Chapter11 治癒術 (6)
「おいっ!」
「ん?」
背後から、声をかけられた?
誰?
闘技場での10連戦でお疲れなので、呼び止めたりしないでほしい。
聞こえなかったふりをしよう。
「おまえ。ちょっと待て」
ダメだ。
ここままだと、駆け寄ってきて、肩に手をかけてきそうな雰囲気。
振り返り、顔を確認する。
この人・・・。
誰だ?
・・・
が、何か、見覚えがある気もしなくもない。
脳内の記憶を掘り起こす。
あー。
そういえば。
この前、目が合った。
会話をした訳ではない。
たまたま、目が会った。
それが、『たまたま』ではなかったとしたら
そうすると、最近感じていた誰かに見られているような感覚も、今声をかけられている理由も、全て説明がつく。
人間観察を開始する。
性別、男。
年齢は20歳前後か。
黒い短髪、目が隠れる程度の前髪、赤い瞳、痩せ型、黒っぽいコートを身につけている。
武器を持ってはいないが、魔術を使えそうな雰囲気を、これでもかと漂わせている。
あと、目つきが怖い。
『人を見た目で判断してはいけません』と誰かが言っていた気がする。
そんな教訓を無視させるほど、相手から感じる『嫌な感じ』。
その感覚は正体不明すぎるくせに、私の第六感に確実に働きかけている。
その違和感が、さらに私の危機感を煽る。
ストレスすごい。
無意識に体が戦闘態勢に移行し始める。
私が狙われる理由って・・・。
・・・。
「最近、私のこと見てましたよね」
「いや・・・。
見てたといえば見ていたが」
「『私が可愛いすぎて、ついつい見てしまった』とかっすか?
そっちがその気なら、相手するっすよ」
「・・・っ」
見た目からの判断では、相手は純粋な魔術師。
ならば、近距離戦に持ち込む。
「行きます!」
本日11戦目の戦闘開始。
相手の意表をつくため、私は一気に距離を詰めた。
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