Chapter11 治癒術 (7)
「この人、強い」
私の先制奇襲攻撃を軽々とかわし、牽制の風術で応戦する相手。
その風術の解放魔力から、相手の魔力の高さを感じ取る。
先のデモンクリーチャーよりも断然強く、ノム先生より断然弱い。
そして、私よりも強い。
それなりに威力があったはずの私の三点収束雷術も、相手の魔導術で相殺されてしまった。
風術はまだマシ。
この魔導術はヤバイ。
まともに喰らったら、文字通り終わってしまう。
相手との間合いが取れた段階で、レジストの魔術を重ねがけする。
念入りに。
先ほどの魔導術が脳にこびりつき、足が前に出ない。
相手の出方を伺う。
動向を確認するため、武器の槍を構えたまま相手を凝視する。
同じく私を見つめる黒の魔術師。
相手も、こちらの出方を伺っているように感じる。
ひととき。
静かな時間が訪れる。
・・・
・・・
「ぬ」
「ぅおう!!!!」
完全に無警戒の後方から声がして驚嘆する。
瞬時に振り返ると、見知った青髪がちっちゃく手を上げていた。
「ノム、いたのか!」
気配がなすぎて、心臓に悪いわ。
反射的に攻撃するところだったぞ。
ひとしきり心の中で文句を言うと、心臓が徐々に落ち着きを取り戻す。
同時に、戦闘態勢も解除される。
そう。
もう、私が戦う必要はない。
「どうしてここがわかったの?」
「1年以上エレナと一緒にいたから。
近くでエレナが戦っていたら、それをすぐに感知できる。
なんか苦戦してるみたいだったから、心配になった」
「うー!
ノムー、大好きさ~」
気付いた時には、彼女に軽く抱きついていた。
衣服の中に隠されている彼女の筋肉は、柔らかさと逞しさを兼ね備えている。
「で」
本題に戻ろう、と言った調子で、ノムが1文字呟く。
「うん。
なんか、この人に最近見られてたみたい。
それに・・・。
ほんのちょっと、邪悪な感じがする」
私が彼に感じていた違和感の正体が少しだけ分かってきたような。
それが、『邪悪』という言葉で表現された。
「たしかに邪悪な顔」
「聞こえてるぞ」
いつも通り、切れ味抜群の返答。
クールそうな相手の男も、これにはさぞかしイライラしただろう。
「じゃなくて、闇魔術を使ってる感じがする」
「闇魔術!?」
違和感の正体が解明される。
その瞬間、納得感と不安感が同時に湧き上がる。
知識の乏しい私にもわかる。
闇魔術はまずい。
「エレナに執着する理由を聞き出す必要がありそうかも」
そう言うとノムは私を追い越し、男性と向かい合う。
やっちゃってください先生!
「だから話を聞けって!」
「わかった。
でも。
ちょっと、ぶっとばしてから聞くことにする」
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