Chapter12 魔導書 (1)
雪の女王への謁見のため、訪れた僻地ノースサイド。
果てし無く広がる白銀の世界は、なぜここに人が住もうとするのかという疑問を与えてくる。
その疑問は晴れぬまま、美しく荘厳な城が姿を現す。
我が華の王国、アルトリア城とも並ぶ程の。
その城の佇まいから、雪の女王の人となりを想像。
しばし考え込んでしまう。
「早く、中に入ろうぜフラン。
凍えるから。
死ぬから」
月の従者の女性、エステルが急かす。
彼女の長いポニーテールは、髪らしい柔らかさを失い、氷結し垂れ下がっている。
一方、私の従者ノルドは押し黙っている。
寒さに強いのか、はたまた我慢をしているのか。
計り知ることはできない。
さすがは、鉄壁の重騎士と呼ばれるだけはある。
重厚な扉を押し開けると、雪の従者らしき女性が、謁見の間へ案内してくれる。
城の中は、人間が住むのに支障がない程度の温度が確保されている。
ここでなら、しばし待たされても不快を感じることはなさそうだ。
雪の女王とは如何なる存在か。
月の女王クレセントの、あの神々しい姿を見た後であることもあり、否が応でも期待が高まる。
「だめです、リレス様!
そのような格好で人前に出られては!」
雪の従者らしき人物が制止する声も聞かず、雪の女王が姿を現す。
もこもこした白い寝巻き。
かぶったフードには、目らしき点が2つ付加されている。
雪だるま、がモチーフなのかもしれない。
幼さを感じさせる顔立ちは、低い身丈と相まって、子供らしさを演出している。
呆れる私とノルド。
女王の向こうにいる雪の従者と思われる女性は、軽く頭を抱えている。
その一方で、月の従者エステルは二ヘラとした表情だ。
「我は氷の女王リレス。
要件がないなら帰りなさい。
あっても帰りなさい。
面倒です」
私たち3人がこの場所に来た目的は、近日の中央大海の異変の調査協力を雪の王国に申し出ること。
その使命を果たすまで、引き返すことはできない。
「女王、お聞きください」
「華の人間、暑苦しい。
溶ける」
溶けねぇよ。
こいつハラタツ。
嗚呼。
ダメだ。
私のクールなイメージが崩れてしまう。
苛立ちが沸点を越えると、歯止めが効かなくなる。
これは私の性格の欠点。
私は、彼女と。
華の女王シルヴィアとは違う。
違うということを示さなければならない。
ヒートアップする思考をなだめ、再度雪の女王に向かい合う。
「深窓の女王よ。
私は華の女王シルヴィアの第一従者フラン。
このたびは、あなた様の国に協力を要請したく、遥々この地までやって参りました。
近日、中央大海近辺で、魔物が凶悪化する事案が多く発生しております。
その真因を探るため、あなた様の力をお借りしたいのです」
「・・・。
ごめん、聞いてなかった」
ああ・・・。
エステルに任せよう。
ここままだと、この城ごと全てを焼き尽くしてしまいそうだ。
ヒクつく口元と眉間を最大限抑えながら。
エステルにアイコンタクトを取る。
最高に面白いものを見たかのような。
こみ上げる笑いを最大限抑えようとする彼女と目が合う。
ああ。
本当に。
こいつもこいつで、イラダチスゴイ。
・・・
・・・・・
あれっ。
ここで終わりか。
物語の世界から抜け出し、深いため息をつく。
おかえり現実。
私が読んでいる書籍は、『三魔女時代』と呼ばれる時代の歴史書だ。
雪、月、華の3人の絶大な魔力を持った女王が、世界の広範囲を支配していた時代。
物語は、華の都アルトリア編から始まり、月の学術都市クレセンティア編へと続く。
私が今読んでいたのは、その続き。
雪の僻地、雪の女王が統治するノースサイド編の冒頭だ。
さて。
「ノム~。
次きが気になるんだけど」
宿屋のベットに寝っ転がりながら、同じく読書中である先生に懇願する。
私が読んでいた書籍は、この街にある図書館で、ノムが借りて来てくれたものだ。
図書館に行けば読めるのだが、闘技場で一定以上のランクを持っている人は、書籍の貸し出しサービスを受けることができる。
私はまだそのサービスを受けられないため、代わりにノムに借りて来てもらっている。
読書に没入している先生。
私の懇願は聞こえたのか聞こえなかったのか。
聞こえていてかつ無視しているのか。
ノムが読んでいるのは、そんなに面白い本なのか。
本のタイトルなんだろう。
そんなこんな考えていると。
ノムが反応を示した。
「雪の女王リレスは協力の条件として、城の地下の調査を要請するんだけど、協力したくないリレスは、自身の雪の精霊を操る能力を使ってフラン達の邪魔をするの。
結局は、雪の第一従者のユキの力も借りて、力ずくで協力させる流れになる」
「ネタばれしろとは言ってない。
次の巻を借りてきてほしいんだけど。
ベットの上で読みたいし」
「もうエレナも貸し出しサービスを受けれるランクだと思うけど」
「あれ?
そうなんだ」
ちょうど一緒に図書館に行きたいと思っていたところなの。
魔術関連の書籍について教えたいから。
貸し出しサービスの手続きもあるし、さっそく今から行こうか。
*****




