表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/94

Chapter12 魔導書 (2)

 図書館に来ました。

 来るものを拒まない解放された大きな扉の前で見上げると、どれだけ大きく絢爛(けんらん)な建物かがよくわかる。

 この図書館は闘技場オーナーの所有するものであるそうだ。

 そのオーナーが、どれだけの富を有しているかが(かんが)みられる。


「エレナ、貸し出しの手続きを先にやろう。

 名前とか書いて貰う必要がある」


 了解~。






*****






 貸し出し手続きを終えた私たちは、図書館の中を一通り見て回ることにしました。


「いろいろな本があるな・・・。

 魔術の基礎の本とか。

 炎術師入門とか、炎術による魔導基礎習得とか、炎術大全とか。

 ・・・。

 炎術ばっかだな」


「エレナ。

 今からエレナに必要そうな書籍をピックアップしていくから。

 メモを取っておいて」


「ぅいっす」


「本棚の順に見ていくけど。

 ・・・。

 まず、このあたり」


「歴史書かー」


「冒険者として旅をするなら、世界史を知っておくと便利なことが多いの。

 まあ最初はざっくりした内容だけ知ってればいいから。

 エレナ、今はどれくらい知ってる?」


「うーん、有名な時代の話なら。

 まずは、『マリーベル統治時代』。

 凶悪な魔物が世界各地に蔓延(はびこ)り、人類がそれに(おび)えながら暮らしていたとき。

 救世主マリーベルが、それらの魔物を退治し、世界の平温が保たれた」


「うんうん」


「次が、『三魔女統治時代』。

 雪、月、華の3人の絶大な魔力を持つ女王が世界を三分して統治していた時代。

 まあ、雪の女王は北部の雪の降る僻地に住んでたから実質は二分。

 これはまさに今本を読んでるし、話し出したらきりがないかも」


「ぬ」


「次が『魔石戦争時代』。

 世界が一番破滅に近づいた時代、と言われている。

 ある闇魔術師が他の闇魔術師達を操り、世界を手中にしようとする。

 それを、聖騎士とよばれる王国の魔導騎士が、マリーベルが残したと言われる12個の魔石の力を借りて撃退した。

 今私達が無事に生きていられるのは、彼らのおかげとも言える」


「そうかも」


「その後は特に何もなく平温。

 表歴史的には。

 みたいな感じかな」


「エレナ、結構詳しいね。

 歴史好き?」


「そうかも。

 神話はもっと好きだけどね。

 子供の頃にいっぱい読んだし」


「神話関連の本も、ここにはいくつかあるみたい。

 あと、このあたりには今の世界情勢や世界中の遺跡の本もあるから。

 余裕があるなら、そういう本も読んでみるといい」






*****






「次はこのあたり」


「植物とか生物とか医学とか、治癒術の本もあるね」


「一番重要なのはこれ」


「危険な魔物図鑑、と書いてます」


「遭遇率と魔物の強さから、危険度を算出してるの。

 闘技場で相手となる魔物も載ってるから」


「なるほど!

 それは確かに重要だ」


「対人の場合は前もって相手を知ることは難しい。

 けど対魔物の場合は、こうやって知識を前もって得ておくことが可能。

 特に見てもらいたいのが、この部分」


「おー!

 弱点属性が書いてる!

 この本は一番最初に読んでおいた方がよさそうだね」






*****






「次はここ。

 魔導工学関連の書籍。

 魔導工学とは、魔力エネルギーを制御する媒介、道具や機械などについて科学する学問。

 主に武器や防具を作るための知識を学ぶことができる」


「私、武器を作るつもりはないけどね」


「武具を作らなくても、その性質を知っておくのは重要。

 他にも、鉱石や宝石の本もあるから、読んでみると役に立つかも」






*****






「最後にここ。

 魔術関連の書籍。

 魔術の基礎を説明するもの、各属性ごとの魔術を紹介するもの、三点収束や多属性合成などの項目に特化したものなど、様々な書籍がある。

 この辺りの本は私が詳しいから。

 私がいるときに聞いてくれれば、良い本を教えるから」


「『雷術・超完全版』みたいな本ないの」


「どうだろう。

 雷術をメインで使う人が少ないから。

 たぶんないかも」


「うーん。

 一応探してみるかなー」


「エレナ、今から自由行動ね。

 読みたい本を自分で探してみて」


「わかったー」






*****






 とりあえず、危険な魔物図鑑を見てみることにしたのですが。


 エヴィルデーモン。

 闇魔術を使いこなす凶悪なデーモン。

 倒せたとしても、闇魔術の後遺症が残り、死に至ることがある。


「怖えーよ」


「エレナ!」


 小声ではあるが、はっきりと聞こえる私の名前を呼ぶ声。

 その声に反応して振り返ると、自由行動中であったはずのノムが、私の至近距離まで近づいていた。

 その表情から、ふざけた応答をすべきてはないことが読み取れた。


「どうかしたの?」


「後ろ、見て」


 ノムを壁にするようにして覗き込む。


「・・・。

 げっ!」


 体を包む漆黒のローブ。

 そして、それとは対照的な長く美しい桃色の髪と横顔。

 エメラルドグリーンの瞳。

 昨日の、死霊術師の女性だ。

 これだけ近くにいながら、全く気づかなかった。

 彼女はノムと同レベルにオーラセーブの能力に長けているのだ。

 そう確信した。


 一通り事態を把握したところで、ノムを見つめ、『どうしよか』という気持ちを表情で伝える。


「たぶん、さっき来たんだと思う。

 ・・・。

 気づかれないうちに帰ろうと思うんだけど」


 至極ごもっともな選択。

 世の人にとって、闇魔術とはそれほどに危険なものなのだ。

 その事実は、先ほどのエヴィルデーモンに関する解説文からも明白。

 そして、死霊術はその闇魔術の上位にあたると言っても過言ではない。


「ノム」


「何?」


「彼女に、会ってきたらだめ?

 昨日のこと、もう一回ちゃんと謝っておきたいし」


 死霊術師の女性の持つ温和な雰囲気がそうさせるのか。

 はたまた、私の頭がおかしいのか。

 自分でもよくわからない。

 ただなんとなく。

 また会話して見たい。

 そう思ったのかもしれない。


「・・・」


 ノムは難しい表情で私を見つめる。

 否定の結論も肯定の結論もすぐには出せず、その答えを探しているようだ。


「それに、こんなところじゃ魔力を開放できないし。

 攻撃を仕掛けてきたりはしないと思うんだよね」


「でも。

 死霊術師は危険すぎる」


 私の説得を噛み砕いた上で、ノムは否定の結論を出した。

 同時にノムも危険になる可能性がある以上、これ以上強い説得はできない。

 ノムの選択に了承したことを示すため、微笑みの表情で彼女を見つめる。

 その表情を見て、ノムの緊張が少しだけ緩んだように感じた。


 昨日、そして今のノムの対応から、改めて死霊術師というものの恐ろしさを感じる。

 だからこそ、死霊術師という存在の、その詳細が気になった。


「死霊術師って死体を操作したりするの?」


「それもできますけど。

 それ以外にも、死者と会話したり、死体から魔力を吸収したりできます」


 ノムって詳しいな。

 という思考の直後に戦慄が走る。

 それはノムも同じだ。


 まるで瞬間移動をしたかのように、桃色の闇魔術師が退路を塞ぐ。

 聖母のような笑顔の温もりを、桃色の髪の間から見えるエメラルドグリーンの瞳の威圧感が冷却する。


「いつのまに!」


 いつになく、ノムから(あふ)れる漏出魔力。

 『そっちがその気ならいつでも殺ってやる』という気迫を感じる。

 それは間違いなく、闇魔術師の女性にも伝わっているだろう。


「大丈夫。

 危害を加えるつもりはないから。

 ・・・。

 でも。

 まさか一度会っただけで私が死霊術師とわかるなんて。

 あなた、すごい魔術師ね」


「そういうの。

 得意なので」


 『真実を知ったからには死んで貰うわ』というフレーズが脳内を支配する。

 そのせいか、彼女の言葉と笑顔を、どうしても信用できない。


「・・・」


「・・・」


 しばしの冷戦状態が精神をすり減らす。

 それに耐えられなくなり、私は今作り得る最大限の笑顔で女性に話しかけた。


「あの。

 エルノアさんでしたよね」


「はい。

 あなたの名前は?」


「私はエレナです。

 こっちはノム。

 今日は、黒髪の男性は一緒じゃないんですか?」


「いいえ、彼も来ています。

 あっちのほうにいますよ。

 彼に何か用があるの?」


「はい。

 昨日のこと、もう一回謝っておきたくて」


「それなら、直接会ってきたらいいわ。

 彼もあなたに危害を与える気なんかない。

 私が保証します」


「・・・」


 もしも彼女とノムが戦闘になった場合、ノムは私を(かば)いながら戦う必要があるかもしれない。

 私は戦力になるどころか、マイナス要素にしかならない。

 だからこそ、今私はここにいるべきではない。

 それはきっと、ノムも理解している。


「ノム。

 大丈夫かな」


 その選択で、きっと大丈夫だよ。

 そんな意思を込めた微笑みを、青髪少女へ向ける。

 その笑みを横目で見ていたであろう、その彼女から漏出する刺々(とげとげ)しい魔力が少しづつ減っていく。


「ふぅっ・・・。

 わかった。

 行って来ても大丈夫。

 ・・・。

 気をつけて」


 私を気遣う言葉を呟いたその瞬間だけ、視線が闇魔術師の女性から外れる。

 ノムと女性に小さく会釈をし、2人の元を離れた。






*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=721491859&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ