Chapter11 【魔術補足】 高度な治癒術
「エレナ、体のほうは大丈夫?」
「もう完全絶好調だよ。
一ヶ月くらい休んでたしね」
「よかった」
「ノムの治癒術のおかげだよ。
こんなに早く、完全復活できるって思わなかった」
「私の治癒術は、怪我の初期処置のときだけだし、エレナの自然治癒力がすごかった、とも言える」
「そんなにすごいのかな?」
「治癒術で自然治癒力を高めてたから、っていうこともあるけどね」
「リカバリプラスっていう治癒術だよね。
最初は、ほんとうに効果が有るのか無いのか・・・いや無い、って感じだったけど。
実際、早く治ったってことは、効果あったってことなのかも」
「今回エレナに教えた魔法は、自然治癒力を少しだけ上昇させるだけの術。
傷が目に見えるほど、すぐに治るような魔法じゃない。
でも、もうちょっと上達すれば、効果を実感できるようになる」
「んー、そーなんだ。
でも前、三点収束の習得練習で怪我したときにノムにかけてもらった治癒術は、怪我がみるみるうちに治っていったよね。
あれはリカバリプラスじゃないの?
「原理はリカバリプラスと基本同じ。
魔力量が大きいだけ。
対象の自然治癒力を急激に上昇させて、目に見えるほどの速さで怪我を治すレベルの治癒術。
それは、ヒーリングと呼ばれる。
つまり、多くの人が想像するような普通の回復魔法は、このヒーリングにあたる。
でも、ヒーリングレベルの治癒術を実現するのは、魔術技能的に高度。
エレナがヒーリングを使えるようになるのは、もう少し後になるかな」
「うーん。
でもはやく覚えたいな」
「治癒術に頼りすぎるのは、あまり良くないかも。
薬草学とか、医学とか。
そういうことも勉強すれば、もっと効率よく怪我を治したり、コンディションを整えたりできる。
特に、エレナが冒険者として旅をするなら、薬草学は覚えておいたほうがいい」
「うーん、そーするー」
「あと、治癒術には欠点があるの。
それは、消費魔力が大きいこと。
だから、相手の攻撃で瀕死のダメージを受けて、それを回復しようとしたら、体力は回復したけど、今度は魔力がなくなってしまう。
そうなったら、相手から攻撃を受ける一方になって、また瀕死になる」
「それは嫌だね」
「だから、自分より相手のほうが強かったら、戦闘中に治癒術はそんなに使えない。
残り魔力量にも気配りしながら使わないといけない」
「治癒術ってどこまでの怪我を治せるの?
いや、例えば、切れた腕をくっつけるとか。
破損した臓器を復元とか、死んだ人を生き返らせるとか」
「一応、全部できる」
「えっ、できるんだ」
「でも、腕が切れてからとか、死んでからの時間が問題になる。
時間が経つとどんなに優秀な治癒術師でも回復不可能になる。
だから、重症を負ったらすぐに治癒したほうがいい」
「私もできる?」
「無理そう。
基本的な治癒術は自然治癒力を高めることで怪我を治す術。
単純な怪我はそれで治る。
でも複雑な怪我や病気はそれでは治らない。
高度な技能をもつヒーラーは、それ以外の技能を使って治癒術を実現する。
それは、とても難しいの」
「・・・」
「難しい理由は、『封魔防壁』があるから。
封魔防壁は、『相手の魔法を自分の体内に入れさせない』働きをする。
普通の治癒術は、その魔力が『私は攻撃魔法ではないですよ』という情報を持っている。
でも、複雑な治癒行為を行う場合は、比較的攻撃魔法に近い魔力の種類になる。
だから、それを治療対象体内に持って入ることが難しく、結果、実現が難しい。
これは、呪術の防壁通過性という話と関連してくる」
「ごめん、よくわかんなくてちょっと寝てた。
でも、ノムが魔術の理論に対して、いろんな知識や持論を持ってることはわかったよ。
私もいつか、それをちゃんと聞いてあげられるくらいになりたいかな」
「ふふっ、楽しみにしてる」
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