々感じていたはずだ。

 期待以上なのか、期待以下なのか。

 それはわからないけど。

 だからこそ、あまり過度に期待されても困ったりして。


「期待させておいて、死んじゃったらごめんなさい」


「それよりも、逆に殺しちゃわないように気をつけてね」


 私の冗談に対し、お姉さんが冗談で返す。

 私は改めて、このお姉さんが只者ではないことを実感した。


 お姉さんから、トーナメントのルールと初戦開始時刻について説明を受ける。

 合わせてトーナメント表を確認。

 改めて、知った名前が書かれていないか確認する。


 イモルタと言う名前を見つける。

 武器屋のおっさんだ。

 それは、まあどうでもいいです。


 とにもかくにも、アリウスの名前がないことに安心。

 と同時に、少しだけ残念なような。

 そんな感覚が残った。







*****







「ひ・・・。

 人が。

 観客が、すごい」


 トーナメント初戦が始まる。

 私は今、闘技場のステージの上。

 西の入場門から入場し、東の入場門から相手が来るのを待つ。

 ステージを取り囲む観客席は半分以上埋まっている。

 人の壁が作り出す圧迫感。

 押し寄せる歓声の波に体が震わされるようだ。


 これだけの人の中から、ノムを探し出すのは不可能に近いだろう。

 と思ったら。

 私の正面、東の入場門の真上当たりに、青髪を発見した。

 なかなか良い席を確保されたようで。


 その隣にも見覚えのある人が座っている。

 先ほど話をした紫髪のお姉さん、受付嬢のミーティアさん。

 目が合ったようで、大きく手を上げて応援の声をかけてくれる。

 さらに隣には武器屋のおっさん。

 は別にいいです。


 観客席全体を見渡す。

 と、桃色の長い髪が目に入り、強制的に視線が止まる。

 エルノア。

 アリウスも一緒だ。

 ・・・。

 とりあえず、手ー振っとくかなー。


「ただいまから。

 Cランクトーナメント1回戦を始めます」


 そのアナウンスで前方を向き直す。

 対戦相手は、すでにステージに上がっていた。


 相手は、おっさん。

 筋骨隆々とし、肩当て、胸当てなどの防具を身につけている。

 武器は剣。

 大剣ではなく、普通のサイズの剣。

 その点からすると、特に魔術が得意なようには思えない。

 漏出魔力の感じからも、魔力を隠しているようには思えない。


「相手は、女。

 しかもまだガキか。

 ついてるな。

 さっさと終わらせるか」


 突っ込んでくる。

 確率99%ってとこで。


「両者前へ」


 そのアナウンスの時点でおよその対策は完了。

 本当に。

 信じられない程に。

 負ける気がしない。


「はじめっ!!」


 試合開始のアナウンス。

 トーナメント戦の幕が上がった。









*****











「勝負あり!!」


 予想どおり突っ込んで来た相手に対し、放った1発のトライバーストの魔術が勝負を決めた。

 完全に油断しきった相手は、何の躊躇(ためら)いもなく爆撃を直撃してくれた。

 さすがに次からはこうはいかないでしょうが。


 ただ、観客達にとって、私の勝利は予想外だったようで。

 私の勝利とともに大きな歓声が上がった。







「勝者の方は、2回戦開始までロビーか観客席でお待ちください」


 西の入場門まで戻ったところで、係員の人が声をかけてくれる。

 さて、ノムのところにでも行くかな。






*****




「どーだった?」


「かっこよかったよー」


 ノムに対する私からの質問に対し、ミーティアさんが答える。


「エレナ、強いね」


「ミーティアさんのほうが私より強いじゃないですか」


「わかる?」


「わかります」


 このお姉さん。

 たぶん、アリウスよりも強い。

 かすかに漏出する光の魔力とその容姿が、彼女の戦闘スタイルを暗示する。


「ノム的にはどうだったー?」


「相手が雑魚すぎてわかんない」


 ある意味予想どおりの感想。

 まあ、そりゃそうだ。


「これなら、初出場ながら初優勝できそうだね」


「まあ今回は無理だがな」


 そんなことを言うのは、武器屋のおっさん、イモルタだ。

 ニヤニヤしながら少し間を空けてその理由を説明する。


「俺も出てるからな」


「エレナ、不戦勝が1つ増えただけ」


 先生の毒舌攻撃。

 仲が良いのやら悪いのやら。


「言ってろ。

 怪我しても文句言うなよ」


 そう言って、いつも通りのニヤニヤした表情で私を見つめてくるイモルタ。


「お手柔らかに」


 特に意味のない返答。

 彼もまた、先ほどの私の戦いを見ていたはずだ。

 だからこそ、手を抜いてくれるはずがない。

 それでも。

 ここでこの人に負ける未来は見えない。






*****






「エルノアさん、来てたんですね」


 ノム達との会話の後、私は先ほど見つけていたエルノアの元を訪ねた。


「アリウスが、今日エレナが出場するかもしれないと言っていたから。

 見に来てみたの」


「お前の戦術も見ておきたかったしな」


「それ、やだなー」


「術師としては当然のことだ」


 かと言って、手を抜くわけにはいかないし。

 仕方なし。

 今度アリウスがトーナメントに出場したときに、そのぶん分析してやろう。


「私、勝ち抜けそうっすか?」


「まあな。

 ・・・ただ」


「今やってる人は、少し厄介よ」


 若干緑がかった黒いローブを身にまとい。

 先端に緑色のコアが取り付けられた槍からは、殺傷力を持った風が生み出される。

 風圧。

 風の刃。

 風の矢。

 その風は様々な姿に形作られ、相手を翻弄する。


 そして、集中の切れた相手を、容赦ない槍の一撃が襲う。


「げっ、やられた。

 あー、相手の人大丈夫かなー」


「おそらく、全治2ヶ月程度だな」


「とんでもないっすね」


「当たり所が悪かったら死んでたわね」


「2人して、私のこと脅してるんすか」


「もしエレナが死んだら、亡骸は私が引き取ってあげるから」


「エルノア、黒いオーラ出てるよー」


 天使のような笑顔で冗談を言うエルノア。

 あなたが言うと、その冗談、笑えないです。






*****

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